この春、鹿児島と沖縄の中間に8島が連なる奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)の沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)に、通信制の大学が開校した。島に暮らしながら大学卒業資格が得られ、教員免許や社会福祉士の資格取得にも挑戦できる。高等教育機関の誕生に、島を担うリーダー人材の育成や生涯学習の拠点として期待がかかる。
開校に先立ち「おきのえらぶ文化ホール あしびの郷・知名」で開催された体験授業会場
全国の離島地域では、かねてより若年層の人口流出が課題となっている。約400島の離島地域には大学などの高等教育機関がほとんど存在せず、高校がない島も多い。そのため、中学や高校を卒業した若者の多くは、進学や就職で島を離れるが、授業料や生活費に多額の費用が必要。子どもの進学時に家族で島を離れるケースもある。
約1万3,000人が暮らす沖永良部島でも同様の課題を抱えていたことから、沖永良部島在住で島の地域活性化に取り組む「酔庵塾(すいあんじゅく)」を主宰する東北大学名誉教授の石田秀輝さんらが中心となり、通信制大学を誘致。知名町が教室と必要な機材などを提供し、4月18日に「星槎(せいさ)大学サテライトカレッジin沖永良部島」が開校した。
第1期生として30〜70代の男女7名が入学
4月18日、「星槎大学サテライトカレッジin沖永良部島」の開校・入学式が知名町内のホールで催された。2017年度は、地元の30〜70代の男女7名が入学。地元住民らによる方言版「交響曲第9番」演奏などで、島で初となる通信制大学の開校と第1期生の入学を祝った。
同校では、テレビ会議システムを使った対面授業とテキストによる自学自習を組み合わせて学習を進め、規定の単位を取得すれば4年間で大学卒業資格が得られる。卒業までにかかる学費は約110万円。専攻により、幼稚園・小・中・高校や特別支援学校の教員免許状の取得や、社会福祉士国家試験受験資格も取得可能という。
島の環境を生かした独自カリキュラムも
同校のカリキュラムには、沖永良部島のインターンシップやボランティア活動なども取り入れられる予定だ。地元地域の良さや課題について学び、次世代を担うリーダー人材を育成することも目標に掲げている。
同校の誘致に尽力し、『光り輝く未来が沖永良部島にあった!』(ワニブックスPLUS新書|2015年)などの著書もある石田教授は、「星槎大学の既存カリキュラム7割と島独自のカリキュラム3割を合体させた新しいカリキュラム構成で、島にいながら島のことを学ぶことができる。従来の延長ではないバックキャスト思考法(※)を使って、島独自のビジネスや政策を提案できるリーダーを育てたい」と意気込む。
※制約を肯定して解を求める思考法で、地球環境問題など制約が排除できない問題の解決に効果的な方法。制約を排除して解を求める思考はフォーキャスト思考と呼ばれる
おきのえらぶ島観光協会事務局長として島の地域振興に取り組む古村英次郎さんも、「キーワードは持続可能性。消滅可能性のある地域から持続可能な地域への脱却を図るには、共に島を担う仲間が重要。島の自然資源から持続可能なビジネスモデルを構築できる人材の育成に、大いに期待している」とサテライトキャンパスへの期待を込める。
花き栽培など農業が盛んな沖永良部島
奄美群島では、奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)と徳之島(とくのしま|鹿児島県)でも、鹿児島大学大学院から派遣される講師の授業が受講できる「奄美サテライト教室」が開講されており、一部テレビ会議システムも活用しながら集中講義形式で授業が行われている。大学卒業資格を持っていれば、科目等履修生として同大学大学院の単位修得も可能だ。
ICT(情報通信技術)の活用により、離島の地域課題を克服しながら、独自の自然や文化、産業などを取り入れた新たな学び舎が各地で生まれている。次世代を担う人材を育成し、人々が生き生きと暮らすための生涯学習の場となる、各地の学び舎に期待がかかる。