つくろう、島の未来

2022年12月02日 金曜日

つくろう、島の未来

スロートラベルという言葉をご存知でしょうか?
イメージするなら、旅程をぎゅっと詰め込まず、気の向くままに心の向く場所へ行き、その土地の風土をたのしむ旅行のスタイル。そんな旅を、国内180島を歩いてきた『ritokei』統括編集長・鯨本あつこが沖縄離島3島で実体験。旅の様子をお届けします。

文・鯨本あつこ

北大東島編・世にも希少な小さな島でおどろきの自然と文化に出会う
南大東島編・ワイルドな自然と八丈島と沖縄のミックスカルチャーに酔う
渡名喜島編・子どもの視点で豊かさ広がるセンスオブワンダーな島時間

あこがれの北大東島へ

10月に初めて大東諸島を訪れた。スロートラベルを実践して良いという企画は、編集者として願ったり叶ったり。しかも行き先が日本の島でもとりわけ稀有な島ときたら、浮かれずにはいられない。

以前から本棚に並べていた『うふあがりじま入門』を手に、島への思いを募らせるところから私のスロートラベルは始まった。

この本ではまず、北大東島(きただいとうじま|沖縄県)を「世にも希少な島」と言い表す。希少な理由は数あれど、私はまずはその位置がめずらしいと思っている。

日本には有人離島が約400島あるが、広い海のうえにぽつんと浮かぶ「絶海の孤島」はそこまで多くない。沖縄本島から太平洋の方角に360キロ。南大東島(みなみだいとうじま)と北大東島が互いに臨めるほか、目視できる有人島は存在しない、まさに絶海の孤島らしい孤島なのだ。

どんな気持ちになるのだろう?

その島に立つとどんな気持ちになるのだろう? ネット検索すれば画像も情報も出てくるが、情報は情報。我が身を置いてみなければ感じられないものを感じてみたい。そんなことを考えながら、那覇空港から飛行機に乗り込み、北大東島へ向かった。

ゴゴゴゴゴというプロペラ機特有の振動を感じながら約1時間。空港に降り立つと「もう着いちゃった」と思った。あこがれの島に対するアプローチとして、飛行機は思いのほか早かった。

北大東島〜那覇間の空路は約70分。ちなみに船だと約15時間。時間が許せば船で来たい

大東諸島(だいとうしょとう|沖縄県)は、島の成り立ちも希少。約4,800万年前には南半球の赤道付近にあった島が、沈んだり浮かんだりしながらじわじわと現在の位置まで移動してきたという壮大なドラマもある(と『うふあがりじま入門』にも書いてあった。以後、同書の情報を参考にする)。

今も5センチずつ沖縄方面に向かって動いているらしいこの島は、「環礁」というドーナツ型の隆起サンゴ礁。しかし、ドーナツの真ん中は陸地になのでドーナツというよりは耳のふくらんだピザに近い。ピザの耳部分を「幕(マクまたはハグ)」と呼び、ピザの内側を「マクウチ」、耳の上を「ハグウエ」、外側を「マクソト」などと呼ぶそうだ。

長幕を見つけて途中下車。「おお、ここがマクウチだな」とひとり『ブラタモリ』気分で楽しむ

マクウチからハグウエに向かう坂の途中に、宿泊先のハマユウ荘があった。ハマユウ荘の展望台からマクウチ方面を眺めてみると、マクに囲まれた島の内側に、畑や家があるのがみえた。

10月の日差しが降り注ぐマクウチ。畑と建物と防風林がまるで箱庭のよう

電動自転車でふらり、気になるあの場所へ

さて、まずは荷物を置いて自転車を借りよう。
電動自転車にのってスマホの地図で場所を確認しながら島の西側を目指す。ゆるやかな坂道を進み、マクウチからハグウエにのぼってマクソトに向かった。

目的地は「上陸港跡」。
その名の通り、かつて北大東島に初めて人が上陸した場所である。

大東諸島は20世紀になって初めて人が暮らし始めた、人類史の若い島でもある。遠く海を渡り、東京・八丈島(はちじょうじま)からやってきた人々が上陸し、開拓してから約120年。島のすべてにそのドラマが凝縮されている。

120年前のある日、ある人が上陸した島に、今日はじめて上陸した私。120年前に初めて上陸した人はどんな光景を目にしたのだろう?

今は公園として整備されているが、肝心の港は港らしからぬ小さな窪みである。まわりにはゴツゴツ……いや、トゲトゲ、イガイガした岩がそびえ立つ。120年前にここを登った人の冒険心に感服。

誰もいない岸壁でしばらく開拓者の想いにひたる。誰もいない場所だと思っていると、ちょろりと小さなものが動いた。目をこらすと……岸壁のくぼみに小さな魚がいっぱいいる!

