つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

日本の島々は、知る人ぞ知るお魚天国。島々会議002では、漁業・水産業に従事する「魚食を支える島の仕事人」にお話を伺います。2組目の参加者は笠戸島(かさどしま|山口県)、小呂島(おろのしま|福岡県)、福江島(ふくえじま|長崎県)の皆さんです。

島々会議002|2組目プロフィール

笠戸島/旗手友紀(はたて・ともき)
広島県尾道市百島町出身、1984年生まれ。福山大学大学院工学研究科生命工学専攻修士課程修了。故郷・百島での小学生時代の体験をきっかけにヒラメに興味を持ち、研究課題もヒラメを選択。2017年より下松市栽培漁業センターに勤務。
>>笠戸島( 下松市)の概要


小呂島/島田乾生(しまだ・げんき)
1990年生まれ、小呂島出身。高校卒業後に漁師となり父親とともに漁を営む。2020年には小呂島の漁業協同組合・加工部の責任者に就任し、島の天然ブリを使用した商品の開発などにも従事。小呂島島づくり協議会の一員として島の広報活動も積極的に行う。
>>小呂島(筑前諸島|福岡市)の概要


福江島/濱口貴幸(はまぐち・たかゆき)
1972年生まれ。五島列島の福江島・富江町出身。曾祖父母から4代続く1939年創業の水産物加工業「浜口水産」を長兄・正秀さん(代表取締役社長)、次兄・清隆さん(常務取締役)と経営。専務取締役として製造全般から広報活動、経理などを担当。
>>福江島(五島列島|五島市)の概要

Q1.携わっているお仕事の内容を教えてください。

魚肉練り製品に関する製造全般、経理、広報などなんでもやります。
浜口水産の製品は、魚そのものの素材を生かし、調味料は最小に、添加物など余計なものは入れないことにこだわっています。練り物に使用する五島産の魚は約3割ですが、中に入れる野菜や海藻はすべて五島産です。五島にないチーズやゴボウの入った練り物をつくれば売れるでしょうし、お客様からの要望もあるのですが、できる限り地元産のものを使いたいと考えています。

福江島 東京都世田谷区の店舗にて。左から貴幸さん、次兄、長兄(提供・濱口貴幸さん)

下松市栽培漁業センターでは、近年漁獲量が減少しているマコガレイ、オニオコゼ、キジハタ、アイナメ、ウマズラハギ、ヒラメ、トラフグ、カサゴ、クルマエビ、ガザミ、アワビ、アカガイの12種類の魚介類を育て、放流する仕事を行っています。下松の特産品である「笠戸ひらめ」をはじめ、トラフグやマサバも養殖しています。また、養殖技術等の試験研究やさばき方教室等の魚食普及活動なども行っています。
2020年11月にお披露目されたブランドサバ「二升五合鯖(ますますはんじょうさば)」養殖では班長を務めました。「二升五合鯖」は定置網などで捕れる、通常は食用にならない小さなマサバ「ロウソクサバ」を養殖し、商品化したものです。「ロウソクサバ」は脂臭さがあり食用に養殖するには苦労がありましたが、白身魚に与える「ホワイトミール」という餌を使用することで脂がのり、臭みが消えました。今後は下松市内の金分銅酒造の酒粕や、笠戸島産レモンの果汁も与える予定です。

笠戸島 「笠戸ひらめ」の養殖の様子(提供・旗手友紀さん)

漁師をしながら、小呂島の漁業協同組合加工部の責任者として、加工部で販売する「小呂島漁師のしまごはん」製造のために働く島の女性たちの作業効率の向上や改善などを行ったり、商品のPR活動をしています。今年は新商品を発売予定です。
「小呂島島づくり協議会」の一員として広報活動も行っています。
最近は地元の子どもたちからの希望で、中村学園大学(福岡市)の学生とコラボした島のPR活動での新たなプロジェクトを準備中です。1年間を通し、小呂島漁師を紹介する「漁師カード」や、漁師たちを取材した動画を作成し、これらの活動をオンラインなどで発表する予定です。漁師カードは加工部で販売する「漁師のしまごはん」に添えるほか、本土側と小呂島の船着き場での展示を計画しています。
この活動は子どもたちが自分の島について自信をもって発信する機会になり、今後の人生の財産になると思っています。

小呂島 漁師のしまごはん(提供・島田乾生さん)

Q2.日本人の食卓に並ぶ魚食を支えるお仕事をされているひとりとして、ご自身のお仕事で感じる「やりがい」「楽しさ」「面白さ」を教えてください。

人とのコミュニケーションが好きなため、漁協の加工部や島づくり協議会の広報担当者として声をかけてもらいましたが、小呂島や島の魚の紹介を通して、たくさんの人との出会えることや、その人たちの喜びや楽しみの一つになれていることや、小呂島のこれからについて期待されていることが素直に嬉しく、楽しいですね。
昨年、「漁師のしまごはん」が置かれている福岡県内の全店舗に伺い販売活動を行った時は、県内外から自分に会いに来てくださる方々がいて、おしゃべりをしたり、差し入れをいただいたり、お会いしたことがきっかけで小呂島に来てくださる方もいて嬉しかったです。

