つくろう、島の未来

2024年11月22日 金曜日

つくろう、島の未来

ある日、リトケイ編集部に数々の島を訪れ島旅イラストエッセイストとして活動する松鳥むうさんから、「宝島(たからじま|鹿児島)に漂着した油除去ボランティアに行って来た」と連絡がありました。今年1月に起きた東シナ海のタンカー船衝突事故による重油が漂着した島々の現状が気になるリトケイは、松鳥むうさんにレポートを依頼。前後編でお届けします。

宝島の入口。港では巨大壁画がお出迎え

被災は突然に…

2018年1月14日に、中国沖で石油タンカーが貨物船と衝突し、沈没するという事故があったコトをご存知ですか?

しかも、そこから流出したと思われる油が1月末に奄美大島(あまみおおしま|鹿児島)北部と、トカラ列島宝島の東側に流れ着いたコトも。

島好きの方なら、SNSで目にされた方もおられるのでは?でも、地上波放送では、ほとんど取り上げられませんでした。

ネットで奄美大島の状況が少しずつ流れてくるものの、その隣にあるわずか130人程と圧倒的に人口が少ない“宝島”の現状は、微々たるニュースしか入ってきません。

SNSでは島の住民が自分たちの仕事を休んで油除去をしているという話が、ちらほらと小耳に入ってきたりしていました。島の人が起こした事故じゃないのに、何故?国が素早く対応する気配もあまり感じられませんでした(当時)。

「実際、どうなってるの!?」宝島に何度か訪れている私。キレイな珊瑚礁の海に流れ着いた油のコトも、海関係の仕事をしている島の人たちのコトも気になって仕方がないのです。

いち庶民の私が気にしたトコロで、どうこうなる問題ではないのだけれど。でも、海は、どこまでもどこまでも繋がっているから、島国日本に暮らす人間としては他人事でもないと思うのです。

そんな中、3月上旬に宝島メンバーが油除去ボランティアを募りはじめました(※2018年5月現在、油除去に目途が付いたためボランティアの募集はすでに締め切られています)。島に流れ着いている油に毒性はないという調査結果を受けてのコトでした。

島への往復交通費だけ自分で支払えば、島内での滞在費(宿泊代&食費)は無料とな(※ボランティア同士男女別相部屋の共同生活で、自炊ではあるけれど)!これは、行くっきゃないでしょう!

絶景での油除去作業

油が流れ着いて早2カ月。油除去専門業者が入って50日程が経っていた4月上旬。重くて弾力のある油をせっせと運ぶ体力勝負の作業かと思いきや、その作業時期はとうに過ぎていて、岩場にこびり着いた黒い油を、ちまちませっせと削り取るという、なんともまぁ、根拠のいる作業がボランティアの仕事でした。

油は服に着いたら取れないので、現地で支給された白いツナギ式の防護服を着用し、手袋をはめ、長靴を履きます。岩場の道を行くのでヘルメットも装着必須なのです。

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作業場までは、岩場を越えつつ片道30分ほどかかる時も…!

日陰のない海岸で、コツコツと油を削り取ります。麦わら帽子をリメイクしてヘルメットと合わし、日焼け対策をしている人も!

気温20℃をゆうに超し、日差しがちょっぴり肌に刺さります。自分の体温と外気温で防護服内の温度がじわじわと上昇。つまり、必然とサウナ状態。まだ、作業も始まる前から、すでに蒸し暑さでクラッときます。

そして、問題の「油」ッ!ヘラやワイヤーブラシを使って削り取るのですがサンゴが隆起してできた宝島の岩は珊瑚の岩。つまり、穴ぼこだらけ!

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穴ぼこのサンゴの岩に入り込んでしまった油

油を削るワイヤーブラシとヘラ、油を入れるバケツ。この3点セットが油除去道具

小さな穴に入った油が、これまた、なかなかキレイに取れません。乾燥していない半生レア状の油は、油独特の臭いもふわ~っとするので、暑さとあいまって、頭がクラクラ~と、する瞬間も。

各々コツコツと一点に集中する作業は、なんだか座禅で言うトコロの「無」の境地です。悟りを開けそうです。はたまた、こげ茶色のとろりんとしたレア状の油は、次第に生チョコに見えてくるのです。きっと、暑さのせい……。

油除去作業は自分の仕事を休んで油除去作業を行っている島の人と業者の人たち、そしてボランティアで行います。ボランティアは業者のおっちゃんたちと作業を共にします。業者の人も島の人も2月半ばから、ず~っと日々コツコツと作業をしているとのコト。性格にこまめさが足りない私は、頭が上がりません。

ボランティアに来ているのに、早く休憩したくて油を削る速度も徐々にスローダウンしていきます。この忍耐力のなさよ、情けなし。

でもですね。島好きには、とびっきりステキなコトもあったのです。油除去作業は、普段観光では決して入れない岩場の海岸に行けるのです。途中、ロッククライミングか!?と、やや慄く難所もあるけれど、不思議なグラデーションの岩が広がる宇宙のような場所や、特産品のイセエビが潜む岩場もありました。

ボランティアで来なければ知るコトがなかった場所。ちょっと皮肉な状況ではあるけれど。宝島のお気に入りの場所が、また、ひとつ増えたのでした。

グラデーションの岩場が広がる

「ボランティアしながら、こんな素晴らしい景色が見られるなんて贅沢ですよね~!」
ボランティアメンバーの女子大生の子が、岩場の海岸を歩きながらつぶやいた言葉。その一言が、なんだかとってもうれしくて、油まみれの手袋も、防護服のサウナのような暑さも、ちょっぴり、吹っ飛んだ瞬間でもありました。
(記事後編に続く)



松鳥むう(まつとり・むう)

イラストエッセイスト。今までに訪れた日本の島は84島。ユースホステルやゲストハウスに100軒以上宿泊。著書に『島旅ひとりっぷ』(小学館)、『ちょこ旅 沖縄+離島』『ちょこ旅 小笠原&伊豆諸島』『ちょこ旅 瀬戸内』(いずれもアスペクト)、『あちこち島ごはん』(芳文社)、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)、『おばあちゃんとわたし』(方丈社)等。2018年夏には新刊『トカラ列島 秘境さんぽ』(西日本出版社)発売予定。

http://muu-m.com/

     

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