つくろう、島の未来

2024年04月20日 土曜日

つくろう、島の未来

佐渡島(さどがしま|新潟県)で、廃校となった歴史ある小学校が、酒造場「学校蔵」として蘇った。酒造りのほか、島外からゲストを招き勉強会が開かれるなど、学びや交流の場として活用されている。(写真提供:尾畑酒造株式会社)

佐渡島の「学校蔵」プロジェクト(前編)はこちら

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トキが暮らす島の自然の恵みを活かした酒造り

学校蔵で造るお酒(※酒税法上、現在は「リキュール」表記)には、全て佐渡島産の原料が使われる。尾畑酒造で専務を務める尾畑留実子さんは「地場産の酒造好適米『越淡麗(こしたんれい)』で仕込んだ純米酒に、佐渡産の杉材を浸け込み、木造校舎をイメージさせる爽やかな木の香りをまとう味わいに仕上げました。酢締めの魚介などによく合います」と語る。

佐渡島の加茂湖は新潟県内でも有数の牡蠣産地として知られ、亜鉛を多く含み殺菌効果の高い牡蠣殻を水質改善に活用した「牡蠣殻農法」で米が生産されている。学校蔵で酒造りに採用している酒米「越淡麗」も「牡蠣殻農法」で生産される。
この米は、農薬や化学肥料を通常の半分以下に抑え、冬場も田に水を張って生物が住む環境を保つ農法で生産される『朱鷺と暮らす郷づくり認証米』にも認定されている。

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一度は野生絶滅したトキ。2016年現在、佐渡島に約150羽が暮らす

2014年11月には、佐渡市とIR3S(東京大学 国際高等研究所サステナビリティ学連携研究機構)による「低炭素社会づくり」の社会実装プロジェクトとして、学校蔵敷地内のプール跡地に太陽電池パネルが設置された。2015年5月から、学校蔵で必要な電力の約40パーセントを太陽光発電でまかなう。今後は徐々に再生可能エネルギーの導入量を増やし、近く100%再生エネルギーでの酒造りを目指している。

島の内と外を結ぶ、学びと交流の場づくり

学校蔵では、2014年から地域づくりなどをテーマに年一回のペースで講師を島に招き、学びの場を提供している。『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』などの著作がある地域エコノミストの藻谷浩介氏らを招き、「学校蔵の特別授業」と題したワークショップには、毎年島内外から参加者が集まる。特別授業の様子は『学校蔵の特別授業~佐渡から考える島国ニッポンの未来』(尾畑留美子 著/日経BP社)として書籍化されている。

2015年からは、酒造りの研修も受け入れている。初年度に酒造りに取り組んだ3チームの一つ、産経新聞社は、オリジナルレシピで製造した酒を「辛口産経」としてネットストアで限定発売。記者による酒造体験記のWeb連載も行い、発売した限定酒は即完売するほどの反響があった。

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2016年秋に東京で催された、尾畑酒造のお酒を楽しむ会

海に囲まれ、自然風土、文化、歴史の多様性に富みながらも人口減少や高齢化などの課題に直面する佐渡島は「日本の縮図」だと尾畑留実子さんは捉えている。
「『学校蔵』の活動やお酒を通じて、多くの方に佐渡島の魅力を知っていただき、この島から日本の未来を考えていくきっかけになればうれしいです」(尾畑さん)

一度は廃校となり、創造と学びの場として蘇った「学校蔵」から、島の内と外を結ぶ様々な活動の輪が広がっている。


【関連サイト】

「学校蔵」プロジェクト ホームページ


書籍『学校蔵の特別授業~佐渡から考える島国ニッポンの未来』


尾畑酒蔵株式会社「真野鶴」 ホームページ

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