つくった製品が売れ、評価されること、そして地元で余ってしまった野菜や未利用魚などそのままでは商品にならない食材を使用して製品をつくることです。新たなアイデアを考えるのも楽しいですし、その結果開発した商品が「おいしい」と言われるのはうれしいですね。
浜口水産の商品では「ばらもんあげ」という、五島の家々で伝承されてきた手づくりのすり身あげを再現した商品が、昔からの練り物を知るお客様から「懐かしい味」と好評です。また、コロナ禍では、五島の農家さんの「ネギが育ちすぎて売れなくなった」などの声を聞いたためネギを買い取り、ねぎ油やねぎダレといった調味料も開発しました。

魚を育てることは餌をあげたり、水槽掃除をしたりと毎年同じような作業ばかりですが、同じ魚種でも魚が変われば飼い方も変わってきます。しっかりと魚を観察し、真剣に魚と向き合うことで、魚は成長で応えてくれます。試行錯誤しながら苦労して育てた魚が大きくなるとおもしろさを感じますし、もっと良い方法はないかという意識を持って取り組み、成果が出たときはさらに大きなやりがいを感じます。

笠戸島 養殖の様子(提供・旗手友紀さん)

Q3.日々のお仕事のなかで、特に好きな仕事や作業があれば教えてください。

商品開発です。食事中に、これまで食べてきたものや今食べているものが課題の素材と結びついてアイデアが浮かぶことが多いですね。最近では、魚の生臭さを出さないように工夫してアジの餃子を開発しました。肉が食べられなかったり、魚が嫌いな方に特に好評でした。

福江島 五島の港で水揚げされた魚は、新鮮なまま工場で加工される(提供・濱口貴幸さん)

気候が良く凪の時に海上の筏で作業をしているときは、景色はきれいで気持ちが良く仕事ができます。そういったときは、魚もよく餌を食べてくれます。

笠戸島 海上に浮かぶ養殖筏(提供・旗手友紀さん)

小呂島のPR活動です。今年の4月から「小呂島島づくり協議会」の公式サイトを立ち上げ、ユーチューブチャンネルも開設予定です。今後は小呂島の季節の移り変わりを伝えるためにも、島の行事や旬の魚を月ごとに紹介していきます。コロナ禍でインターネットなどの画面を見る機会が増えた方々にアピールしたいと思っています。公式サイトでは絶対においしい!と自負している小呂島の魚の直売も行い、魚が食卓にのぼるまでの物語も一緒に届けたいですね。
個人のインスタグラムは毎日更新し、自分の島での日常を通し島外の人に小呂島に興味を持ってもらい、わくわくを感じてほしいです。小呂島のことをもっと広めたいので、やれることは何でもやります!

小呂島 PR販売の様子(提供・島田乾生さん)

Q4.日々のお仕事のなかで、特に大変な仕事や苦手な作業があれば教えてください。

自然と関わる仕事なので、どんなに順調に魚を飼育していても天候や災害などに影響を受けることがあります。予防や改善策を施しても、台風や高潮などで魚が全滅してしまうことがあります。
また、自然や魚に合わせて仕事をしなければならないことが大変です。魚の育成期には暑いときでも毎日、朝早くからこまめにしっかり餌をあげないと大きくなりません。作業スケジュールを立てても、天気や潮の満ち引きに合わせないといけないので繁忙期は大変です。

漁師や加工部の仕事と、島づくり協議会の仕事の両立が課題です。現在、漁は日暮れから日の出まで、加工部の業務は朝8時~5時までとなっています。そのほか、休日に営業活動や打ち合わせをすることもあります。
どの仕事も挑戦したいことが無限にあるので時間が足りず、自分の勉強不足や力不足を感じることもありますね。

小呂島 港の風景(提供・島田乾生さん)

やはり商品開発で苦労します。材料の選定や味付けなど、自分で決定し、評価しなければならないので、正解が分からないのです。相談する人もおらず、規定があるわけでもないのでいつも迷いながらやっています。
「Tポイント・ジャパン」と協力して開発し、2019年11月に販売を開始した、五島産未利用魚を使用した「五島のフィッシュハム」は浜口水産では初の洋風の製品ということもあり、苦労した商品の一つです。参画したT会員の方々は食に対して思い入れが強く、商品化するための味を決定するのに四苦八苦しました。
通常浜口水産で使用する調味料は塩と砂糖のみですが、フィッシュハムにはこれまで使用したことのなかった10種類ものハーブやスパイスで味付けをしたことで、未利用魚独特の臭みを消すことができました。
できあがりまでは調味料の何を増やすかなど味付けのバランスが難しく、私が食べ慣れなかった味なのでやはり正解が分からなかったですね。ただ、フィッシュハムの開発をきっかけに新たな知識が身についたことで「さばリエット」というペースト状の洋風な製品に結び付きました。
また、袋詰めなどの長時間の単調作業も苦手です。眠くなってしまうので……。