あとで地元の方に聞いたらハゼの一種で、「トントンミー」というらしい。波が打ち寄せるたびにちょろりちょろりと動く姿は愛らしく、しばらく見つめていた。君、かわいいなあ。

ここに打ち付ける波にやさしさは感じない。
むしろこれが地球だとばかりに、波の強さを見せつけてくる。上陸地の先には南大東島が見える。荒々しさをむき出しにした大自然の中で、この島のほかにこの海域で人が暮らすのはあの島だけだと思うと、それだけで尊さが湧いてくる。

八丈島から大東諸島に渡ってきた人々は先に南大東島を開拓したのち、北大東島に来たそうだ。あっちの島からこっちに渡った人々は、トントンミーのように岸壁にへばりつき、トゲトゲの岩場を登っていったのだろうか。そして開拓の証としてサトウキビを8株植えたという。

ラピュタのような燐鉱石貯蔵庫跡

上陸港とトントンミーだけで半日は過ごせるがすぐ近くにある、あのスポットも気になってくる。自転車で少し北上して、燐鉱石貯蔵庫跡に向かった。

燐鉱石貯蔵庫跡に続く道はそのまま大海原に飛び込めそうな坂道

燐鉱石とは肥料や火薬の原料にされる物質で、海鳥の糞が長い時間をかけて鉱物となったもの。戦前から戦後にかけて、北大東島は国内でも2カ所しかない燐鉱石の産出地として注目を集め、1928年のピーク時に出稼ぎ労働者を含めて現在の5倍近い人が暮らしていたという。

まるで映画のロケ地のような燐鉱石貯蔵庫跡。どこもかしこもダイナミック

大海原を臨む海辺にあるその場所は、今や風化した建物がそびえる巨大な映画のセットのよう。すぐそばの海が空であるなら『天空の城 ラピュタ』ともいえそうな空間。言うなれば「映える」場所だが、トロッコのレールをみつけたり、不思議な形の遺構のかつての用途を想像してみたり。写真を撮らずとも楽しい。一日中じっくり眺めていたい。

かつて燐鉱石をのせたトロッコが走ったと思われる場所にて

「こんなにいいところはないよ」

それにしてもあまり人がいない。訪れた日は秋の連休だったが人をさほど見ない。それもそのはず、たとえ飛行機と船が満杯でも島は満杯にならない。だからこその開放感なのだろうか。心の自由を感じながら、ゆったり気分で自転車を漕ぎ、島を進んでいく。この気持ち、情報だけで伝わるものか。

燐鉱石貯蔵庫跡と上陸港の間、コンクリート造りの建物があった。見るとひとつは「海水淡水化施設」でもう一つは「養殖場」。前者は日本の島のうち真水が乏しい島で見ることのできる施設。後者は北大東島の新しい名産をつくるべく奮闘中の施設である。

海水淡水化施設には「海からの恵み 水」と書かかれている

自転車を停めて養殖場をのぞくと、日に焼けた男性が声をかけてくれた。聞けば、男性は長崎出身の元自衛官。北大東島に移住した息子を訪ねて来てみたら、自分も気に入ってしまったという。

養殖場にて。ヒラメの入ったプールを見せていただいた

今は養殖場を含めて5つ仕事があるというが、これは島あるある。小さな島の暮らしは、限られた人数で営みのすべてをまかなうため、スローというより多忙なのだ。

男性も自分にできる仕事を受けるうちに仕事が増えたというが、その表情は健やかで「こんなにいいところはないよ」と話す笑顔がまぶしかった。

マグロの尾ひれまで味わうべし

夕食にはかつて燐鉱石で栄えた時代に、働き手でにぎわった地区にある「居酒屋トロッコ」を訪れた。

「居酒屋トロッコ」が入る建物。撮影したのは日中だがいずれにせよ趣深い

沖縄というよりは北海道にありそうな石造りの建物の中には、島の歴史が知れる展示もあり、さっき見た島の風景を思い出しながら展示を見つつ、その奥にある「居酒屋トロッコ」へ。

取材班を交えて北大東島らしい品々を注文。北大東島産はキハダマグロが有名だそうだが、目玉に尾ひれまでいただけるとは!

左手前から時計回りにマグロにソデイカ、ヒラメのお刺身、北大東産キハダマグロの目玉の煮付け、尾ひれのスパイシー揚げ、アワビのアヒージョ

アワビはあの養殖場からやってきたもので、間引きされたベビーアワビとのこと。ボトルに「ぽ」と書かれた北大東島産のじゃがいも「ニシユタカ」を使った焼酎をいただきながら味わう島の味。いずれも美味しいのだが、尾ひれの美味しさが意外すぎて尾ひれを見る目が変わるほど気に入ってしまった。

星空も、月夜も、美しい

そういえば以前、北大東島が大好きだという友人は「星空がすごい」と話していた。絶海の孤島は灯りも少ない。どれほどの星が見えるのかと思ったら、この夜は月が明るくて星は少しばかし影を潜めていた。

しかし月も美しく、夜の涼しさも心地良い。ハマユウ荘に戻り、自動販売機でビールを買って中庭に座り込む。木々が風に揺れる音以外、騒音もない静かな夜。明るい月と星を仰ぎながらゆったり語らう時間はなんともいえない贅沢な気持ちになった。

