つくろう、島の未来

2021年06月19日 土曜日

2019年秋、リトケイでは農家や漁師などの生産者が旬の食材を販売する産直型のECサイト「ポケットマルシェ」(以下、ポケマル)の代表であり『都市と地方をかきまぜる』の著者である高橋博之さんへのインタビューを行っていたが、その後もポケマルの勢いは増すばかり。昨年暮れには、日経トレンディ「2020年ヒット商品ベスト30」にもランクインし、同サービスを活用する離島地域の生産者も増えている。
「産直SNS」とも称されるポケマル上で行われているのは、産品の売り買いだけでない。生産者(売り手)とユーザー(買い手)の間では、「ごちそうさま」「購入してくれてありがとう」といった会話も交わされ、なかには「親戚のようなつながり」に発展する利用者もいるという。
オンライン上でつながる売り手と買い手の関係に優劣がなく、互いを思いやるコミュニケーションが成立しているのなら、それは「離れていても成立する支え合い」のひとつになるのではないだろうか?
そう思ったリトケイは、ポケマルを利用する生産者とユーザーの皆さんの協力を得て、オンライン座談会を行なった。

※この記事は『季刊ritokei』34号(2021年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

座談会参加者

後藤緋扇貝 後藤猛さん
人口14人の屋形島(大分県佐伯市)でヒオウギ貝の養殖とゲストハウスを運営。ポケットマルシェ代表の高橋さんが島を訪れたことをきっかけに2018年に販売を開始。
Twitter :@gototakeshi22

相場漁業 相場いくえさん
サロマ湖(北海道紋別郡湧別町)で牡蠣やホタテを養殖し、北海シマエビ漁も営む一家に嫁ぎ、ポケマル等を通じた販売やユーザーとの交流を楽しむ。
Twitter:@aibyome

nampunさん
大阪在住。ポケマルユーザー歴3年。日々の食材野菜、肉、魚介、果物などほとんどをポケマルで購入。生産者やユーザーとの交流を楽しんでいるヘビーユーザー

ritokei 鯨本あつこ
有人離島専門メディア『ritokei』統括編集長。座談会以前はポケマルを1度だけ利用したことのある初心者だったが、座談会を通じてあちこち(特に島々)の産品を見て回るようになった 
Twitter:@ATSUisamoto

屋形島(やかたじま|大分県)の後藤さんはポケマルをどのように活用されていますか?

最初はポケマルの空気が分からなくて他のEC(※)と同じだと思っていました。でも、去年の暮れに「ポケマル道場」(※)に参加して、ユーザーの話を聞いたとき、見えないお客さんではなく、ちゃんと人に売ってるんだと実感しました。(商品を購入してもらった時に)メッセージを送るのに「ご注文ありがとうございます」だけでは、リアクションは返ってこなかったけど、屋形島の風景写真をつけるようにしたら「島に行ってみたいです」という返答が増え、会話が豊かになりました。

※ Electronic Commerceの略。電子商取引と訳され、インターネット通販やネットショッピングといったインターネット上でモノやサービスを売買すること全般を指す

※ 2020年10〜12月に実施されたポケマル代表高橋博之氏と田端信太郎氏による、商品ブランディングと情報発信力強化のための全5回のプログラム。参加希望生産者の中から20名が選抜された。

カラフルさを語りたくなるヒオウギ貝だが、後藤さんは「味が知りたい」というポケマルユーザーの声を受けて商品情報を工夫するようになった

すごくいいですね。相場さんはどうでしょう?

