つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

スロートラベルという言葉をご存知でしょうか?
イメージするなら、旅程をぎゅっと詰め込まず、気の向くままに心の向く場所へ行き、その土地の風土をたのしむ旅行のスタイル。そんな旅を、国内180島を歩いてきた『ritokei』統括編集長・鯨本あつこが沖縄離島3島で実体験。旅の様子をお届けします。

文・鯨本あつこ

北大東島編・世にも希少な小さな島でおどろきの自然と文化に出会う
南大東島編・ワイルドな自然と八丈島と沖縄のミックスカルチャーに酔う
渡名喜島編・子どもの視点で豊かさ広がるセンスオブワンダーな島時間

旅程は風まかせ。「条件付き」で出航

今日は渡名喜島(となきじま|沖縄県)に渡る。今回は家族連れでスロートラベルをたのしむ。

那覇発着の船旅は泊ふ頭ターミナル「とまりん」が玄関口となる。朝8時、入り口の案内版で運行状況を確認すると、座間味島(ざまみじま)・阿嘉島(あかしま)行きの航路には「欠航」の文字が……。

「とまりん」玄関口にある案内版。「欠航」「状況判断」と書かれた赤い文字にドキドキ……

そういえば風が強かった。渡名喜島に渡るには久米島フェリーに乗って途中下船するのだが、案内板をよく見ると「渡名喜島状況判断」とかかれてある。

これは船旅あるあるで、「状況によっては着岸できないかもしれないよ」ということ。港の条件や風向きによって、強風時に船が着岸できない場合があり、その港をとばして次の港に向かうことは「抜港(ばっこう)」と呼ばれる。

うーん……と考えるのもいいが、船は出るようなので乗ろうじゃないか。もし久米島(くめじま)にたどり着いても、その時その時の状況を楽しむのがスロートラベルだ。

いずれにしても腹はへる。渡名喜島には商店も飲食店も少ないので、間違いなく昼食にありつくなら「とまりん」で購入していくのが吉。まずは売店でお昼ごはんを調達しよう。

石垣島(いしがきじま)が本店の「マーミヤかまぼこ」の売店にはお弁当がずらり。かまぼこにおにぎりがはいった「ジューシーかまぼこ」はどこでも食べやすく子連れには特におすすめ

風が強いということは、波が高く船が揺れるというでもある。私はあまり船酔いをしないほうだが、以前ジェットコースターのように揺れる船に乗った時はさすがに目がまわった。子どもたちの船酔いも心配なので、念のためコンビニで酔い止めを買って、いざ船へ。

右手に見えるのがこの日の船「フェリー琉球」

ゆりかごに揺られ、島に到着

出港してまもなく船が外海に出ると左右の揺れが強くなり、がこんがこんと船底が波に打ち付けられる音がする。こんな時は寝るのが一番。ごろ寝できる客室に場所をとり、横になって目を閉じる。

子どもたちもごろごろ。すぐに寝てしまった

酔い止めも効いているし、船の揺れがゆりかごのようで心地よい。うとうと、ぐうぐうしているうち時間が経ったらしく、渡名喜島到着のアナウンスが聞こえてきた。抜港は免れたようだ。

渡名喜島に到着。曇っていてもおどろくほど青い海に心が踊る

渡名喜島に降り立ち、宿泊先の名前が書かれた看板を手に持つ男性のもとへ。出迎えてくれた「ふくぎ屋」の南風原さんに挨拶をして、お宿の車でまずは宿に向かう。

車で送迎……といっても、渡名喜島の集落は端から端まで数百メートルとコンパクト。小さな集落にある、伝統的な家屋を一棟貸しのお宿としている「ふくぎ屋」の一棟が、今日の宿だ。

「ふくぎ屋」に到着すると早速、石垣に置かれた貝殻に足をとめる子どもたち。貝殻を耳に当てると何かの音がするらしい

砂浜をかきわけハマグリを探す

荷物を置いたらちょうどお昼時。海遊びの服に着替えて島の北側にある「あがり浜」に向かった。宿からあがり浜までは子どもの足でも5分とかからない。

とまりんで買ってきたお弁当を広げてランチピクニックを満喫

風は強いが寒くはない。かといって暑くもないから沖縄離島の秋冬は過ごしやすい。お弁当を食べ終わる頃、南風原さんが青いバケツを持ってやってきた。

「この辺りを5センチくらい掘るとハマグリがありますからね」

南風原さんはそういうと、海から数メートルの浜辺を薄く掘り返し、「ほら」と小さな貝を拾い上げる。それを見た子どもたちが同じように足や手で砂をかき分けていくと「あー!あったー!」とそれらしき貝を発見。