Q5.ご自身が暮らしている島で生きる日々のなかで、特に「いいなあ」と感じる瞬間を教えてください。

自然豊かな笠戸島で、自分が好きな海や魚と共に仕事ができるのは、素晴らしいことだと思います。また、島の方々は、親切で人情に厚い方ばかりです。いろいろと気にかけてくださったり、島のイベントなどの時はみんなで協力して、島の活性化に取り組むこともいいなあと感じます。

小呂島は時間がゆっくり流れ、ありのままの自然があり、景色もきれいでくつろぐには最高です。お勧めは沖ノ島や本土の景色が一望できる「海軍望楼」。地平線が丸いことや自然の壮大さを実感できる、地元民しか知らないスポットです。
また、小呂島ではみんなが知り合いのため、子どもたちに何かあっても誰かが助けてくれる安心感から、子ども同士だけでのびのびと過ごせます。就学前から小中学生といったいろいろな年代の子ども同士でいつも一緒に楽しそうに遊んでいます。子どもを育てるには恵まれた環境ではないでしょうか。
知り合いが初めて小呂島を訪れて、帰る時には「また絶対来たい」と言ってくれますが、それほど魅力が詰まった島だと自負しています。

小呂島 海軍望楼からの眺望(提供・島田乾生さん)

気軽にアウトドアを楽しめること、季節を感じやすいことです。福江島は海と山、両方を身近に感じることができ、トライアスロン、SUP、トレッキングなどが楽しめます。若いときはこの環境が「退屈だな」と感じていましたが、30代半ば頃から地元と東京を飛行機で往復する機会が増えたことで、生活するだけで癒される五島の良さが分かってきました。今では地元に帰るとホッとしますね。
島で過ごしていて特に好きな時期は、湿気が少なく過ごしやすい梅雨前の5月と10月頃です。その頃にバーベキューをしたり外でビールを飲んだりするのは楽しいですよ。

福江島 海山が近く、アウトドアを気軽に楽しめるのが島暮らしの魅力(提供・濱口貴幸さん)

Q6.20年後の未来を展望するとき、ご自身の仕事あるいは島にとって必要だと感じている事柄があれば教えてください。

これまでは島内のことは島内で解決してきました。しかし近年、島外からの釣り客などが増え、ごみが放置されたり、島外の人が島内の生活圏内に入り込むのを快く思わない島の人もいて、殺伐とした空気が流れることがあります。それでは小呂島の本来の良さが打ち消されてしまうので、島内外の人が共存するためのルールをつくって、将来的には小呂島のことが好きで、島内の人とも仲良くしてくれる人を増やしたいです。
これからは島内に宿泊施設を準備し、ゆくゆくは島外から島に移住できるような環境を整え、人口と雇用が増え、経済が回るようにして、この島を残そうとしてくれるすべての人とともに、にぎやかで、なおかつ癒されるような島の未来をつくっていきたいです。

小呂島 漁港の風景(提供・島田乾生さん)

食品製造業として島内の食材を加工することです。浜口水産では、島外へ売るための販路を以前から確保していることが強みなので、今まで以上に積極的な販売活動を行うことで、商品の原材料を提供してくれる島内の生産者の下支えになることができます。
特に今後は、島外の百貨店などの催事で買ってくださったお客様を、より積極的に直販に導いていきたいです。そうしたお客様に浜口水産の商品を覚え続けてもらうために、社外報を作成し定期的に送るようにしています。

福江島 濱口貴幸さんお気に入りの島の風景(提供・濱口貴幸さん)

20年後の将来も、豊富な水産物が持続的に利用できるようにつくり育てる漁業を漁業関係者と共に積極的に進めていかなければならないと思います。また、多くの人々が海や島と適切に関わることで、水産資源だけでなく景観、憩いの場、食文化、観光など多くの恵みを享受できる、人と自然が共生する豊かな海を目指す里海づくりをみんなで行っていかなければならないと思います。

笠戸島 上空から見た島の風景(提供・旗手友紀さん)

Q7.島が大好きなリトケイ読者の方へのメッセージをお願いします。

下松市栽培漁業センターでは、大型のタッチングプールがあり、笠戸島周辺で生息する魚と触れ合えます。「笠戸ひらめ」の養殖場も見学ができ、餌やり体験をすることができます。また、動物職員として一緒に働いている猫たちも、皆さんをお出迎えしてくれます。ぜひ遊びに来てください。
>>(公財)下松市水産振興基金協会 下松市栽培漁業センター 

今はまだまだ島外との交流が少ない島ですが、これからはたくさんの人たちのよりどころとなる島を目指しています。ぜひ小呂島に興味ある方は力を貸してほしいと思っています。そして、同時に新しく変わっていく小呂島の姿を楽しみにしていただければ幸いです。
>>小呂島島づくり協議会公式サイト
>>島田乾生さんインスタグラム

島好きの人、島の人、島を離れた人に支えられて仕事ができていると実感しています。そういった方々のためにこれからも良いものをつくって事業継続をさせていきたいです。
>>株式会社浜口水産 公式サイト

     

関連する記事

ritokei特集