つくろう、島の未来

2019年12月09日 月曜日

山口県周防大島出身の民俗学者 宮本常一氏の著書に導かれて、2013年2月より瀬戸内海の島、屋代島で周防大島町地域おこし協力隊として活動を始めた、島記者 三浦の島歩きコラム。

#05 前島5時間滞在記

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[宮本常一撮影(昭和41年12月) / 周防大島文化交流センター所蔵]

人口数十人の離島・前島に年間延べ3,000人が押し寄せる。そんな日が来るなんて誰に想像できたでしょうか。2年ほど前、前島航路に出現したスナメリが話題になり、現在も多くの人で賑わっています。ただ、賑わっているのは船の上だけで、前島に上陸する人は少ない。そのことを島の人たちがどう思っているかはわからないけれど、ちょっと淋しいような気がします。なので、僕は前島に足を踏み入れることにしました。次の船が出るまでの約5時間、今回は息子と一緒の 前島「あるく・みる・きく」記録です。

お昼前に前島に上陸した僕が最初に向かったのは、いつも港から遠くに見えて気になっていた建物。実際に訪ねてみると、そこは小学校(分校)でした。子どものいない島なので、すでに廃校になっていますが、校舎はこの地区の公民館として再利用されているようです。校庭で子どもを遊ばせて、船に乗る前に買った弁当を広げて、午後のひと時を過ごしました。もしも学校に魂のようなものがあるならば、久しぶりに感じる子どもの気配を懐かしく感じてくれたでしょうか。

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廃校で郷愁に浸ったせいか、スタジオジブリのアニメに出てくる風景を歩いているような気分。森の妖精(?)に導かれるように次に目指したのは、黄幡神社(おうばんじんじゃ)。船の中で得た情報では「島に神社があるけど、もう草ボーボーで行けねぇぞ(意訳)」とのことで、恐る恐る前に進む感じになります。大きな通りから脇に入る小道があちらこちらに見えて、往時にはたくさんの人が農地に出入りしていたことをうかがわせます。そんな農道のような道の一本と思って覗いてみると、意外と簡単に神社を発見しました。

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大きな岩が祭られています(周防大島には巨石信仰の名所が多い)。その昔、この岩の下に大蛇が潜り込んだとか。逆に、蛇が出てきたとも。話を聞く人によって諸説様々ですが、商売繁盛と海上安全の神様であるようです。しかし、今回簡単に入れたのは「裏口」みたいなものだったようで、本当は写真右側に山の上に続く石段の参道があり、上から下に下ってお参りするのだそうです。鳥居から参道を下る神社というのは全国的にみても珍しいみたいですね。しかしながら、船で得た情報通り、そのいわゆる参道に続く道が草ボーボーで、歩くのはかなり困難な状況でした。

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この鳥居から下っていくのです。再び農道に戻り先へ進むと、いろいろと兼務の多い建物を発見。

前島集会所、前島大師堂、前島老人憩いの家。休憩所の文字はありませんでしたが、それっぽい雰囲気だったので一休みさせていただきました。

再び、船着き場付近の海岸に出て、息子とふたりだけの海水浴を楽しみました。誰もいない海。

それでも、まだまだ残り2時間強の前島滞在をどう過ごせばいいのか?半分途方に暮れながら歩いていると、庭先で洗濯物を干す女性の姿を見つけました。黄幡神社をきっかけに話しはじめてみると、前島に生まれ育ち、小学校を卒業すると進学と就職のため島を出て、数十年を経た今、また島に戻ろうとしているそうです。今まさにUターン準備中という感じで、弟さんが大工仕事をしているところでした。「あつかろう」と差し出されたビールを飲みながら、「その山にヘリポートがあってさ」とか「山の頂上に砲台があったよね」とか少しばかり情報が得られたので、再び山歩きをすることになりました。その間、小学1年生の息子は、そのお宅にお邪魔してテレビを見たり、ジュースを飲んだり。お陰様で島取材に専念することができました。

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目的のひとつヘリポートを見つけることはできたんですが、この藪のさらに奥の奥にあるという砲台は断念。半袖半パン草履の僕には向かう勇気がありませんでした。マムシが出てきたらイチコロですからね。半分の達成感と半分の落胆を胸に息子を迎えに再びそのお宅を訪ねると息子は「親戚の子か?」ってくらい馴染んでいました。砲台をあきらめたことを伝えると「写真がなかったかねぇ」とアルバムをめくりはじめるお姉さんと弟さん。

「これが黄幡神社のお祭だね」とか「お父さんは漁師で2階が仕事部屋」「前島神社にもお祭があってね」などアルバムをめくりながら、昔話に花が咲く。歳を重ねると姉と弟もこんな風になれるのかなぁと遠くの姉を想うのでありました。お目当ての砲台は出てこなかったけど、このご家族と出会えたこと、その優しさに触れられたことが今回の前島での大きな収穫でした。

そしてそして、また後日、事務所に届いた封筒に入っていたのが、「父が撮った古いものですが…」と書き添えられた砲台の写真でした。a8c8edd4172746e1e0fe04e125f932f2-609x431

この女の子がきっとお姉さんでしょう。

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かなり迫力ありますよね。もちろん重火器そのものはありませんが、台座や見張り塔、弾薬庫などはそのままの形で残っているようです。また再び前島に渡る理由ができました。砲台をこの目で見るため、そこへ続く道も少しキレイにしておきたいなと思っています。


 

〈前島データ〉

面積:1.09k㎡/外周:2.20km/人口:17人(15世帯)/高齢者比率:82.35%

※平成25年4月1日現在

 

〈周防大島~前島 町営渡船〉

大人270円/小児140円

便 久賀発 前島発 前島発 久賀発
1 7:10 7:30 7:35 7:55
2 11:20 11:40 11:45 12:05
3 16:00 16:20 16:25 16:45

問い合わせ先:周防大島町役場

離島経済新聞 目次

【連載】周防大島、宮本常一の島をあるく

山口県周防大島出身の民俗学者 宮本常一氏の著書に導かれて、2013年2月より瀬戸内海の島、屋代島で周防大島町地域おこし協力隊として活動を始めた、島記者 三浦の島歩きコラム。

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