2010年度のグッドデザイン賞に、海士町の「総合計画」が選ばれました。「島の幸福論」(※1)と名付けられたこの総合計画を手掛けたstudio-Lの山崎亮さんに、「島の幸福」や「コミュニティデザイン」について伺いました。
2010年度のグッドデザイン賞に、ある離島の「総合計画」が選ばれました。
島根半島の北、日本海に浮かぶ隠岐諸島・島前三島の一つにある人口約2500人の海士町。「島の幸福論」(※1)と名付けられた、この島の総合振興計画書には、「島の幸福」をテーマに住民ひとりひとりが、島のために1人でもできること、10人でできること、1000人でできることを、「24のまちづくり具体案」としてまとめたものです。
この総合計画を手掛けたstudio-Lの山崎亮さんに、「島の幸福」や「コミュニティデザイン」について、離島経済新聞社代表イサモトが伺いました。
#01「島の幸福論」グッドデザイン賞を受賞!!
イサモト:
「島の幸福論」がグッドデザイン賞を受賞されたそうですね。
おめでとうございます!
山崎:
ありがとうございます。
イサモト:
海士町の「島の幸福論」は、まちづくりの総合計画ですが、これまでにこういった分野でグッドデザイン賞が受賞されることはあったんですか?
山崎:
「コミュニティデザイン」というものでの受賞ははじめてなんです。グットデザイン賞はいくつかの分類に分かれていて、該当する分野に応募するのですが、コミュニティデザインという分野自体に事例がなかったので、どこに応募してよいのか分かりませんでした。
でも、この「島の幸福論」というものは、冊子のデザインがキレイということではなく、そこに住んでいる島の人たちと”一緒に作った”ということがすごいことなので、「まちづくり・地域づくり」の分野に応募したところ、おかげさまで評価いただきました。
こういう風に、コミュニティデザインが評価されたことは、これからこういう事をしたいなって思う人たちを、ちょっと勇気づけられるんじゃないかと思うと、僕自身としてもうれしいです。
イサモト:
離島経済新聞でも「コミュニティ」や「コミュニケーション」のデザインについて考えていきたいと思っているので、山崎さんの受賞は私たちにとっても嬉しいです。
今回受賞された海士町の総合振興計画に携わるにあたり、そのスタートはどこにあったんですか?
山崎:
兵庫県の「家島プロジェクト」のときに委員長をされていた一橋大学の関満博教授が、海士町長にstudio-Lの話をされたのがきっかけです。
ちょうど、海士町が総合振興計画を作ろうと思われていたようで、そこへ関教授が「studio-Lなら住民の方々のなかに入っていって住民としっかり話してくれるから、一度話を聞いてみたらいかがですか」と町長に話し、僕らは海士町へ行くことになりました。
イサモト:
そうだったんですね。「島の幸福論」自体はもうスタートしている計画なんですか。
山崎:
計画自体は2009年から2018年までの10年計画なので、ひとつひとつの事業はスタートしています。
たとえば、住民側では参加者を「人チーム」や「環境チーム」といった4チームに分けて、それぞれのプロジェクトを進めています。 行政側でも総合計画に則ったプロジェクトを進めていて、今は海士町にある高校の魅力化に取り組んでいます。
イサモト:
魅力化とは? ??
山崎:
はい。島の高校生がすごく少なくなってきているので、何とか魅力をアップして、高校を存続させようというものです。
イサモト:
高校がなくなると、島の高校生は他の地域の高校に行ってしまいますね。
山崎:
そう。海士町にある高校はひとつだけなので、もしこの高校がなくなったら、中学校を卒業した学生はみんな島の外に出ていくことになってしまいます。
だから、少なくとも高校までは海士町にいてほしいということで、高校の魅力をアップしようと。 どんな方法かというと、海士町の中学生を島の高校に入学させることはもちろんですが、それと同時に東京や大阪にいる高校生たちを、海士町に呼んでこようと。
イサモト:
良いですね。
山崎:
自然があって、友達と密度の濃い時間がある――。
「島留学」って呼んでいるんですけど、高校3年間アメリカ留学にするのもいいけど、島に留学するっていうのも良いんじゃないかと。
イサモト:
すごく面白いですね。どこの離島でも共通している課題に、少子高齢化と働き手の不足がありますが、「人」がいなくなってしまうと島にある「文化」や「産業」もなくなってしまいます。
中学生や高校生の時期に島留学などを通して、島の良いところに触れる機会があれば、島の文化や産業を残していくきっかけになりますね。いろんな地域で試みてほしいです。
山崎:
ホントそうなんですよね。
#02「島の人がやらないと長続きしない」??
