佐渡の成人式は8月15日。着物も袴も着ることが難しい夏の成人式。ワンピースやスーツで迎える成人式に、佐渡らしい祝いのカタチがプラスできないだろうか。そんな想いから佐渡生まれ佐渡育ちの26歳がはじめた「成人服プロジェクト」。新成人と先輩佐渡っ子がつくり出した、新しい成人式スタイルを佐渡出身ライターが取材しました。
佐渡島らしい「成人服」をつくりたい
2014年の今年、佐渡島では630人が成人を迎え、成人式会場「アミューズメント佐渡」へ一堂に集りました。華やかなワンピースやスーツ姿に混じって、揃いの羽織を洋服の上から羽織っている新成人が数十人。この新成人は、佐渡島中部に位置する新穂(にいぼ)で生まれ育ち「新穂中学校」を卒業した47人。新穂では15歳になると、自身の未来に向けた思い思いの志を文字に残す「立志元服式」が行われます。新穂出身の47人は、そのときに書いた文字が、それぞれデザインされた羽織を着て成人の日を迎えました。
羽織をデザインしたのは、同じく新穂中学校卒業の服飾デザイナー・山本佳那さん(26歳)。
「成人服の企画を考えたのが、自分が成人した6年前でした。やっぱり夏だからワンピースだったし、着物も袴も着られないですよね。成人式っぽくないし、佐渡なのに佐渡島らしさもないという気がしました」
夏に成人式を行う地域は、新潟や長野の山間部など、冬に帰省することが気候上困難な地域にあるといいます。18歳で大学に進学するため地元を離れる若者が多い佐渡では、時化やすい冬の海で船が欠航した場合、1月15日の成人式に出席できません。
「そこで自分が考えていることを、私が助手を務めている女子美術大学出身のデザイナー・平沢みゆきさんや学生たちに話してみたら、みんな制作を手伝うと言ってくれて。同時に、今度成人を迎える新穂の子と連絡をとったら、その子がLINEで同級生を集めてくれました。1人ではできないことも、みんなの協力があったから実現することができました」
15歳の頃の「志」を思い出して
こうして3月から、新穂の新成人たちと女子美制作チーム25名の「成人服プロジェクト」が始動しました。この日から、8月の成人式を迎えるまでの約半年間、新成人と山本佳那さんの意見交換会が毎月行われました。どんな成人服が着たいか、それだけでなくなぜ佐渡に帰って成人式を迎えるのか、生まれた地、育ててくれた家族、自分を築きあげた環境のことにまで話は及び、1回の打ち合わせは約5時間にもなったといいます。その話し合いの中で、「あ、あれだ」と山本さんが思い出したのが、自分自身もかつて書して志を立てた「立志元服式」でした。
成人式当日は、女子美制作チームが作った羽織が受付で手渡され、成人服プロジェクトに至るまでの講演や上映会も開催。新穂の新成人は一人ひとり異なるデザインの羽織を身にまとい、20歳の記念を集合写真に収めました。
「佐渡を出て、3年経った今のほうが佐渡が好き」
そう感じている新成人が多いと聞きました。佐渡にいた頃は佐渡がキライだったという山本さん。「10代の頃は都会で活躍する同世代をテレビで観たりすると、早く都会に出て自分がやりたいことをしたいと思いました」と振り返ります。
自分が生まれ育った地でやりたい事を実現する
「自分がやりたいことは、ここ(佐渡)にいたらできないと思い込んでいました。でも大学院に進んだときに、ゼミの先生から『1度でいいから自分が生まれ育った地で思う事をやってみなさい』と言われて、それが両津の大川集落の鬼太鼓衣装をつくるというプロジェクトなのですが、すごく楽しかったんです。まだ私は東京で成長したいと思うけど、東京で若い人が佐渡の良さに気づくきっかけがつくれたらいいな。私も今は18歳当時に比べたら佐渡が好きです」
来年もまた成人服を、今度は新穂だけでなく他の集落も、そしてその地域ならではの特色を活かした成人服を、20歳の大人への入口を祝いながら一緒に考えていきたい。伝統が人から人へ受け継がれるように、先輩から後輩へ贈り続く山本佳那さんの「成人服プロジェクト」は、今年スタートをきったばかり。
後編は「新成人座談会」を公開。「佐渡から出てみて佐渡ってどうよ!?」をテーマに新穂男子3名が語ります。お楽しみに。(文・佐渡島ライター 古玉かりほ/写真・華)