今、本当に思っているのは、ポケマルなしには(重労働である)「牡蠣剥き」はできないなということです(笑)。(ポケマルでの販売も)最初は牡蠣を売るだけと思っていましたが、(ユーザーは)買ってくれて、料理してくれて、ごちそうさままで言ってくれる。買ってくれた人から「そんなに手間をかけてくれて、牡蠣剥いてくれてありがとう」なんて言われたこともなかったから、びっくりしました。

直接会ったことがないお客さんからそういう声が届いたら驚きますね。

本当にうれしくて。自分が喜んでばかりでどうしよう、ユーザーさんにどうお返ししようかと思っているうちに、(情報を)発信したくなってきて。ポケマル上で「こんな風に牡蠣をつくっているんだよ」「サロマ湖ってこんな景色なんだよ」という投稿を始めて、そのうち物足りなくなったので、Twitterでも発信するようになりました。

冬場は氷に閉ざされるサロマ湖からチェーンソーを使って水揚げされる相場漁協の「わた雪牡蠣」は、うまみ成分の豊富さも特徴

やみくもにSNS投稿しても、誰が読んでいるのか不安ですが、受け止めてくれる相手がいると分かれば、その人に向けた発信ができるのでとても良いですね。

相場さんの投稿を見ていると、「このサロマ湖からあがってきた牡蠣だ!」と感動やおいしさも増し増しになります。

生食で味わうことのできるサロマ湖の牡蠣。相場漁業では紫外線減滅海水で24時間蓄養し浄化し、ノロウイルス検査をした上で出荷している

nampunさんは、ポケマルを日常的に利用するようになって、生活や心境に変化はありましたか?

やっぱり(ポケマルを通じて)知っている方がつくっている素材なんだと実感できることですね。命がけで獲っている場面(※)などが見えると、1つの素材が本当にありがたくて、まさに「いただいている」という感じです。毎日1つひとつの料理につくり手が、私以外にもいるような感覚です。

※ 相場さんは凍った湖の氷をチェーンソーで割りながら牡蠣を獲る動画を公開している

すごく良いですね。相場さんとnampunさんは「まるで親戚のようなコミュニケーションをされている」とも伺いました。

ユーザーさんの中で一番nampunさんとお話する機会が多くて、販売期間じゃなくても、料理の写真とか子どもの就職が決まったとか、全然関係ない話で喜んでくれたり悲しんでくれたりしています。

(コロナ禍で)家族がいても心細かったり、不安に思っている毎日、相場さんとのやり取りで癒やされて、哀しいことを一緒に泣いて。ポケマルのコミュニティーでも顔や声を知らないユーザー同士で、お互いに「大丈夫?」「頑張ろうね」と言葉掛けをしたり、「相場さんの牡蠣販売始まった!」と大騒ぎして「しまった、買い忘れたー!」と絵文字で涙を流したり(笑)。

商店街の立ち話みたいな雰囲気ですね。後藤さんは、どうですか?

そういうやり取りは女性の方が得意かなと思っています(笑)。でも、マメにTwitterをあげていると、ヒオウギ貝を届けたお客さんが料理写真をあげてくれたりして、それを自分の家族にもシェアしてみんなで喜んだり。SNSをやっていなかったら、見ることのできない世界ですよね。

島にいながら全国各地でヒオウギ貝が喜ばれていることをリアルタイムに知れるのはすごいことですね。コロナ禍での販売に苦労はありましたか?

(緊急事態宣言により)飲食店が止まったので、取引がゼロになり在庫過多になりました。夏の気温では貝が死んでしまうので、どうしようと思っていた時に、ポケマルが記事として取り上げてくれ、3日で売り切れたんです。注文数で言えば300件くらい。すごいびっくりして、本当にありがたかったです。正直、卸販売のほうが手間はかからないですが、(ポケマルでは)個別に発送するような手間があっても、手間をかけただけ(ユーザーから)リアクションがあっていいですね。

美しい屋形島の海で養殖される後藤さんのヒオウギ貝は、濃厚な味わいが特徴。おすすめの食べ方は、酒蒸しやお吸い物、炊き込みご飯など

うちもホタテの市場価格が下がって困っていました。でも、ポケマルと国の補助事業(※)を利用して送料無料で商品をお届けできた期間もあって、沢山の人に注文いただけてとても助かりました。

※ 農林水産省が実施した国産農林水産物等販売促進緊急対策支援の1つである「インターネット販売推進事業」

産直SNSがコロナ禍を支えてくれたわけですね。nampunさんはコロナ禍でどんなお買い物をされましたか?

