つくろう、島の未来

2024年04月25日 木曜日

つくろう、島の未来

リトケイ編集部の石原と、沖永良部島在住のライター・ネルソン水嶋が海の仕事に携わる人々に話を聞く「島々会議」14組目のゲストは、甑島(こしきしま|鹿児島県)で活動する「一般社団法人甑島社中」と、東京を拠点に全国で活動する「一般社団法人漁業ブ」の皆さん。どちらも2022年に立ち上がった団体です。

「一般社団法人甑島社中」は、甑島の漁師が中心となり、企画や営業、品質管理、情報発信そして後継者につながる教育・学習支援などそれぞれのプロフェッショナルが手を組み、水産業の復興を目指す組織です。近年は生産者が加工や販売まで行う6次産業化が叫ばれますが、単独では追いつかないなか、漁業者でカバーしきれない領域を得意分野の観点からサポートします。

漁業ブのブは、ブランディングのブ。広告、メディア、フードコーディーネーター、飲食店の企画広報という立場から漁業に関わる4人が手を組んだ「一般社団法人漁業ブ」は、全国各地で漁業を持続可能とするための支援に取り組み、天草諸島(あまくさしょとう|熊本県)のタイの海外展開を支援したり、笠戸島(かさどしま|山口県)では焼酎粕を活用した養殖トラフグのブランド化に携わったりしています。

昨年の8月と11月にそれぞれ立ち上がったふたつの組織は、「漁師とは異なる観点から漁業を支える」というところが共通項。漁師への敬意を持っているからこそ、その世界に入って何とかしたい。離島地域の漁業の可能性を大いに感じられる対談となりました。

人物紹介

一般社団法人甑島社中 理事 伊原友寛さん
東京で10年間流通業界に従事した後、薩摩川内市の雇用創造協議会のメンバーとして甑島を中心に活動。商品開発や都市部への販路開拓に取り組む。2022年8月に水産業復興に取り組む一般社団法人甑島社中を設立。組織構築や事業戦略の担当として活動中。
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一般社団法人漁業ブ 代表理事 小西圭介さん
株式会社ニュースケイプ代表。ブランディングのプロフェッショナルとして、大企業からスタートアップまで数多くの企業・組織のブランド開発や再生支援を行う。
https://gyogyobu.jp/

一般社団法人漁業ブ 設立理事 小西克博さん
料理人の顔が見えるグルメメディア「ヒトサラ」編集長。大学卒業後に渡欧、北極から南極まで約100カ国を食べ歩く。2誌の創刊編集長、IT企業顧問などを経て、現職。

一般社団法人漁業ブ 設立理事 松井香保里さん
「FOOD BUSINESS CONSULTING NETWORK mof」代表。食の専門家として、飲食・物販の業態開発や、メーカーの商品開発、販促支援などを行う。最近では、食を切り口にした地方活性化を手がけ、国内外で活躍。

一般社団法人漁業ブ 設立理事 松田美穂さん
「晴れとけ美食」代表。ミシュラン三ツ星店など100店舗超のレストランの誕生や企画広報に従事し、世界のスターシェフ30人を招致する「COOK JAPAN PROJECT」などを開催。料理家としても活躍。


ライター・ネルソン水嶋
合同会社オトナキ代表。ライターと外国人支援事業の二足のわらじ。鹿児島県・沖永良部島在住。祖母と二人暮らし、帰宅が深夜になると40歳手前なのに叱られる。
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離島経済新聞社 石原みどり
『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。

【後編】甑島でしか味わえないの郷土料理「じゃこぷぅ」

漁師さんが釣った魚や島酒などもご一緒する機会があると思いますが、いかがですか?

甑島でさまざまなおいしい海産物を食べさせていただきましたが、一番感動したのは、「じゃこぷぅ」と呼ばれているキビナゴ漁師の鍋料理。一般的にいえば…キビナゴのしゃぶしゃぶですね。

捕れたてのキビナゴを塩と一味を入れて沸騰した鍋に入れて食べます。お酒はクセの強いガツンとくるような地元の芋焼酎を合わせます。

それは食べたい!

左:伊原さんオススメの郷土料理「じゃこぷぅ」/右:新鮮なキビナゴの刺身

本土のスーパーで買ったキビナゴを同じように調理してみましたが、やっぱり違いましたね。キビナゴの鮮度はもちろん、甑島の風景、漁師との会話、島の焼酎。全てが合わさってこその「うまい!」なのかな?と思います。

それこそ現地ツアーで体験しないと分からない味ですね!

漁業ブさんは、天草や笠戸島のお魚で印象に残ったものはありますか?

