有人離島(約400島余り)のうち約9割が人口減少にある日本。島の未来づくりのヒントを求め、リトケイ「島の未来づくりプロジェクト」サポーターや読者の皆さんが聴講するなか、公開インタビューを行いました。
ゲストは『都市と地方をかきまぜる』の著者であり、「日本食べる通信リーグ」代表理事の高橋博之さん。9月某日に都内で行われたリトケイ編集長・鯨本あつこによるインタビューの全文を全5回でお届けします。
第1回 島と都市をかきまぜる?!
- 鯨本
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みなさんこんにちは。
本日はリトケイの公開インタビューにお越しいただき誠にありがとうございます。
進行とインタビューの聞き手を担当します離島経済新聞社の鯨本あつこと申します。
本日はどうぞよろしくお願いいたします。
(会場 離島キッチン日本橋店)
- 会場
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(拍手)
- 鯨本
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私たちは普段、リトケイの掲載記事をつくるために、島にゆかりのある方々など、色々な方にインタビューをするんですけど、このインタビューがすごく楽しいんです。
毎回、すごく面白い話を聞いているなぁと思いながら、1対1か、カメラマンがいるかいないかの状況で話を伺うんですが、せっかく面白いので、みなさんにもリアルに聞いていただければと思い、今回はじめて公開インタビューという形をとらせていただきました。
- 高橋
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はじめて?!
- 鯨本
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そうなんです。今日は18時半から19時半まででインタビューさせていただきますが、19時半になりましたら会場の皆さんと乾杯したいと思います。仕事の後はやっぱり乾杯ですから要するに打ち上げつきの公開インタビューということです(笑)
- スタッフ
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(うなずく)
- 鯨本
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さて、まずは私たちが高橋さんに質問をしたいと考えた背景について説明させていただきます。
私たち離島経済新聞社は、2010年のスタート以来、約400島ある日本の有人離島地域にある本質的な価値や課題を知っていただけるようメディアによる情報発信と、離島地域の地域づくりに関わる活動をさせていただいております。
皆さんも感じられているかもしれませんが、最近はテレビでも雑誌でも、毎日どこかで「離島」に関する情報を見ることが増えていて、離島がメジャーになってきたなぁとも思います。
でも、私たちが『季刊リトケイ』に掲載する「離島地域の人口動態」という企画を作るために島の人口を追いかけていると、島が情報の世界で目立ってきていても、やっぱり人は減り続けている。
有人離島専門フリーペーパー『ritokei』掲載の「有人離島の人口変動」
- 鯨本
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そこで私たちも「このままでいいんだろうか?」と考え、リトケイとして「島の未来づくりプロジェクト」を立ち上げ、サポーター会員の皆さんや読者の皆さんと一緒に島の未来について考えていける機会をどんどんつくっていきたいと考えています。
今回の公開インタビューもそのひとつで、高橋さんの活動をまとめられたご著書『都市と地方をかきまぜる』を読ませていただきながら、きっと高橋さんが島の未来づくりのヒントを持っておられるのではないかと感じ、このインタビューに至りました。
ということで、今日は私が代表してお話を伺い、進めさせていただきます。
- 会場
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ぱちぱちぱち。
- 鯨本
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まず、聞き手が何者かも伝えておきたいので、簡単ですが、私自身の自己紹介もさせていただきます。
私は2010年にリトケイを立ち上げたんですが、離島地域を専門にしているものの、離島出身ではなく、大分県日田市という九州出身です。2人の子育てをしている事情から日田に住んでいるので、今日も朝から上京してまいりました。地元の人口は6万人台なので、今日のインタビューでも、過疎傾向の田舎に暮らす日本人のひとりとしての立場と、リトケイ編集長として日本の離島を知る立場と、島に暮らす人の立場とを行き来きしながら、高橋さんからヒントをいただきたいと思います。
さて、本日のゲスト高橋さんにお話を伺っていきたいと思います。まずは、高橋さんご自身と『食べる通信』について自己紹介をお願いします。
- 高橋
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載るの?
- 鯨本
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載ります(笑)
- 高橋
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(笑)
僕もインタビューする仕事していて、『東北食べる通信』という仕事をはじめてインタビューをされる機会も多くなってきたけど、公開インタビューというのは初めてです。公開インタビューってなんか緊張するなと。国会の証人喚問じゃないけど……。
- 会場
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(笑)
- 高橋
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都合の悪いことは刑事訴追の恐れがありますから答弁は差しひかえますといえばいいと思って答えます(笑)。まずは自己紹介ですけど、「食べる通信」ってご存知ですか?