イサモト:
島の課題に対して、どこの自治体でも「何かやらなきゃ」と思いつつも、なかなかうまくいっていないケースはよくあると思います。
そこをstudio-Lさんでは、「島留学」のように魅力的なプロジェクトとして実現していますが、それは何故でしょう?
山崎:
うーん・・・。海士町の場合は僕らがというよりも、町長がもともとすごいんです。 町長がいろいろと変革をして、それがだんだん波に乗ってきたタイミングで僕らが加わったので、うまく時期が一致したというのはあります。
総合計画をつくるときに町長から「地元に継続して住んでいる人と、Uターンで戻ってきた人、Iターンで新しく入ってきた人たちが、相互にうまく情報交換ができていない。この辺をうまく結び付けてほしい」と言われたんです。
僕らは、それが総合計画での裏ミッションのように感じていました。 だから、あの総合計画に参画してくれた人たちは、「地元に継続して暮らしている人」「Uターンの人」「Iターンの人」がちょうど3分の1くらいずつ混ざっていて、3者が密接に結び付くようなチーム作りをしたんです。プロジェクトを円滑に進めていくうえで、そこは絶対に結びつけておきたい、と。
イサモト:
なるほど。島単位で自分たちの島を盛り上げられている島はあっても、主に活動されているのは地元継続居住・Uターン・Iターンのうちのいずれかで、3者の結びつきはなかなかないかもしれませんね。
山崎:
そうなんです。たとえば、都会で暮らして戻ってくるUターンの人は、「なんで東京ではこんなところで苦労しているんだろう」「島の良いとこを活かして何かできないだろうか」とか、勢いをもって戻ってくるんですよね。
でも、島でずっと暮らしている人にとっては、島が生活の中心な訳だから、外から島を見たときに、どう見えるのかなんてあまり考える必要がない。そこに距離感があるんです。
イサモト:
Iターンの人も、島の魅力をものすごく感じたから移住するんですが、島で暮らしてきた人から見た島の良さと、外で暮らしてきた人から見る島の良さは異なりますよね。そこをうまく擦り合わせられるといいなと思います。
山崎:
そのためには、やっぱり何かしらの「プロジェクト」が必要なんです。ただ話をするのではなく、そこにひとつのプロジェクトがあれば、それを通じてお互いが「島の中からの視点はこう見える」「外からの視点ではこう見える」と分かり合いやすい。
イサモト:
なるほど。そういったお話で、たとえばプロジェクトを立てたり、人と人をつなげたりされる際、山崎さん自身が大切にしているテーマや信念はあるんですか?
山崎:
基本的な信念としては、「島に住んでいる人たちがやらないと長続きしない」っていうことですね。
というのも、僕らは結局どこまで行っても、島の外から来た人たちなんです。 僕らが何かをしてあげるとか、方向性を示してあげるということをしても、他人から言われたことでは、つまづいたときに自分たちの力で立ち直りにくいんです。
でも自分たちで話し合って「やる」と決めて進めると、つまづいても自分たちで立ち直ろうとするんですよね。何がいけなかったのか?あそこがいけなかったのか?って、自発的にすごく工夫するようになるんです。
イサモト:
確かにそうですね。
山崎:
たとえば外から偉い先生が入ってきて、この島はこれが有名だから、これを特産品にしましょうって、言われる通りにやったとして。仮に成功しても、じゃあ次は何をすればいいのかって、誰かに答えを求めちゃうようになりますよね。
だから、僕らがやるときは、必ず地元の人たちの中に入っていって、やりたいって言う人たちと集まって、一緒にプロジェクトを立ち上げるんです。で、僕らは必要なときに必要な情報を与えるだけなんです。それで盛り上がってきたときに、僕らもいいぞいいぞって、一緒にやっていくという、この繰り返しなんですよ。
#03 地縁型コミュニティからテーマ型コミュニティへ
イサモト:
私たち、島の人からすれば所詮「外の人」なんですよね。でも、単に取材したことを載せるのではなく、一緒に島を盛り上げていけるようなやり方で、離島経済新聞をつくりたいと考えています。ただ、やはりいきなり島のみなさんと一緒に!といってもなかなか難しいこともあると思っています。
山崎:
「離島」って、人間関係も含めて閉鎖的だというところはありますね。そして、これがあると閉鎖的な関係性の中では、どうしても「地縁型コミュニティ」になってしまうんです。でも、それは生きていくためには仕方なかったことで。
昔は共同体としてみんなが協力せずに、一人ひとりが勝手なことをやっていると、全員死んでしまうという状況だった訳で、相互に監視して、誰かが勝手なことをする前に食い止めないといけなかったんです。そういう形でずっと共同体を守ってきた場所ということです。
