つくろう、島の未来

2024年04月20日 土曜日

つくろう、島の未来

有人離島(約400島余り)のうち約9割が人口減少にある日本。島の未来づくりのヒントを求め、リトケイ「島の未来づくりプロジェクト」サポーターや読者の皆さんが聴講するなか、公開インタビューを行いました。

ゲストは『都市と地方をかきまぜる』の著者であり、「日本食べる通信リーグ」代表理事の高橋博之さん。9月某日に都内で行われたリトケイ編集長・鯨本あつこによるインタビューの全文を全5回でお届けします。第1回はこちらから。

第2回 都市住民の「心に潜む化物」とは?

鯨本

第1回からの続きで)離島などの「地方」と「都市」は常日頃、「どっちが良いか?」と対比され、語られることが多いですが、そんな中、高橋さんがおっしゃる「どっちかを選ぶのではなく、両方の良いとこ取りをできるような、地図上にないコミュニティ」は理想的ですね。

高橋

どこで暮らすかじゃなくて、どう生きるか。どっちで暮らすかということで揺れ動いているんだったら、それごと抱きしめて暮らしていく生き方を僕らで創造すればいいと思って、「都市と地方をかきまぜる」になったんです。

鯨本

なるほど。『食べる通信』は読者に「どう生きるか」を考えるきっかけも生んでいるんですね。

高橋

補完関係なんです。

たとえば東京と岩手の関係って、人間でいえば頭と体。もっと言うと人工物と自然。意識と無意識、西洋と東洋、という考え方にすごく似ているので、どっちが良いとか悪いとかじゃなくて、両方が必要。

そのバランスをとらなきゃいけないのに、今は極端によりすぎているので、バランスを取りたいんです。

鯨本

都市と地方が両極であるなら、都市と離島は端っこと端っこ。とても参考になります。

この場では、話を島にも寄せていきたいのですが、たとえば、離島地域の多くには、ものすごいスピードで人が減っているので、これから先の未来をどうしていこうか? という話があります。とはいえ島にはキャパがあり、人が増えすぎても良くないので、やはりバランスが重要と思います。

鯨本

それで、たとえば「島の交流人口が増えたらいいな」とおっしゃる島の人もいますが、島外から島を訪れる人の多くは都市の人だと思います。

なので、都市の人々って一体、どんなマインドにあるのかを知ることも大事と思っているんですが、都市住民のマインドの例として、高橋さんはご著書で「都会の人たちは『心に潜む化物』と戦っている」と表現されていました。

都会に住んでいるからこそ病む何かについては、ここ(会場)にいる人は東京近郊の方なので全員理解できるかもしれませんが、たとえば島にずっと住み続けている人とか、都会に一度も住んだことのない人ですと、都会の人の病みを想像できない人もいらっしゃる可能性もあります。そんな方に対しては「心に潜む化物」をどういう風に説明するのが良いでしょう。

高橋

これはね、難しいです。
僕も田舎の人に、「都会の人たちとこういう化け物を退治しているんだ」っていうのを言葉で説明するけど、やっぱりわからない。

鯨本

やはり。

高橋

でも時々、岩手の漁師とかを東京につれてきて、イベントに登壇させると、浜では「うおりゃー」とやっているのに、マイクを持たせるとすっごく声が小さくなるんです。

鯨本

ふふふ。

高橋

それで2日ぐらい経つと「もう帰りたい」って言い出すんです。

会場

(笑)

高橋

なんで?っていうと「海みえねー」って(笑)。

「心に潜む化物」を田舎の人にどう伝えるのが良いかは僕もまだわかりませんが、田舎の人たちにとっては、
未だに都会は光り輝いていて、生き辛さを増している人がたくさんいることは知らない。そこを、癒す力があなたたちにあるんだということを知ってほしいです。

鯨本

(大きくうなずく)

高橋

地方創生でも「自分の足元を見ろ」っていうんですけど、僕は「都会の足元を見ろ」と言っています。そうすれば、田舎にどういう強みがあるかが分かるはずだと。

会場

(うなずく)

高橋

……でもやっぱり、田舎の人たちに伝えるのは難しいですね。
逆に、都会の人たちに田舎の良さを伝えるのも難しい。自然の良さとかは、言葉で伝えるよりも行って体感してもらうしかないので、本当に難しいんです。

鯨本

確かに。私は18歳まで田舎で過ごしたので、自然の良さも体感していますが、まったく体感されてこなかった方だと、理解したくてもできないかもしれません。

高橋

もうひとつ言っていいですか?

