つくろう、島の未来

2020年10月31日 土曜日

海とヒトとを学びでつなぐ一般社団法人3710Lab(みなとラボ)を主宰する東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師 田口康大さんによる、寄稿コラム。第3回は宇久島(うくじま|長崎県佐世保市)の地元高校生たちが島の未来のために話し合った学びの活動について。

島に息づく文化の魅力

2018年の夏、私は長崎県の五島列島最北端の島、宇久島に足繁く通っていました。全校生徒わずか26人の地元宇久高校の生徒たちと、雑誌の記事づくりを行っていたのです。現地で行った取り組みは当時このritokeiでも取り上げてもらいました。

また詳細については3710Labのウェブサイトでもレポートしています。この寄稿を機に読み返してみると、わずか2年前の出来事であるにもかかわらず懐かしく感じるのは、それだけこの世界が一変してしまったからかもしれません。しかし宇久島にとっては、いずれにせよ数年で大きな変化がやってくることを、私はこの記事づくりを通して知ることになったのです。

宇久高校の3年生10人と始めた雑誌の記事制作。雑誌『島へ。』の一企画をワークショップを通して共同制作すべく、私は同誌のデスクを務める既知の編集者、熊本鷹一さんと授業内容について話し合いを重ねていました。雑誌づくりのプロジェクトテーマは「宇久島の未来をつくる」。私たちは、まず高校生たちに自分たちが考える宇久島の魅力について、列挙してもらうことにしました。

神楽と祭り
釣り
かんころもち
鯨文化

豊かな環境と人とが織り成し、確かに島に息づいてきた文化が魅力として挙げられました。しかし、それらのほとんどが飾りっ気のない素朴とも言えるものです。五島列島の島で唯一キリスト教会がないことと関係があるのではないかと私は感じました。

私たちが宇久島を訪れた2018年7月、ちょうど潜伏キリシタン関連遺産がユネスコの世界文化遺産に認定されたところでした。しかし宇久島はそれに該当しません(※)。

※宇久島にも多くの信徒がいましたが、島内の神父が処刑された後は信徒はいなくなったとされてきました。しかし、大浦天主堂キリシタン博物館(長崎市)研究部長の大石一久氏が、2017年10月から宇久島などで行った調査において、信仰は消え去ったものの、体を伸ばして埋葬する伸展葬などキリシタン特有の習俗が近年まで受け継がれていたことが分かってきました。

宇久島には生活に根ざした多種多様な伝統文化や食文化が残り続けており、高校生たちには、島の歴史背景から生まれた文化や風習をナチュラルに継承している雰囲気がありました。そこには「民の力」とも言うべきか、資本や経済の力ではなし得ない、脈々と続く地域の「然」を感じるものがありました。

高校生が島の未来のために話し合う

観光化されなかったゆえの豊かさを持つ一方、島の人口減少は著しく、ピーク時は1万1,000人を数えた島民も、現在では2,000人弱にまで減少。現在でも毎年百人ほどの人口が流失しています。島の高校生たちには、将来的に島が存続できるのか、そんな危機感があり、それは全島民共通のものでもありました。

そんな中、ある民間企業が主導して、島内の4割の敷地を使ったメガソーラーを敷設する計画が持ち上がっていました。宇久島には大きな変革のときが迫っていたのです。2020年現在でも、その是非は紛糾し続けていますが、当時、高校生たちがこの問題について互いに語り合う機会はまずありませんでした。

メガソーラー計画は、学校ではもちろんのこと、プライベートでも大いに語りづらい問題でした。日本では多くの場合、政治やイデオロギーについては公の場では語らないとすることが多いように思います。例えば芸能人やプロスポーツ選手などが自身の政治的立場を明確にすると、批判に晒されたりすることが多くあります。ましてや自分の身近な問題が直結した場合、なおそれを議題にあげるのが難しいことは容易に想像できます。

私たちの今回のプロジェクトは「宇久島の未来をつくる」というもの。島の将来を大きく左右するこの計画を無視して、島の未来について生徒たちと語り合うことは不可能でした。そこで宇久高校の校長先生や担任の先生と慎重に協議をし、地域の方々の意見も聞きながら、この問題について生徒たちに語り合ってもらうことにしました。

高校生たちは恐る恐る、しかししっかりとした口ぶりで語り始めました。

「人口が増えることで島が活性化する」「人口減少を食い止めるためには多少景観が変わってもやむをえないと思う」

といった賛成意見がある一方、

「せっかくの綺麗な景観がなくなってしまう」「治安が悪化することになるのでは」

「人口が増えて島が潤うのは一時的なものなので観光客を増やすための方策を考えた方がよい」

といった反対の意見もありました。賛否はちょうど半数。しかしいずれの立場も島の存続を願う気持ちは同じで、強い意思を感じるものでした。

このメガソーラー計画について、私たち島外の人間が投げかけない限り、少なくとも学校の授業においては議題として取り上げるのは難しかったのではないかと思います。

もちろん、先生方もこのことに真剣に向き合っていました。しかし、地域に生活する一人であること、異動という宿命もあることなどから、かなり慎重になってしまうのも理解できました。だからこそ、第三者ならではの議題設定が、彼らの地域探究に一石を投じることができたのではないかと感じた出来事でした。

「教育」の可能性

高校生たちは自分たちの手で島の魅力や問題を取材、記事執筆や写真撮影、ページ構成も行って、2018年12月号の雑誌『島へ。』で実際に記事になりました。15ページにも及ぶ特集は、高校生たちの緻密な取材が詰まったリアルな内容が反響を呼び、この活動を含めた宇久高校の取り組みが同年度のキャリア教育に関する「文部科学大臣表彰」を受賞しました。

宇久島が抱える人口減少をはじめ、大型事業や観光化の是非などは、どの地方でも抱える問題です。この連載の1回目で取り上げた気仙沼・大島もしかりですが、答えを出すのが非常に難しい難題が、今、日本の地方に突き付けられています。

私は、まずはその難題の蚊帳の中に子どもたちを入れることから始めてほしいと考えています。とはいえ、地域の課題を教育の中に取り入れることの重要性は理解され始め、多くの地域では観光化やPR発信の仕方について考える機会が教育現場でも設けられてきています。

しかし、課題そのものについて考えることが目的であったはずが、観光そのものが目的化してしまっている例も多く目にします。語りにくい問題や、観光化以外の道筋については、未だ語られていないことも多いのが現状です。

さまざまなしがらみや実際の経済性などとは距離を取ることができる「教育」。その現場だからこそ、語れるものや出せるアイディアがあるのではないかと私は感じています。

たとえばメガソーラーか、観光か。ではなく、第3の選択肢があるかもしれません。たとえば細胞のように連なるミクロな生活文化の集合体。ここに宇久島の未来があることも、ひとつの可能性ではないかと思うのです。

離島経済新聞 目次

寄稿|田口康大・東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師

田口康大(たぐち・こうだい)
東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師。教育学者。人と教育との関係についての研究と、教育を軸とした多様なプロジェクトの実践を連関させて行い、新たな教育のあり方を探求している。「海とヒトとを学びでつなぐ」をテーマに活動する一般社団法人3710Lab(みなとラボ)(https://3710lab.com)を主宰。全国の教育委員会や学校、自治体と協同し、新たな学びの方法を提案するプロジェクトを多数展開している。また、映像作家の福原悠介とともに、誰かに何かを聞くことをきっかけに、お互いのあいだに「対話」が生み出されていくような場づくりを目指し「対話インタビュー」プロジェクトを実施(taiwa.mystrikingly.com)。近著に、鹿児島県立与論高校の授業で制作した『与論の日々』。

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