つくろう、島の未来

2023年01月28日 土曜日

つくろう、島の未来

漁師になりたい!といったところで、就漁の方法もさまざま。

そこで今回は、伊豆諸島の新島(にいじま|東京都)と八丈島(はちじょうじま|東京都)から、まったく異なる形で就漁した二人の漁師さんにお話を伺います。新島からは、建築業界から一転、就漁フェアで今の親方と出会い、乗り子として3年目となる熊谷雄輔さん。八丈島からは、漁師の家族親戚に囲まれて育ち、高校卒業と同時に就漁したベテラン漁師の広江篤夫さん。

同じ漁師でも、なり方も世代も異なるお二人。しかし、「漁師としての成長に必要なものはコミュニケーション」「楽しみはやっぱりお酒」と共通する部分も。同じ伊豆諸島でも、島によって異なる食文化にも注目です。

人物紹介

漁師・広江篤夫さん
生まれも育ちも八丈島、18歳で就漁、51歳の現在まで漁師一本。漁では金目鯛やカツオ、メダイを獲る。釣り客を乗せて遊漁船を出すことも。好きなものは海、趣味は泳ぐこと。釣りが好きな子(漁師希望者)募集中。

漁師・熊谷雄輔さん
埼玉出身、新島で漁師生活3年目。漁業新規就業者フェアで親方である大沼三郎さんと意気投合したことで漁師に。赤イカやクロムツ、金目鯛を獲る。風が強くて出漁できない時期は前職の経験を活かして建築現場で活躍。


ライター・ネルソン水嶋
合同会社オトナキ代表。ライターと外国人支援事業の二足のわらじ。鹿児島県・沖永良部島在住。祖母と二人暮らし、帰宅が深夜になると40歳手前なのに叱られる。
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離島経済新聞社 石原みどり
『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。

伊豆諸島の島寿司も島でいろいろ

広江さんは、普段どんな風に島の魚を召し上がっているんですか?伊豆諸島といえば金目鯛が有名ですが。

目鯛を食べるかな、金目鯛は出荷しちゃうから。有名な食べ方は島寿司だよね。昔からあるし、新島にもあるんじゃないかな。

島寿司は保存できるよう醤油に漬けたネタを扱う。八丈島「梁山泊」で撮影。

島寿司って初めて聞いたんですが、形は寿司ですか?

そうそう。昔はほら、冷蔵庫がないから(保存できるよう醤油に漬けた)。練りからしを混ぜまぜして食べてたな。

伊豆諸島ではわさびの栽培は難しくて、代わりに辛子を使う文化があるんですよ。新島だと、ネタの上にちょんと乗ってますよね。

そうですね、八丈島だと乗ってないんですか?

うん、ふつうの寿司と同じで間に挟んじゃう。

新島の島寿司は、ネタの上に辛子が乗っている。新島「肴なぎさ」で撮影。

伊豆諸島の居酒屋に行けば島寿司が出てきて、炙ったくさやをかじりながら東京島酒を呑むのが定番ですよね。

あとは基本、刺し身だな。醤油に唐辛子を付けて。

唐辛子ですか?

箸で潰して醤油に混ぜて、刺し身に付けて食べる。辛すぎてやばくなるときもあるけど、それもおもしろいね。唐辛子をジップロックに入れて冷凍してある家もあるよ。あとは明日葉、苦くて好き嫌いが別れるね。

明日葉は香りが強いハーブみたいな葉もの野菜なんですけど、火山が噴火したあとに生えるんですよ。

へぇーーー。

養分を取るから畑の野菜ができなくなるらしいよ。漁業の話じゃないな(笑)

漁業のこともぜひ教えてください(笑)

八丈島の大里地区にある玉石垣、流刑にあった人々が積み上げたものとされる。

深海から釣り上げるダイナミックさに魅了され

熊谷さんはどうして漁師になろうと思ったんですか?

僕は海なし県の埼玉出身で、釣りもやったことがなかったんです。建築の仕事で職人として働いていたんですけど、30歳になる前に「別のことに挑戦したい」と思い、漁業新規就業者フェアに参加。そこで今の親方の大沼さんと出会い、就職しました。

漁師のどんなところに魅力を感じたんですか?

新島で体験漁をしたときに、海の上で仕事することが新鮮すぎて。そのときは金目鯛漁だったんですけど、300~500メートルの深海から狙うんですね。東京タワーやスカイツリーくらいの高さで、そんな離れたところから釣ることがすごいなと。

スカイツリーの展望台から地面にいるなにかを狙うってことですもんね。

親方の大沼さんと後輩と、漁をする熊谷さん。

フェアに行く前に、いろんな仕事の選択肢があるじゃないですか。体験漁の前や、親方に会う前に、漁師に惹かれるきっかけはあったんですか?

今はスマホでなんでも調べられるじゃないですか。将来について悩んでいた頃にたまたま検索している中でタイミングよくヒットしたんだと思います。やったことがないことに挑戦したかったし、釣れるか釣れないか白黒ハッキリしていて良いなと。

漁師という仕事は昔からあるけど、出会い方はとても今っぽいですね。

熊谷さんがふだん乗る漁船、「大三丸」。

広江さんは18歳から漁師をされているとのことですが、漁が身近な環境で育ったんでしょうか。

そうだね。親戚一同が漁師で、毎日海で遊んでたようなもんだから。高校を卒業したら親父の跡を継ぐ、うちの場合は弟も同じだった。ただ、同級生も途中で辞めたり、親の跡を継がなかったり、悲しいよね。だから今は、若手を育てる側に回って頑張っていきたいと思ってますよ。

先輩方からはどんなことを教わったんですか?

