2018年、ユネスコの世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に登録された黒島(くろしま|長崎県佐世保市)。島のシンボル「黒島天主堂」だけではない、じんわり温かな魅力があふれています。
させぼ黒島便りでは、黒島に暮らす3人が“島の住民だからこそ知っている島の魅力”を、様々な角度からご紹介。第1回目は島に嫁ぎ、島のカフェで島の魅力を伝える山内由紀さんが、「水」の魅力について前後編でお届します。
写真・文 山内由紀
井戸水を貯める古い貯水タンク
天然の水を飲める幸せ
島民は井戸水を飲料水にする際は一度沸かして使っていますが、生活用水には井戸水や沢の水をそのまま利用されている方もいます。
ある島民にこんな話を聞きました。
昔、島の漁師さんたちは漁で使った仕事着は屋外においてある洗濯機で洗濯していました。裏山の沢の水を直接洗濯機に注ぎ使っていると、なんと!洗濯機の中にピョンピョン飛び跳ねている川エビが!小さなエビは洗濯されまいと、水面に浮かんだ洗濯物に必死にくっついていたそうです。
沢の水はエビも住めるようなきれいな水だったのですね。家の裏にはカニなどもよくいました。
そんな井戸水は、夏は冷たく、冬はほんのり温かく感じます。
私が水の良さを感じたのはお風呂でした。
子どもがまだ小さかった頃に大阪から引っ越してきたのですが、黒島で過ごすうちに荒れていた子どもの肌がスベスベになったことや、私の髪がシャンプーしてもきしまなくなったことなど。これが塩素の入ってない水なんだと、水の違いを実感しました。
それから、まろやかで飲みやすく、とにかく美味しいこと!!お茶やコーヒーも、みそ汁も美味しくなるのです。ちなみに毎月の水道代はタダ(笑)!
ただし、使いすぎると井戸の水はなくなるし、井戸の維持費やポンプ等の故障があれば修理代はかかります。
ですが、ありあわせの材料があればなんでも作るし修理もしてしまう器用な島民たち。井戸の維持も自分で行っています。
島ではこうしたシンプルな井戸や、シルバータンクなどが見られます
中硬水で美味しい「黒島の天水」
黒島に降った雨は、長い時間をかけて御影石の層をゆっくりと通りながら貯水されていきます。鉱石が含まれている御影石を通ることでミネラル分を多く含むミネラルウォーターができあがるのです。
黒島では、その水をたくさんの人に味わっていただけるよう「黒島の天水」としても販売しています。
左:ミネラルをたっぷり含む「黒島の天水」/右:「黒島の天水」製造工場
工場内の深井戸から汲み上げた「黒島の天水」は厳しい品質検査を通過し食品衛生基準や栄養成分ともにAクラスの天然水で、水がまろやかになるよう工場内でアルファ派のクラシック音楽を流しています。
「黒島の天水」は日本でも珍しい硬度114mg/Lの中硬水。カルシウムとマグネシウムが2対1の割合で含まれ、人間が必要とするバランスともいわれています。
島のおじいちゃん、おばあちゃんたちの元気さやお肌の若さは、きっと黒島の水のおかげじゃないかと私は勝手に想像しています。
そして、中硬水はコーヒーにもぴったり。私が店長を務めている「Cafe海咲」では「黒島の天水」に合わせて焙煎ブレンドしたスペシャルティーコーヒー豆でコーヒーを淹れています。
また、この「黒島の天水」と黒島の赤土で育ったサツマイモで作った焼酎「黒島」はお土産としても人気があります。
フルーティーでとても飲みやすく、女性や若い方からもご好評頂いております。
「黒島の天水」と黒島の赤土で育ったサツマイモで作った焼酎「黒島」
Cafe海咲の店内は木のぬくもりを感じられる癒しの空間です。
工場横の広場にはマリア様の御像を飾った「ルルドの広場」があります。
このルルドの広場は、フランスルルド地方にあるカトリックの巡礼地や聖地として有名な「ルルドの泉」にあやかって作りました。
ルルドの泉とは、光に包まれた聖母マリアが数回出没したといわれる洞窟の近くから湧き出した水が、どんな難病でも治してしまうという「奇跡の水」が流れる泉のこと。
ちなみに黒島にあるルルドからは「黒島の天水」の原水が流れています。
「黒島の天水」の源水が流れるルルドの広場のマリア様
黒島にお越しの際は、黒島ならではの静かでゆっくりと流れる時間のなかで、ここでしか飲めない黒島ブレンドコーヒーを一度皆さんに味わってもらえたら嬉しいです。
フェリーから見えない黒島の南側へ船で行くと、断崖絶壁にある見事な地層のグラデーションが見られます。そこには、いくつも湧き水が流れた跡もありそれは美しい光景です。
海から見た黒島の断崖絶壁。地層のグラデーションが見事です
およそ200年前、長崎の外海地区辺りから来た潜伏キリシタンたちが、船から初めてこの光景を見た時、
「あぁ~!見てっ!あそこに水の流れよる!井戸ば掘ればきっと水の出っばい!!ここに上陸すうで!」
と、言ったのではないか・・・と想像してしまいます。
プロフィール/山内由紀
長崎出身。結婚後、大阪での生活から主人の実家がある黒島に移住。現在は「Cafe海咲」の店長。黒島のカトリックと仏教の交わる深い歴史に惹かれ、研究の日々。手描きの地図「くろしまっぷ」を製作。年に数回の「海咲通信」発行や、facebook、Twitterなどで黒島やCafe海咲の情報発信中。
【関連リンク】
九十九島の恵み「黒島の天水」