つくろう、島の未来

2024年11月12日 火曜日

つくろう、島の未来

「こえび隊」と呼ばれるボランティアサポーターが縁の下を支える瀬戸内国際芸術祭。そんなこえび隊の事務局運営を行うNPO法人瀬戸内こえびネットワーク(高松市)は、こえび隊の活動を起点として、地域との交流や作品の管理運営等、活動の幅を広げてきました。

現在は、こえび隊事務局の運営に加え、芸術祭のパフォーミングアーツの企画運営とレストランであり、食を通して地域や訪れる人を繋ぐ作品である「島キッチン」の運営、さらに、芸術祭の魅力をより深く伝えるガイド部門など多岐にわたる事業展開をしています。そんなこえびネットワークが、新たな職員を募集しています。

募集職種は、アート作品の管理やボランティアサポーターの募集・配置を行うこえび隊事務局スタッフ、「島キッチン」のマネージャー、ツアーの企画造成からガイドまで行うツアー部門のスタッフです。

2010年のスタート以来、累計100万人を超えるアートファン、島ファンを瀬戸内の島々に招いてきた瀬戸内国際芸術祭を支える“縁の下の力持ち”NPO法人瀬戸内こえびネットワークでは、どんなお仕事が行われているのか? 春のある日、こえび隊事務局で働く5人に話を聞くと、「毎日が文化祭!」「全員野球」というにぎやかな答えが返ってきました。

島と芸術祭が大好きな人へ、瀬戸内こえびネットワークで働きませんか?

>>特定非営利活動法人瀬戸内こえびネットワークとは?
https://www.koebi.jp/management/
>>こえび隊のボランティアサポーターとは?
https://www.koebi.jp/about/

瀬戸芸を支えるこえびの本丸・こえび隊事務局の仕事とは?

ritokei

皆さんこんにちは。こえび隊事務局ではスタッフを募集されているとのこと。今日は5名がおそろいですが、皆さんがこちらで働くようになったきっかけを教えてください。

大垣

はい、イベント担当の大垣です。

左からこえび隊事務局の斉藤(さいとう)さん、大垣(おおがき)さん、石賀(いしが)さん、新名(しんみょう)さん、笹川(ささかわ)さん
大垣

高松でアマチュアの演劇をやっていた頃、現在の事務局長から「島で芸術祭がある」「ボランティアを募集している」といわれて、ボランティアで参加したのがきっかけです。

2010年に芸術祭がはじまると事務局長だけでは運営がまわらなくなったので職員になり、最初は事務局長とふたりでこえび隊事務局をはじめました。

ritokei

今、事務局は何人くらいいるんですか?

大垣

職員が7人でパートが1人、加えて現在募集中の職種が3職種、4人です。

笹川

私も大垣さんと同じタイミングで事務局長に「おもしろいことがあるからやらない?」と誘われたのがきっかけです。

香川県出身だけど当時は島が身近ではなくて。大島(おおしま|香川県)には国立のハンセン病療養所がありますが、芸術祭に関わるまではこんな近くに療養所の島があることも知らなかったんです。

ritokei

瀬戸内に限らずとも、本土側の人が近くに島はあるけど渡ったことがないというのはよく聞きますね。お仕事ではどんなことをされていますか?

笹川

最初の頃は、おまかせ……というか丸投げで(笑)、『こえび新聞』をつくるからこのアーティストを取材してきて!みたいなことがあったり。何もわからず取材をしながら、島の人やアーティストの出会いを重ねるうちにどっぷりはまりました。

職員になったのは2013年からで、それまでは高松市内の商店街で働きながらボランティアで関わっていたんですが、日中の仕事がおわると事務局でお手伝いするような毎日で、部活と文化祭が混じっているような感じでした。

ritokei

忙しそうですが楽しそうですね。

キッチンのテラスで毎月行なっているイベント「島のお誕生会」で誕生月の方に渡すバースデーカードの制作風景
斉藤

私も2010年にボランティアとして関わり始めて、事務局に入ったのは2012年。岡山に住んでるので、宇野港エリアを担当しています。

ritokei

皆さん、お住まいはバラバラなんですね。

石賀

私は地元が岡山県の北部だったので海にあこがれがありました。2010年にお客さんとして瀬戸芸に来て、2013年にバイトとして事務局に入り、職員になったのは2014年からです。

