つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

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新聞づくりを通して海と島でできた日本を学ぶ学習プログラム『うみやまかわ新聞』の2015年度版が完成。第5回目の最終回は津堅島(つけんじま|沖縄県うるま市)の子どもたちによる新聞づくりを紹介します。

小学校高学年向けの総合学習プログラムとして、2014年度からスタートした『うみやまかわ新聞』は、「新聞づくり」を通して海と島でできた日本を学ぶプロジェクト。今年度も全国の小学生が参加し、2月1日に2015年度版が完成した。

新聞づくりを行った離島地域5カ所[利尻島(北海道利尻町)/家島(兵庫県姫路市)/弓削島・生名島・佐島・岩城島・高井神島・魚島など(愛媛県上島町)/対馬島(長崎県対馬市)/津堅島(沖縄県うるま市)]を含む全国12地域の子どもたちが東京に集まり、2月21日に発表会を行った。この連載ではプロジェクトに参加した離島地域を中心に、発表会の様子と実際の記事の内容を全5回にわたって紹介する。

ふるさとの魅力を、方言を交えて伝える

参加地域のうち最も南にある津堅島からは、6名の児童が東京の発表会にやってきた。津堅島は沖縄本島からフェリーで30分の場所に位置し、人口は500名ほどの島。

幼稚園、小学校、中学校が一体となったうるま市立津堅幼・小・中学校では、小学3年生から6年生までが力を合わせて『うみやまかわ新聞』を制作した。発表ではまず「全校生徒は30人と少ないですが、全員が三線を弾けることが自慢です」という学校紹介から始まった。

「キャロットアイランド」と呼ばれる津堅島は、島をあげてのにんじん栽培で知られている。新聞もテーマもずばり「ビディ島キャロットアイランド」。ビティ島とは「わたしたちの島」という意味。できあがった新聞の一面も、「甘みがすごい!津堅にんじん!!」で、島の暮らしにおいて、いかににんじんの存在が大きいのかを物語っている。

発表会での記事紹介も一面記事から。語りかけるように始まった発表は方言混じりで、標準語の訳が舞台上のスクリーンに映し出される。

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現在は「キャロットアイランド」として有名な島だが、かつては青首大根の栽培が主流だった。1955年、土壌に合う作物を育てようとにんじん畑への転換が始まり、今では島の面積の8割を占める畑のうち、にんじん畑が60%になったという。

島のにんじんは、収穫してそのまま出荷するのはもちろん、加工も盛ん。紙面では津堅島人参加工販売所の方に取材した、「にんじんゼリー」のレシピも掲載している。発表時には、加工品として「にんじん麺」があることにも触れ、「にんじん色と甘みを生かした非常においしい麺。学校給食でも人気です」と語ってくれた。

陸の食べ物に続いて、海の幸である「もずく」が記事に取り上げられている。タイトルは「世界一のもずく」。沖縄は世界一のもずくの生産量を誇り、特に津堅島はもずくの養殖が盛んなのだ。

津堅島が属する勝連漁業協同組合では、年間6.000トンものもずくが収穫される。記事では、もずくの種類や、栽培から出荷までの流れが細かく紹介され、日頃、当たり前に食べているもずくについて、意外と知らなかったことを思い知った。

発表では、給食のメニューにもずくのあんかけ丼があることにも触れていた。前述のにんじんに続き、津堅島の児童らは、特産品を利用した給食がお気に入りのようだ。

そのほか、「卒業記念サバニで島まわり」「津堅島のビーチ」「津堅島の主な伝統行事」について書かれた記事についても上手に要約して発表。要所要所で「詳しくは新聞をご覧ください」と促されると、会場の人々は手元の新聞に目を落とし、児童らが思考を凝らした文面に引き込まれていくようだった。

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津堅島版の『うみやまかわ新聞』にはカタカナ表記が多い。津堅島幼・小・中学校の卒業記念行事に使う小さな木船の名前は「サバニ」だし、伝統行事や島の暮らしを支えた井戸の名前もカタカナである。児童たちが全国に伝えたかった「島の大切なもの」は、みんなカタカナで表記される島独自のものだった。

「中学校を卒業したら、全員が進学のために島を出る」という児童らにとって、ふるさとの言葉の重みはどんなものだろう。一旦は離れることになる島の情景を、文字通り「自分たちの言葉」で刻み込んだ新聞は、いきいきとして読み応えがある。

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「うみやまかわ新聞」最後の授業、そして2016年版の制作始動

さて、離島地域5カ所を含む12地域の発表が終わると、東京での発表を終えた児童たちは各地域へ帰り、それぞれの学校で最後の授業を行い、紙面を飾ったイラストを配置した特製の修了証が、一人ひとりに手渡された。新聞づくりの経験が、これから出会う興味関心を「伝える」術として役立ってくれたらと願う。

2016年度になり、新しい『うみやまかわ新聞』づくりもスタートした。今年度は、新たな学校や地域も加わってどんな新聞ができ上がるのだろう。取材の好奇心を持って向き合う地域は、きっと新たな発見に満ちているはずだ。

[終わり]

【関連サイト】
うみやまかわ新聞公式ホームページ
※実際の紙面に掲載された記事はこちらから読むことができます。

     

離島経済新聞 目次

島と海でできた日本を学ぶ 『うみやまかわ新聞』プロジェクト

『うみやまかわ新聞』は小学校高学年向けの教育プログラムとして、「地域への愛着の醸成」「同年代児童とのコミュニケーション機会の提供」「情報の基本知識(メディアリテラシー)」などを目的に小学校の総合的な学習の時間や地域活動の一環として導入しています。2016年度は7つの離島地域を含む全国14地域の児童が「うみやまかわ新聞」を制作しました。


<2016年度参加離島地域>

利尻島(北海道利尻町)/沖島(滋賀県近江八幡市)/弓削島・生名島・佐島・岩城島・高井神島・魚島など(愛媛県上島町)/対馬島(長崎県対馬市)/口永良部島(鹿児島県屋久島町)/沖永良部島(鹿児島県和泊町)/津堅島(沖縄県うるま市)


<プログラム概要>

このプログラムでは1年間に20コマ(1コマ×45分)ほどを使い「メディアリテラシー」「地域情報のリサーチ」「取材」「原稿制作」「校正」などを学びながら、自らが暮らす地域を紹介する新聞を制作。離島経済新聞社が講師を担当し、学校の先生や地域コーディネーター(※1)と連携して授業を行います。

毎回の授業は「テレビ電話システム」も活用。関東や沖縄など各地にいる講師陣と小学校とを接続して実施。テレビ電話を使うことで、遠く離れた地域ともリアルタイムな授業ができ、参加地域同士を接続した交流授業も行います。

新聞完成後には、東京スカイツリーで「2016年度うみやまかわ新聞完成発表会」を開催。各地域の代表児童が東京に集まり、地域のことや制作した新聞について発表しました。

※1 地域コーディネーター……授業のファシリテーションやICT機材の接続など、小学校と離島経済新聞社をつなぐ役割として、実施地域に詳しい方や地域で活動している方にお願いしています。

詳細は『うみやまかわ新聞』公式サイトをご覧ください
http://umiyamakawashinbun.net/

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