有人離島(約400島余り)のうち約9割が人口減少にある日本。島の未来づくりのヒントを求め、リトケイ「島の未来づくりプロジェクト」サポーターや読者の皆さんが聴講するなか、公開インタビューを行いました。
ゲストは『都市と地方をかきまぜる』の著者であり、「日本食べる通信リーグ」代表理事の高橋博之さん。9月某日に都内で行われたリトケイ編集長・鯨本あつこによるインタビューの全文を全5回でお届けします。第1回はこちらから。
第3回 一番問題だと思うこと
- 鯨本
-
高橋さんは『食べる通信』などのお仕事を通じて、さまざまな第一次産業(農業や漁業)の方にお話を伺っていると思いますが、そのなかでも特によく聞く「悩み」はありますか?
- 高橋
-
農家の悩みってキリがないんですが、農家の嫁問題は大きな問題ですね。
- 鯨本
-
離島地域でもよく聞きます。
- 高橋
-
「農家のところに嫁に行くのは大変だ」という昔ながらのイメージがやっぱりある。そして収入が低いイメージも。
でも、僕が一番問題だと思うのは、僕の周りの農業漁業者家庭の子でも自分の親の仕事を胸張って言えているやつが少なかったことですね。
- 鯨本
-
恥ずかしいんですか?
- 高橋
-
そう。でも、なぜ恥ずかしいと思うのか? 人間にとって一番大事な食べ物をつくっている人たちなのに、そのセガレたちが親の仕事を胸張って言えないことが、昔から大きな問題だと感じています。
- 鯨本
-
離島出身の方にお話を伺っても「出身はどこだ?」と聞かれた時に「島」と答えていなかったとおっしゃる人が多くいました。実家が農家と言えないのと、実家が離島と言えないのと遠くないかもしれません。
- 高橋
-
一緒だと思います。僕も東京に出てきたときは「出身は岩手です」と言えなかったですもん。
- 鯨本
-
なんておっしゃってたんですか?
- 高橋
-
東北弁が恥ずかしくて、親戚が横浜にいて何回かいったことがあったから「横浜出身」と言っていたんです。
- 鯨本
-
ふふふ。
- 高橋
-
それでたまたまその場に横浜出身の女の子とかがいて、具体的な話になっていくと、ボロがでて嘘をついているのがバレるという。
- 会場
-
(笑)
- 鯨本
-
そうですよね。私も自分の田舎を詳しく言わずに「九州」と言ってました(笑)。
- 高橋
-
今は当時の自分を恥ずかしく思いますね。
- 鯨本
-
そういう意味で、最近は少し変わってきていませんか? 離島地域を含め、昔よりも田舎の劣等感が減ってきているように感じることもあります。
- 高橋
-
僕も昔の話だと思っていたんですが……。2〜3年前にばーちゃんの葬式にいった時、19歳の孫がばーちゃんの弔辞を読んでいて、その内容が、自分が中学生の時に部活で遅くなるときはばーちゃんが迎えに来てくれてたけど、農家だから軽トラで迎えに来るのを友達に見られたくなくて、「体育館の裏で待っててくれ」とばーちゃんに言ったことを後悔していると泣きながら弔辞を読んでいたんです。
- 鯨本
-
ということは。
- 高橋
-
いまだにそうかと。僕があちこちで講演して最後に「農家になりたいやつは?」と聞いてもやっぱり、1〜2人です。今年は秋田の金足農業が甲子園に出て感動を呼びましたけど、あのナインのうち何人が農家になるかといえば、2人くらいじゃないかと思います。
- 鯨本
-
難しいですね……。と、実はまだ質問がすごくたくさんあるんです。
- 高橋
-
どんどんいきましょう。
- 鯨本
-
『食べる通信』などの活動を通じて高橋さん自身が感動したことはありますか?
- 高橋
-
この時代に一次産業を選択している人は、グローバリズム(市場主義経済を地球上に拡大させる思想)の価値観とはちょっと違います。利己的な考えではなく、地域の歴史とか、孫の代まで自然を残したいとか、そういう話を取材で聞くと感動しますね。
- 鯨本
-
そうですよね。第一次産業に携わっている人は離島地域にもたくさんいらっしゃいますけど「100年先」とか「孫の代」のことなど、インディアンのような時間感覚でものごとを考えていらっしゃる。私も島々でそのような話を聞くととっても感動します。
そして次の質問ですが、『食べる通信』は読者のことを「生活者」とも呼んでますが、生活者以外で『食べる通信』を通じて笑顔になる人にはどんな方がいらっしゃいますか?
- 高橋
-
生活者は都会の人が多いんですけど、意外と田舎の生活者のなかにも地元の生産者を知らない人は多いんです。
だから、東松島では地域の人たちが『食べる通信』を通じて、「いつもお世話になっているこの漁師さんってこんなにすごい人なんだ」「あの農家さん、こんなに素敵な活動しているんだ」ということを知り、見直されているという話を聞き、いいなと思いました。地域の中の人たちが実は価値を知っていないこともあるんですよね。
(提供:東松原食べる通信)
- 鯨本
-
確かに。リトケイでも、離島地域の人々にローカルメディアづくりを教えていますが、たとえば島の子どもたちが同じ島に住む大人に取材するプログラムでは、取材を通して「この人すごい!」と知ってもらったり、出来上がったメディアを通して島中の人と「すごい!」を共有してもらったりできています。地域の価値を再認識してもらうという意味で、ローカルメディアの重要な役割ですよね。
- 高橋
-
そうですね。
<4>に続く