新名

私はハローワークで経理の募集を見つけて入りました。2012年から3年弱パートをして一度辞め、2019年に当時の職場で夏会期のお客さんを港で案内する業務があって、当番の日に高松港で看板を持って立っていた時に、事務局長に会って「戻ってきませんか?」と言われて職員になりました。

ritokei

皆さん、はじめはボランティアから入って職員になったんですね。瀬戸芸はものすごくたくさんのお客さんを受け入れている芸術祭なので、縁の下の力持ちがどんなふうに働いているのか興味深いです。

新名

最初は丸投げで……。みんなは仕事で島に行くので、経理として事務所に行くと、誰もいなくてレシートの山だけがある……。今は会計も労務もシステマチックになって、電子申請も年末調整もきっちりできます(笑)。

高松港ー女木島ー男木島を結ぶ船「めおん」が男木島に到着後、降りるお客さんと船に乗るお客さん(写真・宮脇慎太郎)

ひとつのアート作品・豊島の「島キッチン」をマネジメントするお仕事

ritokei

2012年にNPO化されて10年間、皆さんが事務局を育ててこられたのですね。今回は3つの職種を募集されているそうですが、どんなお仕事ですか?

大垣

まずは「島キッチン」のマネージャーです。

ritokei

豊島(てしま|香川県)にあるレストランですね。

大垣

島のお母さんたちとコミュニケーションとってお店をまわすレストランで、島で野菜をつくっているお母さんを訪ねて、おしゃべりしながら野菜を買い取らせてもらったり、「これがおいしいよ」「あれがたくさん収穫できたみたいよ」という情報を仕入れ、丸ノ内ホテル(東京)のシェフに相談してメニューを開発し、お母さんたちとああだこうだいいながら料理をつくり、ボランティアのこえび隊がお客様まで運んで「こういう料理です」と伝える……といった仕事をマネジメントする仕事です。

島キッチンのお母さんたちとの集合写真
ritokei

楽しそうです。

大垣

島キッチンも建築家の安部良さんによる芸術祭のアート作品なんです。できたのは2010年ですが2021年に日本建築学会賞をいただいていて。10年後に学会賞をとった理由は、建築だけでなくそれをとりまく活動も含めて建築だと認められたからです。

ただのレストランではなく、周りをとりまく人たちを含めてお客さんに感じていただいてはじめて、成立する作品なのです。

石賀

島キッチンは本当に、掘れば掘るほど作品としても芸術祭としても深いです。

毎年年末に行う大掃除の昼食風景
ritokei

そんなアート作品でもあり、レストランでもある店舗のマネージャーですと、やりがいもあれば苦労もありそうです。

大垣

「移住したい」「島でのんびりしたい」という人にとっては、思っていた移住生活とは違うと思われると思います。

島の人と会話しながら、例えば味噌のつくり方を教えてもらうような時間は楽しいかもしれませんが、飲食店として成立させるにはなかなか大変で、店長役がマネジメントをがんばらないとまわせません。

ホールに立つ人もボランティアが中心で、慣れている人もいれば初めての人もいます。年齢も高校生から60歳を超える方までと幅広いので、多様な人との関わりを楽しめない人にとっては大変だと思います。

島キッチンのテラスの屋根の張り替え作業。コロナ禍でこえび隊の募集ができない期間はスタッフのみが島に通い作品管理を行なった
ritokei

瀬戸芸の会期中など、お客さんの多い時期は特に忙しそうですよね。マネージャーとなると責任も重たいと思いますが、マネージャーと皆さんとの関わりはどのようになるのでしょう?

大垣

もちろん一人にはしません!私たちも現場に行ってボランティアさんと一緒に洗い物もします(笑)。

ritokei

心強いです。こえび隊の皆さんはお住まいの場所もばらばらかと思いますが、島キッチンのマネージャーはやはり島に住むのがよいのでしょうか?