この地縁型コミュニティは、インターネットもなく、外の情報が入ってこない時代にはうまく成立していたんですけど、今は情報が入ってくるようになり、多くの人がこの共同体は成立しないかもしれない、と気づき始めているように思います。
地縁型コミュニティでは、相互に監視する縛り付けのようなものがあるので、自由に好きなことがやりにくいんです。
イサモト:
なるほど。たとえば噂がすぐに広まるとしたら、地縁型コミュニティの機能なんですね。
山崎:
そうですね。僕らがプロジェクトベースで話をするのは、地縁型コミュニティではなく新しい「テーマ型のコミュニティ」をつくりたいからなんです。
「どこどこの集落に所属している人」というコミュニティではなくて、たとえば、野球やりたい人とか、釣りをしたい人とか、それぞれの集落から「何かをやりたい人」が集まってできるコミュニティですね。
それができると、「あんたもこれがやりたかったのか」と集落の垣根を越えて友達ができるんです。そしてこの友達同士のグループは、結構自由にやりたいことができるグループになります。
もちろん集落に戻ると、周囲の人たちに迷惑をかけないようにしなきゃいけないし、地縁型コミュニティの相互監視システムで、「お前ら勝手なことをやっているらしいな」などと言われてしまうんですが、そのときには
「いやぁ、外から山崎というヤツが来て、こういうことやりたいから手伝ってくれと言われちゃって」と、僕らを言い訳に使ってほしいなと思うんです。
そういう風に僕たちのプロジェクトを言い訳としながら参加してもらって、2年3年と続けていくうちに集落の人たちの理解も深まっていく。
イサモト:
なるほど。地縁型コミュニティではなく、テーマ型コミュニティをいかにつくっていくかということですね。
山崎:
結局、離島で何がうまくいってないのかというと、地縁型コミュニティの縛り付けがきついことで若い人たちが委縮してしまい、バンって出ていけない。
逆に、IターンやUターンの人たちは、それを無視して進んじゃうので、「あいつらけしからん」みたいな感じで距離を取られてしまう。
そういう場合には、IターンとかUターンの人たちが、うまく言い訳になってあげるといいんですよね。それで地元の人たちのサポートが得られるようになったら、今度は地元のリーダーたちと一緒にやっていくようにする。
イサモト:
確かにそうですね。離島経済新聞も人と人をつなぐ「言い訳」になりたいと思います。
山崎:
ぜひ、そうなってください(笑)。
イサモト:
今日はありがとうございました!
(山崎亮さんプロフィール)
大阪にあるランドスケープデザイン事務所「studio-L」代表。
海士町以外にも、兵庫県姫路市の家島(※2)や鹿児島県鹿児島市のマルヤガーデンズ(※3)など、さまざまな地域・場所でのまちづくり・総合計画をはじめとしたコミュニティデザインを手掛けています。
studio-L http://www.studio-l.org/
「島の幸福論」
2009年から2018年までの島根県隠岐郡海士町の第四次総合振興計画。
一般的には、行政施策が一覧になっている難しい冊子しかないが、海士町では住民一人ひとりが主体的にまちづくりに関わるために、「島の幸福論」をテーマに、60名の住民と30数回の話し合いを設け、「第四次海士町総合振興計画(別冊) 海士町をつくる24 の提案」という絵本のような冊子も作成。
生活者の視点からの課題を抽出し、24 の「まちづくり具体案」を掲載している。各具体案は、1 人でできることから10 人、100 人、さらには1000 人の力を合わせてできることに分けて示している。
また、まちづくりの手順を紹介し、すべての住民がまちづくりに取り組みやすくするための提案シートも付属。
兵庫県姫路市の家島
公募により集まった住民60名と一緒に取り組んだ第五次家島町振興計画や、特定非営利活動法人いえしまと協力して家島の特産品開発、ツアー等の企画・運営、広報活動などを行う特産品開発研究会、「探られる島」プロジェクトなど、studio-Lが主体となりさまざまな取り組みを実施。
鹿児島県鹿児島市のマルヤガーデンズ
三越鹿児島店跡地に2009年春にオープンした「マルヤガーデンズ」。
ギャラリースペースやカフェを併設し、さまざまな展示会や勉強会の開催など、単なる百貨店としてのお店の集合体ではなく、人と人、人とモノ、モノとコトが有機的につながり合い(=Unite)、ひとつの意志を発信できる場所としてつくられた、デパートメントならぬユナイトメント。
[取材協力]
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