風や海の状況、変化のひとつひとつ、月まわりのこととか、いろんなこと。今も昔も自然は変わらないから。勘を活かしていかに釣るかだね。熊谷さん、そうだよね?

すごい勉強になります(笑)

はは(笑)

広江さんがふだん乗る漁船、「松丸」。

若手の成長はコミュニケーションが肝心

お二人が乗られている船は何人体制なんですか?

親方と、僕と、僕の一年後に来た20代の子の三人です。

私は一人。この前、乗り子としてやっと5年勤め上げて、正組合員になった子がいて。もうちょっとで船を持てるんじゃないかな。

それは楽しみですね。乗り子さんはお幾つの方なんですか?

30歳くらい。島が好きで遊びに来て、釣具屋で知り合って、俺のところに遊びに来るようになって、「漁師になりたい」と。厳しいぞと言って、乗せるようになったんだけど、魚を釣るどころか奥さん釣り上げちゃったんだから(笑)。おめでたいことだけど。

独り立ちするとなったら、船はどうするんですか?

ツテを辿って千葉や静岡から買ってくるしかないだろうね。島で年配の方が引退して譲ってもらうのもあるだろうけど、それは分からない。本気出して買うんだってなるなら俺も力添えしてやろうと思ってる。

親方や先輩が後輩に伝えることって、海や漁法だけじゃなく、船を買うルートを紹介してくれるとか、いろんな面に渡るんですね。

そうですね。やみくもに船を持ってきてもエンジンがダメだったらまたお金がかかるし。やっぱり若い人は早く船を持ちたいんだよね。あとで後悔するから、ゆっくりと腰を据えて品定めしないと、漁にならないから。

温かく後押ししてくれる先輩のアドバイスは、ちゃんと聞くべきですね!

広江さん(左)とお弟子さんの三国一馬さん(右)

若手を教える上で、心掛けていることがあれば聞きたいです。

一生懸命やっていれば、周りが認めて自ずと声を掛けられるわけさ。真面目だな、どんどん教えてやるよ、って。だから、「誰の船でも手伝いに行け」というのは言ってる。俺のときもいろいろ教えてくれたから、それを見習って教えようかなと思ってるね。

ご自身が受けた教え方が、継がれているんですね。熊谷さんは、漁師として学ぶ上で気をつけていることはありますか?

熊谷さん(左)と、大沼三郎さん(中央)と、後輩の乗り子さん(右)。

広江さんの話は自分も感じることで。来てすぐは、親方との関係はよかったですけど、島出身でもないしどこのどいつだという状態で。ほかの漁師の方から声を掛けられたりはなかったですね。それも三年目になるとほかの漁師さんのところを手伝ったり、もやいをとったり。今では『くま、くま』みたいな感じで可愛がってもらえるようになりました。

お二人の話に共通して、漁師をする上でコミュニケーションは大事ですね。

漁師うんぬんではなく、地域に馴染むことが一番大事かなと思いますね。僕の場合は飲みニケーションがあって、建築関係だったり役場の人だったり、今は消防団にも入っているんですけど、そうして馴染むことですごく住みやすい環境になったかなと思います。

出漁できない冬季は建築現場で働く熊谷さん、飲み会で仕事を紹介してもらうこともある。

仕事の癒やしは、お酒!

熊谷さんは、新島に住んでいていいなぁと感じるのはどんなときですか?

仲の良い人がみんなお酒が好きなので、飲むことが多くて楽しいですね。あと、月一回は親方と下の子で給料計算しながら飲む日があって。手応えがある月は楽しみです。

島の自然はどうですか?

三年目だと、あんまり感動しなくなってきましたね。慣れって怖いです(笑)。

新島の、火山灰の地層が露出した白ママ断層。

広江さんが暮らしの中で感じる島のよさって何ですか?

人付き合いがいっぱいあることだよね。魚を持っていくと野菜をもらえるから、それで四季を感じるよ。家に帰ると玄関に大根とか置いてあったりとか、うれしいよね。

八丈島は温泉もありますよね。

あんまり行かないけどね。

仕事の疲れはどうやって癒やしてますか?

酒(笑)

それしかないですよね(笑)

二人とも本当にお酒が好きだった(笑)

八丈島は活火山で、温泉も魅力のひとつ。

ぜひ一日体験に!酒でも飲みましょう

お二人とも、今日はありがとうございました!最後に読者にメッセージがあれば。

弟子がもうちょっとしたら卒業なので。一人ぐらいなら乗せられるから、一日体験でも来てほしいね。その代わり、吐いても帰らないけどね(笑)。それでもよければぜひ遊びに来て。酒でも飲みながら、漁師の仕事や、八丈島の魅力を知ってほしいなと思います。

自分はまだいち乗り子なので、もし漁師をやってみたいという人がいれば、どしどし来てください。親方は居酒屋(「焼き鳥大三」)もやっているので、自分の名前を出してもらえれば行きますんで!

焼き鳥大三の金目鯛のねぎま、熊谷さんいわく「お酒のアテによきです」。

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