大垣

できれば豊島に住んでほしいですが、小豆島(しょうどしま|香川県)から通うこともできます。お家は私たちも一緒に探します。

スタッフ全員で定期的に行う島キッチンの大掃除

島々をめぐりアートをガイドする「ツアー部門」のお仕事

ritokei

さらに心強いです。では「ツアー部門」という職種はいかがでしょう?

大垣

瀬戸芸にはオフィシャルツアーとカスタマイズツアーがあって、ツアー部門はそれらのマネジメントをします。

オフィシャルツアーではガイドさんを育成します。カスタマイズツアーは、お客さんの要望に沿って行程を組み、島々をご案内します。

ガイドといっても、地域密着型で自分の経験したことをベースに案内できるので、「こんなことができたら面白いんじゃないかな?」と興味を広げていける人が向いていると思いますね。

ritokei

島を渡り歩きながらお客さんに島やアートの魅力を伝える仕事というわけですね。

男木島のアート作品に並ぶお客さん(写真・宮脇慎太郎)
笹川

一方で旅行会社さんや島の方々との調整は本当に大変です。変更も少なくないですし。

大垣

こえび隊はみんな芸術祭のファンなので、芸術祭の魅力を感じている方であればやりがいを十分に感じてもらえると思います。

けれど、みんながファンなので(芸術祭の)会期中の初めはいつもこえび不足に陥るんです。みんな、芸術祭に行きたいので……。こえびが足りない!と思いながら島に行くと、こえび隊によく参加している人たちがパスポートを持ってまわっていたり。

つまり、こえび隊は芸術祭の一番のファンなので、事務局の仕事はそういう人たちとやる仕事といえます。

まさに縁の下の力持ち。運営を支える「事務局スタッフ」

ritokei

事務局スタッフのお仕事はいかがでしょう?

石賀

こえびボランティアの運営調整が多くて、島に行くことも多いですね。例えば、豊島の作品が開くときは、開館のフォローや作品の管理。女木島(めぎじま|香川県)、男木島(おぎじま|香川県)、大島が開館するようになったらこえびの皆さんと一緒に島に行く……など。

2022年の会期中だと1日に50人弱のボランティアさんが必要で、会期外は毎日の活動ではないものの20人弱が必要な時があります。どこでどんな活動があって、ボランティアがどのくらい必要なのかを調整して、ホームページやメルマガでこえびを募集しています。

高松港にあった作品のメンテナンス
ritokei

こえび(=ボランティアサポーター)ってどのくらいの人がいるのでしょう?

石賀

こえび隊からのお知らせを受け取るメルマガ登録者数でいえば1万人ほどになりますが、実際に活動しているこえびはここ3年で1,200〜1,300人です。

笹川

コロナ前の2019年は瀬戸芸のお客さんにもインバウンドが多く、ボランティアも世界中から来ていました。毎日100人以上のこえびが集まって、すごくにぎやかでした。私たちはこえびの皆さんに支えられていますし、国際交流も楽しめる。それもやりがいでした。

芸術祭会期中、高松港で行っている毎日の朝礼の様子。平日は20人〜30人、休みの日は40〜50人のサポーターのこえび隊や企業ボランティアが朝7時10分に集まる。朝礼は、こえび隊事務局のメンバーが取りまとめ、司会進行を行い、その日の注意事項を伝えている、1日の始まりで大切な時間
ritokei

インバウンドも多いとなると英語は必須ですか?

大垣

できる人が来てくれるとすごく嬉しいですが、できなくてもどうにかなります(笑)。

ritokei

できなくても大丈夫!ということですね(笑)。

職種を超えてにぎやかに支え合う「全員野球」

ritokei

今回、募集されている職種は3種類あるものの、皆さんそれぞれが担当を超えていろんな仕事をされている印象です。

大垣

すべての活動がつながっているので職種を超えてみんなで協力していますね。

笹川

汗だくで草刈りしたあとに、島キッチンの店頭に立って、その後『こえび新聞』の原稿を書いたり……。振り幅が広いので、いろんなことが体験できるのがおもしろいです。

本島(ほんじま|香川県)での草刈り風景
大垣

イベントを担当したり、広報を担当したり、総務や、NPO法人としての総会や理事会の準備をしたり。みんなで協力しながら、リーダーになった人が「何日までにお願い!」と声をかけて進めていくみたいな。わちゃわちゃしていますね。