ザザーッと薄く砂をかき分けていくと、白い小さなハマグリが見つかる

コツが分かった子どもたちは、あっちをかき分け、こっちをかき分け、歓声をあげる。ハマグリを見つけては、宝ものを見つけたかのように目を輝かせていた。

白くてきれいな渡名喜島のハマグリ。

採ったハマグリは塩抜きをして宿の食事で出してくれるらしい。「この島は自給自足ですからね。ハマグリを見つけないとごはんがありませんよ」と南風原さんが笑う。

その後もハマグリは次々と見つかり、51個拾ったところで潮干狩りを切り上げ、宿にもどった。

フクギ並木と伝統家屋に癒される

フクギの木が立ち並ぶ白砂の小道。浜辺は風が強かったのに、フクギ並木の中は風をほとんど感じない。さすが防風林。強い台風が島を襲ってもフクギが家々を守ってくれるのだ。

渡名喜島の集落はフクギ並木の迷路

フクギ並木に加え、渡名喜島の伝統家屋は小道から1段さがったところに建てられている。いずれも強風に負けないために考えられた知恵である。

静かな小道を歩く時々、島の人とすれ違う。島のおばあちゃんが、子どもたちをみかけて「かわいいね〜」「どこから?」と声をかけてくれる。温かい空気に子どもも大人もすっかりリラックス。

「ふくぎ屋」にもどると、そばにある商店で買ったおやつを食べてそのまま畳にごろり。木の壁や天井をながめ、障子の隙間からみえる縁側と、庭の白砂の美しさにみとれながら、そのうちすうっと眠たくなってしばしのお昼寝タイム。

「ふくぎ屋」は畳の間に縁側のある小さな家。まるでおばあちゃんの家に来たような温かさ

夢うつつの時間を味わっていると、ふと男性の声が聞こえてきた。「○×▷※〜……ラジオ体操の時間です……」。声の主は集落放送で、ラジオ体操の音楽が流れてきた。

時計をみると15時。ちょうどよいので、畳にひっつけていた身体を起こして、子どもたちとラジオ体操をやってみた。

15時のラジオ体操。あとで島の人に聞いたら前からあったわけではなく、コロナ禍の運動不足解消のために始まったとのこと

島の子どもたちと、ヒマワリのタネ蒔き

伝統家屋で過ごすスロウな時間をたのしみながら、観光協会の女性に「16時に畑に来ませんか」と誘ってもらっていたことを思い出し、皆で畑に向かった。島の子どもたちと、ヒマワリのタネを蒔くらしく、我が子たちを誘ってくれたのだ。フクギの集落を抜け出し畑まで行ってみると、畑に集まる子どもたちの姿が見えた。

集落の外側には畑が広がっている

観光協会の女性がタネの撒き方を説明すると、幼児から小学校高学年の子どもたち十数人が、タネ入りの紙コップを片手に種まきをはじめた。

ヒマワリは緑肥用らしい。12月に花を咲かせた後に刈り取って、その後は渡名喜島名産のもちきびが植えられる。

島の子どもたちのTシャツには南・西・東の文字。渡名喜の集落は南・西・東に分かれており伝統行事なども南・西・東ごとに行われるという

島の赤土を素手でかきわけ小さな穴をつくりタネを3つ、そっと土をかける。隣にいた女の子が私をちらりと見て「きょうそうだよー」という。いつのまにか競争に巻き込まれたらしい。女の子はひょいひょい近づいてきて「もう追いついたよ〜」と言いながら、追い越していく。見知らぬマレビトにいきなり勝負を挑んでくる女の子が可愛すぎるじゃないか。

種まきがおわったあと、実はまだタネが残っていたので、鬼は外方式のおまけ種まきがはじまった。それならば! と普通の種まきに飽きていた子どもたちも、我先にとタネを手に取り畑に走り、一斉に「鬼はそとーっ!」。ゲラゲラ笑う子どもたちの声に包まれて、種まきは終了した。

五感でたのしむ子ども視点の島

「これ、ぼろぼろするときもちいいよー」と、さっき勝負を挑んできた女の子が近寄ってきた。見ると、手のひらで土の塊を手でつぶしている。

おいしいもちきびが育つ島の土。塊をつぶす感触がたのしい

石のようにも見える土の塊を手に乗せて、ぐっと力をいれると、硬い角砂糖が思いがけずさらさらとくずれるような感触がして確かに気持ちいい。土の感触を楽しむ、センスオブワンダーな時間を、島の子どもたちに教えてもらった。

「とりえず手を洗おう」と、畑を後に手洗い場に向かう道すがら、マレビトにじわりと興味を寄せる島の女の子たちとの女子トークがはじまった。

「大人になったら幼稚園の先生とユーチューバーになりたいなー」
「となきはプールないから海なんだよー」
「朝起き会は慣れてるから平気だよー」

渡名喜島の学校にはプールがないから海で授業を行うこと、運動会には海で行う水上運動会と陸の運動会が両方あること、白砂のフクギ並木を子どもたちが掃除をする「朝起き会」のことなど、いろんな話を聞かせてくれる子どもたち。ガイドブックだけでは知れることのできない、島の素朴な魅力に出会えた気がした。

島で流行り?パークでごろごろ

畑の土を手洗い場で落としたところで、大人たちが「帰らんのー?」と聞くと、子どもたちは「パークでごろごろしていくー」と言う。

パークとは、すぐそばのパークゴルフ場のことだが、島の子どもたちと打ち解けた我が子たちも着いて行きたい様子なので、風の吹くまま子どもたちにまかせて、行ってらっしゃいと送り出した。「パークでごろごろ」というので、パークゴルフ上でのんびり遊ぶのかなと思っていたら……。

