喜界島の航路減便で考える、離島航路と島の未来
喜界島(鹿児島県)で2025年6月から、これまで週5便だったフェリー便が4便へと減便になりました。全国の離島に押し寄せる離島航路問題が、島の暮らしに直接影響を与え始めています。
この問題を受けて、9月2日、喜界島在住で元地域おこし協力隊の谷川理さんが、離島航路を研究する行平真也さん(九州産業大学地域共創学部地域づくり学科准教授)の来島に合わせ、島民との意見交換会を開催。テーマは「専門家が語る喜界島のフェリー減便の背景とこれから」。航路問題を見つめる約30人の島民が、課題と希望を議論。その様子について、谷川さんからお話を聞かせていただきました。
意見交換会を開催した、喜界島在住の谷川さん
離島航路問題に直面する喜界島で意見交換会
離島にとって航路は、言わずもがな、命綱とも言える生活インフラです。しかし、燃料費や修繕費の高騰、そして深刻なのが「船員不足」。その影響は、島民の移動はもちろんのこと、農水産物の出荷や生活物資の運搬、子どもたちの部活動(遠征)など、島の未来に関わる重要な問題です。
喜界島では4月末に減便の情報が伝えられ、5月には住民説明会が開催されました。150人近くが参加した説明会で運航会社から語られた背景の一つにあったものは、船員不足。説明会後、企業努力を求める声があった一方、「もっと、正しく状況を知らないといけないよね」という声もあったと話す谷川さん。
このような中、6月16日に開催された国土交通省主催の「スマートアイランド推進事業」の一環で、離島航路をテーマとしたオンラインイベントが開催。減便に直面する事例として、喜界島から谷川さんが参加され、そこで離島航路を研究する行平さんとつながり、島で対面による意見交換会が実現しました。
喜界航路意見交換会の告知ポスター
どうやって航路を守る?意見交換会で語られた課題と希望
意見交換会には、30〜70代までの島民約30人が参加しました。会場は谷川さんの事務所兼ショップ「HOWBE」。農家や運送業者、役場職員、議員まで、立場はさまざまですが、共通項は航路減便が仕事に影響のある人々。また、子どもの部活動の遠征などにも影響があることから、会ではPTAなど、親としての立場からの意見も出たそうです。
話し合いでは、航路減便によって起こる影響が共有されました。農産物の出荷タイミングが限られてしまうことや、子どもたちの部活動遠征が宿泊を伴い家庭への負担が大きくなること。さらに、便数の少なさに加えて天候不良で欠航になると、週4便からさらに減る週が発生する可能性も触れられました。
会では、「週5便が4便に減るなら、4便が3便になる可能性もある」「企業努力だけでなく、社会全体で船員不足をどう解決するか考えないといけない」といった意見が出ました。また、全国の離島航路と比較する中で、喜界航路は喜界港への入港が朝4時半と早朝ということもあり、他の航路に比べて労働時間が深夜にわたってしまう環境も、船員不足の要因となっているということが見えてきたそうです。
議論は、「それでも自分たちの航路をどう守るか」という方向へと展開。たとえば、島の子どもたちが将来船員を目指せるよう、免許取得への補助金を出す仕組みがあってもいいのではないか。あるいは、AIやテクノロジーによって船員数を減らす技術が開発される日を待つしかないのか。
この約30人が集まった場で、喜界島としての方向性が定まったわけではありませんが、これからみんなで話し合っていこうという風潮が生まれたとのことでした。谷川さんは「これを機に裏航路ではなく表航路(※)に入れてもらおうという希望的な意見もあったのですが、背景にある事情を知ることで、そうしたことは実現しないだろうなという認識合わせができました」と振り返ります。
※奄美群島在住者の間では、鹿児島と奄美大島を結ぶ航路で、沖縄・那覇港までを結ぶマルエーフェリーとマリックスラインが運航する航路は「表航路」、奄美海運が運航する喜界島を経由する航路は「裏航路」と呼ばれている。
意見交換会で離島航路の現状を解説する行平さん
未来を見据え、島ぐるみの対話を広げるために
谷川さんは、今回の意見交換会は、行平さんの出会い、それから間もない行平さんの来島があって開催に至りましたが、次は役場や議会が主催となることで、谷川さんとはつながっていない島民も含めて、より多くの声を集める場にしていきたいといいます。参加した議員の中には、その後の議会で航路問題に言及した例もあったり、「またやるときに声を掛けてよ」という言葉ももらったりしたとのことです。
谷川さんは「喜界島で開かれた別の講話であった言葉なんですが、『無関心ではいられるけど、実際に自分の生活が不便になっていったら無関係ではいられなくなる』。これは、今回の離島航路にも当てはまる言葉だなと思いました。状況は決して明るくないけど、行平先生がプライベートで来てくれたことに感謝したいし、島外に頼もしい味方ができたことはよかったと思います」と振り返りました。
航路問題は、決して喜界島だけの話ではありません。谷川さんの言葉を借りれば、「喜界島は離島航路問題の矢面に立っている」。つまり、今後は全国の島々が同様の課題に直面することは明らかで、「島同士が人材を奪い合う未来」を防ぐためにも、今からできる備えが必要ではないかと思いました。
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