笠戸島では東風浦(こちうら)さんという漁師の奥様が商社を立ち上げて、山口県の日本酒「獺祭」の焼酎粕を餌に育てたトラフグ「笠戸島幸ふく」を養殖しています。

一般には産業廃棄物として扱われる酒粕・焼酎粕を地産の魚を育てる餌にすることで、地域が持つ資源を循環させ、さらに高付加価値化する取り組みだといえます。最近漁業ブの企画で、この「笠戸島幸ふく」と「獺祭」のペアリングイベントも東京で開催しました。

漁業ブが企画した「笠戸島幸ふく」と「獺祭」のペアリングイベントで提供された料理

知らないということは、知りたいということ。

甑島をほとんど知らなかったのですが、例えば島名ひとつにしてもこんな難しい漢字なんですね。こういうことが大事で、知らないことは知りたいということ、好奇心をそそられることを伝えていくこと、これがむしろブランディングの軸になる。

「食」は子どもも大人も変わらず、全然詳しくない人でも身近で体験できることも多いので、すごく伝えやすいですよね。

漁業体験ツアーはすごくポテンシャルがある。実際に漁に参加して魚を食べるのですが、夜明けの海や魚、そして漁師さんの仕事は美しく、すべての体験が非日常的で興奮する。

あんなに楽しくてラグジュアリー感のある体験はないんじゃないかと思っています。

海の美しさや、命を落とすこともある海の厳しさもよく分かっている漁師さんは、海の通訳者だと思います。

魚や漁師さんに敬意を払って、「この漁師さんが捕ったこの魚なら応援の意味も込めて買おう」という顔の見えるつながりはすごく大切です。

知らない食材の知らない生産者さんでも、取り組みや想いに触れることで、ただ舌で味わうだけでは得られない感動が生まれるし、島に行きたいという行動につながる。あまり知られていない離島地域だからこそ可能性を感じられるお話です。

天草の漁師さん

漁業を発信することで、漁師に誇りと敬意を。

最後に、島で海の仕事をしている方々へメッセージをお願いします。

私も漁に何度か同行させていただきましたが、船酔いで即船室に……。日頃から、命を懸けて自然と向き合い魚を捕っている漁師の皆さんを心から尊敬しています。

魚を捕るだけではなく、魚を伝えていく。唯一の存在が漁師の皆さんです。漁師という職業が甑島で100年先も続くよう、私も自身の役割を全うしたいと考えています。一緒に頑張りましょう。これからもよろしくお願いします。

甑島の漁師さんとともに漁に出た帰路。伊原さんの心に残る風景

漁師さんは本当にプロフェッショナル。冬は魚のシーズンですが、極寒の海でおいしい魚を捕ってきてくれて、本当に感謝しないといけない。

自分たちが捕る、あるいは育てる魚や漁業の価値を、実際に食べる方や調理するシェフがどんな様子かを一緒に体験していただき、自らの仕事の価値を改めて感じてもらえるといいなと思います。

地方で出会った食材を使い、引き立つ料理法で東京の方に召し上がっていただく活動を続けています。鮮度が命のものはどんなに技術革新しても産地で食べることには敵わない。東京でこんなにおいしいんだから産地だともっとおいしいよ、だから来てねと。

イベントで漁師さんに下処理を見せてもらうのですが、普段と違う注目のされ方で、「また呼んでほしい」とクセになる方もいるんですよね。

セリにかけた先でどんな人がどんな場所でどんな調理で食べているのか、体感してもらってやる気につなげたいです。

漁師さんは、海の表現者でもある。島や海を舞台に仕事をしていることがいかに重要か、それにもっと誇りを持ってほしいなと思います。島のためにできることがレストランに携わっている私にあれば、喜んで取り組んでいきたいです。

その際にどっちが支援する・されるという関係ではなく、お互いに共有しながら共に歩んでいくという関係性やバランスが大切だと思っています。行ったことのない島にたくさん行きたいので、みなさん頑張ってください。

情報を積極的に発信してもらえるとありがたいなと思っています。どこかへ行くたびに「知ってるとこっちでこんなことができたのに」と感じることがある。

漁をやりながらだと厳しいかもしれないけど、いろんなメディアが協力してくれるでしょうから上手くつながって発信してほしい。とくに調理法。新しい発見だし、フレンチのシェフがこの魚はこういう風にやるんだとか、コラボレーションなども起こるとおもしろいなと思います。

漁業ブのメンバーで獺祭の酒蔵を訪問

皆さんのお話から海の仕事や漁師さんへの敬意を感じ、改めて島の魚食の可能性を感じられる対談になりました。

甑島にも、お伺いしたいと思います!

ぜひぜひ!お待ちしております。

「島々会議」をご縁に新しい企画が生まれそうで、楽しみです。本日は皆さんありがとうございました!


この企画は次世代へ海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

日本財団「海と日本プロジェクト」

さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。

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