国の補助事業に該当する商品は良いんですが、対象外になる生産者さんもいて、牛肉は対象だけど豚肉や鶏肉は対象外など……。ポケマルにはそういった生産者さんが困っているという記事や、天災で被害を受けた生産者さんの情報も発信されるので、少しでも元気になってもらえたらと思って応援購入もしました。ひとつの商品を通じて、私たちユーザーは食べさせてもらい、生産者さんは購入してもらう。お互いにWin-Winで無理のない関係になればと思います。

Win-Winであり、お互いさまと感じられるようなつながりは大切ですね。

「買ってあげる」「助けてあげる」という感覚で購入するのは違うかなと。困っているなら値下げしてではなく、商品そのものの価格で購入することで、(結果的に)支え合えたらいいなと思っています。

全国各地の生産者から届けられる食材で、食卓が彩られるポケマルユーザー nampunさんの食卓。中央には相場漁業の「わた雪牡蠣」も並ぶ

そういうと、ポケマルユーザーとのやりとりでは、「指定日はありますか?」というこちらからの質問に対して、「海の都合で大丈夫です」と気遣ってもらうようなことがよくあります。

お客さんによっては「必ず指定日に送ってください」という場合もありますよね。でも実際は自然に左右されるのは当然のこと。その点、ポケマルのユーザーさんが持たれている思いやりの感覚はすごいですね。

ユーザーさんが本当に優しくて、私が配送日の日付指定をミスしてしまった時も、必死に謝ったら「どんまい」って返信がきたんです。

ははは。(一同)

お互いを思いやるやりとりが、お互いを幸せにしてくれているので、このままずっと続けたいです。

ポケマル上で成立しているような、売り手と買い手がお互いを思いやれるようなつながりが、いろんな場に広がると良いですね。

ポケマルでは「世の中捨てたもんじゃないな」と感動させられることが多くあります。モノだけを動かして売っているだけではダメで、心がないといけない。世の中には悲しいニュースが多いけれど、ポケマルで交わされる生産者とユーザー、ユーザー同士の交流をみていると、つながることで喜びや悲しみを分かち合えると感じます。
 東日本大震災のとき、報道を見て被災地のためにたくさんの人が動きました。コロナ禍の今は、消費者と生産者がつながることで、そのようなきっかけづくりができるのではないかと思っています。
 商品を介して、産地の厳しい状況が聞こえてくれば、食べる側も「何か力になれることはないか」と考え出す。「産直SNS」とも称しているポケマルは、人間が本来もっている、共感力を発揮できるツールになってほしい。ポケマルが、豊かな人間関係を育むための手段になり得るなら、離れた場所にいる顔も知らない人間同士であっても、互いに支え合えるということの証明になるんじゃないかと思います。


産直SNSポケットマルシェ

約23万人がユーザー登録するポケットマルシェ。食材の売買だけでなくユーザーと生産者がコミュニケーションをとることのできるコミュニティ機能も充実する

特集記事 目次

離れていてもつながりあえる。集まれ!島想い
他地域との間に海を隔てる島々に暮らす人々は、同じ島の上で生きる人間の数が限られるからこそ、つながりを密にし、支え合いながら生きている。 とはいえ、島の人とつながり、支え合える相手は島の外にもいる。 災害や感染症、産業衰退に人口流出など、さまざまな困難を島の外から支える人や、ふるさとの島を支える人、島でつくられたものを買い、魅力を発信する人がいる。 2020年には新型コロナウイルスの感染が広がり、今もなお、人々のふれあいや移動に制限がかかるなか(2021年2月時点)、この特集では「島と人の想い」を軸に、離れていてもつながり、支え合うことのできる島想いの輪を紹介する。 ※この記事は『季刊ritokei』34号(2021年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

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