全員

(うなずく)

大垣

女木島の文化祭で、島の方に「こえびもひとつ出し物やれ!」と言われて、「冬のお風呂に気をつけよう」「オレオレ詐欺に気をつけよう」という寸劇を披露したり、大島のクリスマス会でマツケンサンバを踊ったり。

ハンセン病の国立療養所大島青松園が毎年開催しているクリスマス会で、こえび隊事務局総出で行なっている寸劇。このときは、竹取物語をベースにつくった「笹取物語」を披露
新名

私は「まんじゅうの妖精」をする予定だったんだけど、あの時は強風で船が出なくてね。

一同

(笑)

大垣

私は経理だからやりません、ということはないんです。全員野球なので。

ritokei

全員野球とはいい言葉です(笑)。小さな組織は特に一人ひとりの主体性やチームワークが欠かせませんよね。では、皆さんが事務局で働く時に大事にしていることはありますか?

斉藤

人と人とのつながりですね。事務局メンバーも、こえびも、島の人も、ひとつひとつの仕事をその時集まった人たちと、たのしく安全に活動できるかを大事にしています。

石賀

私は「こうはならないように」と決めていることがあって、すべてが当たり前にならないように過ごしています。島に行くことも、島の人に何かをしてもらうことも、ここで仕事することも当たり前にならないようにしています。

島キッチンで月2回行なっている島の方向けの「お弁当の日」。この日はクリスマス直前だったためローストチキンをスタッフがサンタ姿で配達
ritokei

大事ですね。当たり前と思ってしまうと感謝を感じにくくなってしまいますし。

新名

組織が継続するためには正しい経理データが必要。(こえび隊事務局は)文化祭的な感じですが、(会計では)締め切りに間に合うよう正しいデータをつくり、毎月きちんと税理士さんに見てもらって月次決算をする。それを大事にしています。

ritokei

瀬戸芸の根幹の根幹を支える、とても大事な仕事ですね。

笹川

私は好奇心を大事にしています。いろんな仕事をさせてもらう分、正直「やだな」と思うこともあります(笑)。だから好奇心とか、興味とか、好きという気持ちを大事だと思っています。

本島から丸亀港へ向かう船、手前で旗を持っているのはお見送りをする本島の島民(写真・宮脇慎太郎)
大垣

私は「事件は現場でおきている!」ですね。とにかく現場に行って、色んな人の話をフラットに聞き、自分で感じて判断するのが大事です。

この仕事でやりとりをする相手はアーティストや島の人だけではなく、市町や県の人もいます。行政とアーティストの間に立って何かをやろうとするとき、島の人から「いいよ」と言われても行政からNGがでることもあって、そこでアーティストの話をよく聞いて、そのイメージを伝わるように翻訳して説明するとOKがでたりするんです。

そうしたやりとりで、どうしても調整しきれないことがあったら事務局に持ち帰ってきて、みんなで考えて、現場に戻す。現場で突破口を掴んでくることを大事にしています。

ritokei

なるほど。これだけたくさんの島とたくさんのアート作品を支え、たくさんの人を招いている芸術祭のバックヤードに必要な心構えが見えました。最後に、新しくスタッフとしてやってくる人へのメッセージをお願いします。

大垣

現場にいけばどうにでもなる。やる気と好奇心をひっさげてきてください。現場にいけばスキルは身につく!

斉藤

事務局の仕事はどれもひとりではなく、みんなでつくっています。やる気と好奇心を持って、芸術祭をより楽しみたい、理解したいという人に来てもらえたら嬉しいです。


こえび隊事務局でのお仕事の詳細・応募は公式ホームページをご覧ください。

>>【採用情報/こえび隊事務局・島キッチン・ツアー部門】NPO法人瀬戸内こえびネットワーク新規スタッフ募集
https://www.koebi.jp/news/events/entry-3376.html

     

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