ハマユウ荘の中庭で月を愛でる夜。月が見えない日は満天の星が輝く

のんびり朝を迎え、民俗資料館へ

そして翌朝、北大東島は沖縄で最も東にあるため沖縄で一番早い朝日を拝むことができるので、それも見てみたいなぁと思ったが、今日はせっかくのスロートラベル。気持ちを急かさずのんびり朝を迎えた。

日中のハマユウ荘。モダンな建物はどこも居心地がよかった

ハマユウ荘でのろのろと朝ごはんをいただき、しばし朝の時間を楽しむ。実は、少し前までは光回線が届いていなかった北大東島。しかし最近は光が通り、Wi-Fiもさくさく。あまり心地がいいので、ハマユウ荘の庭でパソコンを開いてメールなどを片付ける。これができるなら1週間くらい仕事をしながら過ごせるじゃないか。

木々がゆれる音と鳥の声をBGMに仕事に向かう贅沢なワーケーション空間。ちなみに写真の左上は展望台で集落を見渡すことができる

北大東村民族資料館におじゃまする。閲覧は要予約とのことで、事前に予約していた時間に尋ねると、ちょうど男性がやってきて展示室を開けてくれた。

ステキな展示室。北大東島の自然も歴史も文化もわかりやすいと思ったら、『うふあがりじま入門』の著者など多様な研究者が展示に携わっているとのこと

ここで学べることを知らずにめぐってもおどろきはある島だけど、学んでいけば眼に映るものに深みが加わる。深い楽しみを味わいたい人には、民族資料館に立ち寄ることをおすすめしたい。

民族資料館の展示より。地図で見ると八丈島から大東諸島の距離がわかる。ここを船で渡ってきたとは……

マクウチのなか、島の営みをみつめる

さて、どこに行こかな……という時間があるときに訪ねたいのは島の営みがみえる場所だ。ハマユウ荘からマクウチのほうに下っていくと、小さなスーパーや学校、保育園に島唯一の信号機があり、スーパーでお土産を買いつつ校庭の遊具で遊ぶ子どもたちの姿に目を細めた。学校のまわりには想像よりもたくさんの子どもたちがいて、マクウチという島のゆりかごで育つ子ども心を想像した。

それから少し離れたところにある商店に立ち寄ってみる。レジの女性に話を聞かせてもらうと、さっき見かけた学校に孫たちが通っているそうだ。

大城商店は島の金物屋さんで工具や農具が所狭しと並んでいる。お店の前にある盆栽はご主人の趣味という

島で生まれ育ち、島の人と結婚したお母さん。高校がない大東諸島の子どもたちは高校進学のために島を離れるが、数年前に息子が帰ってきて今は孫たちとにぎやかに暮らしているという。

民俗資料館やパンフレットにもあったが「15の春」を迎えた子どもは、島を離れる前に親子で相撲をとる。娘の場合は腕相撲らしく、お母さんも「私は娘と腕相撲だったよー」と教えてくれた。

季節は秋。お母さんは、夏は野菜が育てられないけれど、秋にはじゃがいも、かぼちゃ、ブロッコリー、キャベツなどなんでも育てられるのよとうれしそうに笑っていた。

畑の土はテラロッサという赤土。低農薬のじゃがいも、かぼちゃは島外の評価も高い
ハマユウ荘の食堂でいただける島のじゃがいもを練りこんだ「じゃが麺」。沖縄そばよりも少し固めのもちもち食感

人との出会いに、また来ようと誓う

大城商店のお母さんとおしゃべりしながらしばらく経って、「あ!」と思った。実は、以前から北大東島の日々や風景をつぶやくTwitterアカウントをフォローしていて、もしやと思って聞いてみると「息子よ〜」とお母さん。

この日、息子さんである @manpuku_daito さんは島外に出掛けていて不在だったが、島のおすすめを尋ねると「自然と文化がおすすめですよ」といい、いくつかのスポットを教えてくれた。

島1周道路(正確には3/4周らしい)から見渡す海に、掘り込み式の漁港、漁協をつくるときに掘り起こした岩を積み上げた大東ピラミッドといわれる場所からの絶景に、大東宮、金刀比羅宮、秋葉神社という3つの神社などなど。

つまり、まだまだ見所が多いということか。とはいえスロートラベルに急ぎ足は禁物。帰りの時間までに、大東ピラミッドに立ち寄り@manpuku_daitoさんの言う「地球って丸いんだなと感じられる」体験をしてみることにした。

大東ピラミッドから水平線を臨む。地球って丸い!

スロートラベルとはいえ1泊2日の旅程は短い。せっかくなら3泊、いや、1週間はじっくり滞在したい。北大東島の自然と文化は、じっくりゆっくり味わうほど、深く心にしみていく。また来よう。そう誓って帰路についた。


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離島経済新聞 目次

スロウに旅する沖縄離島

旅程をぎゅっと詰め込まず、気の向くままに心の向く場所へ行き、その土地の風土をたのしむ旅行のスタイル「スロートラベル」。 そんな旅を、国内180島を歩いてきた『ritokei』統括編集長・鯨本あつこが沖縄離島3島で実体験。旅の様子をお届けします。

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