違った。パークゴルフ場の芝生に寝転がり、まるで米俵が転がるように坂道をごろごろ転がっているではないか。本当にごろごろしている。ごろごろしながらキャーキャーと歓声をあげている。

我が子らも走り加わり、ごろごろ、ごろごろ。皆でゲラゲラ笑いながら、ごろごろ、ごろごろ転がっていた

子どもたちの自由な遊びに呆気にとられているところに、「ふくぎ屋」の南風原さんがやってきて、「ウミガメいきますか?」と誘ってくれた。子どもたちに聞くと「パークごろごろがいい!」という。大人だけでウミガメが来ているという浜に向かった。

風が強く、凪とはいえない海だけど、よく見るとウミガメの影がみえる。水面に注意を向けていると、あっちでぽこり、こっちでぽこり、息継ぎのために水面にあがってきたウミガメが顔を出す。

南風原さん曰く、この日だけでも30頭ほどいるらしい。凪ならうみがめの大群を見れるらしいが、モグラ叩きのようにひょこひょこ顔を出すウミガメを探すのも楽しい。

中央がウミガメ。条件の良いときはたくさんのウミガメが間近に観られるそうだ

しばらくウミガメを見つめた後、パークゴルフ場にもどると、子どもたちはまだ芝生にへばりつき、ゲラゲラ笑い転げていた。

パークでごろごろの遊び方その2。「上が天国で下が地獄」という設定らしい

いつの間にか、我が子も名前で呼ばれていて、島の子どもとパークの芝生と、たっぷりお友達になったようだ。

ちょうど18時の音楽がなった。すると島の子どもたちは、魔法がとけたかのようにすっと立ち上がり、それぞれが家路に向かい始めた。帰り道、女の子たちに「いつ帰るのー」と聞かれた娘が「明日だよ」と答えると「ふうん」と寂しげな声がした。畑に集合したのが16時で今が18時。たった2時間で皆の友達になったらしい我が子は、後ろ髪引かれていた。

美しいフクギ並木の夜と朝

たっぷり遊んで大満足の子どもたちと夕食をいただきに、「ふくぎ屋」の別棟にある「ふくぎ食堂」へ。渡名喜島のもちきびに島にんじんなど地元食材たっぷりの夕食。お味噌汁にはあのハマグリが入っていた。

島の食材をたっぷり味わえるおいしいごはんは、子連れにもありがたい

渡名喜島は日暮れからも美しい。白砂のフクギ並木を照らすフットライトが灯るのだ。夕食を食べ終わり、宿に戻るまでの道を少し遠回りしながら美しい夜道を楽しんだ。

フットライトが灯る渡名喜島の夜。集落の外は星空も美しい

島の子どもたちと出会い、思いがけずにぎやかな時間を過ごした我が家は、温かな宿で熟睡し、朝を迎えるのだった。

翌朝、朝食をとりに外にでると、フクギ並木から差し込む朝日の美しさに目をうばわれた。フットライトが灯る夜道が有名だが、朝の時間も美しく、神々しかった。

朝日が差し込むフクギ並木もこれまた美しい

時々、車が通るけど集落の道はどこも狭く、スピードを出す車はいない(とはいえ、小さな子どもは飛び出し注意)。朝食を終えて宿を出るまでの時間、親が荷物を片付けている間、子どもたちは集落の小道を探検しながら遊んでいた。

小道を掃除していた島のおばあちゃんが「何年生ー?」「どこからー?」と子どもたちに話しかけてくれている。

小道をかけまわる子どもたち。白砂の道は足に伝わる感触もやさしい

しばらくして宿に帰ってきた子どもたちは、お菓子の入ったビニール袋を手にしていた。さっきのお母さんからいただいたらしい。渡名喜島で過ごす時間はどこまでも温かい。

そういえば今日も風が強いから帰りの船が欠航しちゃえばもう1泊できるんじゃないか?と思ったが、船は予定通りやってきた。

帰りの船がやってきて思わず「来ちゃった」とつぶやく

手のひらで潰した土の感触、白砂の道を歩くやさしい感触、ハマグリを探す手が砂浜をかきわける感触、芝生を転がりおちる子どもたちの笑い声。

目に見えるものよりも、手に、耳に、足に残る感触が、心に記憶された渡名喜島の時間。

さりとて渡名喜島にはまだまだ色んな見所がある。「また来たい」という子どもたちに「また来ようね」と言いながら、船に乗った。


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離島経済新聞 目次

スロウに旅する沖縄離島

旅程をぎゅっと詰め込まず、気の向くままに心の向く場所へ行き、その土地の風土をたのしむ旅行のスタイル「スロートラベル」。 そんな旅を、国内180島を歩いてきた『ritokei』統括編集長・鯨本あつこが沖縄離島3島で実体験。旅の様子をお届けします。

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