鯨本

どうぞ。

高橋

最近、オウムの幹部が処刑されたじゃないですか。
この事件は当時からすごく興味が持っていて、死刑囚の手記なども読んだんですけど、生きる実感とか、生きるリアリティの話をしている人たちがいるんですよね。

鯨本

ふむ。

高橋

あの人たちの特徴って、高学歴で理系出身で都会出身。いわば頭の中の世界で生きてきた人たちが、最終的にヨガという体を動かすところに行っているんですよね。それで最後に道を踏み外してとんでもないことをしてしまったわけですけど、あの人たちが特殊だと言って死刑にしても、まったく問題解決しないと思うんです。

今はあの当時よりもますます、生きる実感が湧きにくい社会になっています。それがあの「心に潜む化け物」なんですけど、そんな化け物の正体を、ちゃんと僕らは掴んでいかないといけないなと、強く思いましたね。

鯨本

高橋さんと養老孟司先生が対談されている中では「脳化社会」ともおっしゃっていましたね。

そういわれると、頭の中がすごく忙しくなっている都会の方々に『食べる通信』であれば、食べることを体感してもらい、私たちリトケイの場合は、離島に行って島を体感することで頭の中の忙しさを解いてもらえるかもしれませんね。

会場

(うなずく)

鯨本

それでは次の質問に移ります。いま、離島地域はものすごく人口が減っていて、約400島の約9割が人口減少に歯止めをかけきれない状態にあります。

高橋さんはご著書で「その町に暮らす人の現状に思いを馳せて、未来を案じて継続的に関わりを持ち続けられる方」という「関係人口」を提唱されていて、私も島にそういう方が増えるのもいいなと思います。

ただ、一方で地域側は「誰でもいいわけじゃないぞ」とも考えるかと思うので、高橋さんが考える「良き関係人口」について教えていただきたいです。

高橋

まず、口だけ番長はだめだね。口挟むだけのやつはいらなくて、口出すんだったら汗かけと。あとは、島に行ったらなら島の現状を知り、自分の頭でそこの問題は何なんだって主体的に考えるような人じゃないといけないような気がします。

鯨本

実際に、汗をかくというところでいうと『食べる通信』の読者にはどのような方がいらっしゃいますか?

高橋

たとえば、岩手県山形村に短角牛を育てる生産者がいて、関係人口になった都会暮らしの読者が現場まで行って、一緒に餌やり体験などをしていました。短角牛は国産の餌のみを与えることがモットーでしたが、ある時、短角牛を買い取っていた企業の都合でコスト高が見直され、外国産の餌も導入されはじめたんです。だけど、『食べる通信』で特集した生産者は、自分の牛を信じて買ってくれている人がいるからと国産でがんばっていました。そのことを知った関係人口である読者たちは、学園祭など色々な場所にいっては自主的に短角牛の良さを広めたり、新しい商品開発に関わったりしていました。

(提供:食べる通信

鯨本

関係人口が生産者の味方になるわけですね

高橋

もう1つ、関係人口は五分の関係じゃないとダメなんですよ。

鯨本

ごぶ?

高橋

要は「助けてやる」「支援してやる」という主従関係っていうか上下関係っていうのはうまくいかない。

片思いだと恋愛だって長続きしないのと同じで、両思いでないとダメ。関係人口は遠距離恋愛に似ているので「遠恋副業」と表現している人もいましたね。

<3>に続く

特集記事 目次

島づくりのヒント「島と都市をかきまぜる?!」

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