- 会場
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(手をあげる)
- 鯨本
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7割くらいですね。
- 高橋
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『食べる通信』というのは、一言で言うと「食べ物付きの情報誌」です。
今時の女性誌だと付録にバッグが付いていたりしますが、『食べる通信』はリトケイと同じくらいのタブロイド紙で、おまけとして「食べ物」が付いてきます。
『食べる通信』イメージ(提供:食べる通信)
- 高橋
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そこに何が書いているのかというと、食べ物をつくった生産者のライフストーリーです。どんな人がつくっているのか、どんな思いで、どんな苦労と感動があり、創意工夫があるか? という生産現場の物語を読んでから、食べてもらう。同じ食べ物でも、背景を知って食べるのと知らないで食べるのではまったく美味しさが変わるんです。
- 鯨本
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(うなずく)
- 高橋
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その後は特集した生産者と、読者である都会の生産者をSNSでつないでいます。例えば今までスーパーで買ったものに「ごちそうさま」を言えるチャネル(通路)はなかったんです。それを言えるようにすると、皆さんは想像以上に「息子と食べた」とか「おいしくて感動した」とかしゃべってくれる。
- 鯨本
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素敵ですね。
- 高橋
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今までは生産者も出荷して終わりで、どれだけ工夫してつくっても、どこの誰が食べてくれているか分からなかったわけです。だけど、ネット上とはいえ食べた人の感想を聞けると面白いわけで、やりがいになります。
オフラインでも生産者と読者は交流し、生産者を気にいった読者は生産現場まで行って一緒に畑仕事をしたりしながら、その地域やその人に関わりを持っていくんです。
『食べる通信』到着後はSNSで「ごちそうさま」を伝えることもできる(提供:食べる通信)
- 鯨本
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都会の読者にとっても、生産者にとってもこれまでなかったチャネルなんですね。
- 高橋
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他にないので5年前に始めたんです。「ふるさと難民」って、僕は半分皮肉を込めて呼んでいますが、「帰るふるさとが無い」という人が都会に増えていて、ふるさとに憧れているような話をする人も多い。
無いなら作ればいいけど、きっかけがない。それなら、『食べる通信』を通じて出会った生産者のところを自分のふるさとにしていけばいい。だから僕は『食べる通信』を新しいふるさとをつくるパスポートとも言っています。
『食べる通信』をパスポートに生産者のもとへ訪問する読者(提供:食べる通信)
- 鯨本
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ちなみに高橋さんは、その前はどのようなことをされていたんですか?
- 高橋
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出身は岩手県の花巻という農村で、県議会議員をやっていていました。37歳の時に震災があってじゃあ俺が先頭にたって復興してやる!って、知事選に出たところ現職に大敗しまして、政治は引退して事業をやろうと。
- 鯨本
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面白い経歴ですよね。しかし、ここを掘り下げていくと後の質問にたどりつかないので、ここは先に進めてください(笑)。
「都市」と「地方」という両極に対して『食べる通信』は両者をつなぐようなもので、著書の中ではその2つを「抱きしめる」ような取り組みだとおっしゃっていますが、高橋さんが感じる、都会と地方の「強み」と「弱み」って何でしょう。
- 高橋
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僕は44歳なんですけど、18歳の時に田舎では人生が終わってしまう、すべては東京にあると思って東京に出てきました。上京した時は、都会のほうが豊かだと思っていたけど、29歳で田舎に帰った時はむしろ田舎のほうが豊かだと思った。いつもその二項対立で、都市と地方のどっちが豊かか?っていうのを僕自身がやっていたし、この国自体もやっているんです。どっちか選ばなきゃいけないような。
だけど今、両方で暮らして見て分かるのは、同じ日本でも全く違う世界だということです。
田舎というのは共同体を重視して、内に閉じた風通しの悪い地域社会。都会は個人を重視する外に開いた風通しの良い社会。
これまでは両方が相容れないと思われてきて、どっちかを選ばなければいけなかったんだけど、僕自身は、どちらにも良いところがあると思っています。
- 高橋
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一方で、都市生活に決定的に欠けているものは生存実感という「生きるリアリティ」と「関係性」です。田舎の関係性と違って、こっち(都会)はものすごくツルツルして合理的。そこに飢えている人がたくさんいる。
都会の良いところと、田舎の良いところはコインの裏表と思います。最近、田舎は地方創生で「田舎暮らし最高!」みたいなことも言われていますけど、やっぱり田舎で暮らすっていうのは大変ですよ。ものすごく、閉鎖的だし、どこにいっても「うちは保守的だから」という。
- 会場
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(うなずく)
- 高橋
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そもそもコミュニティの成り立ちがそうなので、保守的にならざるを得ない。ものすごく閉鎖的なのが嫌で僕も18歳で出たし、田舎が嫌と感じた人によって東京がふくれあがってきたんです。
でも、一方で田舎の良さは「生きるリアリティ」があり、合理的ではないけど助け合える相互扶助の関係性というのが未だにある。
どっちかを選ぶのではなく、両方の良いとこ取りをできるような、地図上にないコミュニティがあるなら僕はそこで生きたいなと思ったんです。
<2>に続く