つくろう、島の未来

2024年11月22日 金曜日

つくろう、島の未来

今年のはじめ、私はこのコラムにこう綴っていた。「2017年の事始めに、私はこのコラムを始めることにした」。それから4カ月が経過し、季節は春である。

ぐうたら冬眠していたわけではないが、小さなメディアの編集長の仕事は編集長業務だけにあらず、取材や原稿執筆のほか、講演やら営業やら事業戦略やら、あちこちの業務に顔を出している間に、季節が移ろうほど時間が経過してしまったのだ。

というのも言い訳にすぎない。カタツムリ速度の筆にげんなりしながら、のんびりしていても許されそうな日曜日に第2回を公開したい。

リトケイの理想。「スイミー理論」

本コラムの第1回で私は「島々の幸せをつくる要素を探しまわっていきたい」と言った。実際、冬眠……いや、仕事が立て込んでいたこの数カ月の間も、パソコンを叩くに至らなかっただけで、いろんな要素を集めていたつもりではある。

少し脱線するが、私は『フレデリック』に憧れている。フレデリックとは、イタリアで活躍した絵本作家レオ・レオニの絵本に出てくる、小さな野ねずみのことだ。

あらすじを簡単に説明すると、ある野ねずみたちが、冬に備えてせっせせっせと食べ物を集めるのだが、そのかたわらでフレデリックだけは、うずくまって目をとじたり、耳をすませたり、ぼんやりしている。そして長い冬が訪れ、巣穴のなかで仲間たちが退屈しはじめたとき、フレデリックは皆の前で、夏の間に五感で集めた、ものごとを言葉にして披露。みんなを楽しませるのだ。ぱちぱちぱち!

フレデリックの仕事を例えるなら、アーティストというか、編集者というか。そうそう!私の仕事もそうなのよ!と、自分がぼんやりしている時間を全肯定するかのごとく、私はフレデリックを我が理想に据えている。

脱線はここまで。
今回は離島経済新聞社の描いているイメージをひとつ紹介したい。

フレデリックの著者であるレオ・レオニの作品には、日本でもよく知られたお話が多々ある。なかでも、とりわけ有名なのは国語の教科書でも扱われている『スイミー』だと思う。

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「ちいさなかしこいさかなのはなし」の副題が付くこの物語は、大きな魚たちに仲間を食べられてしまい、ひとりぼっちになったスイミーが、広い海を泳ぐうちにいろんな世界に触れ、大きな魚を恐れる小さい魚たちと連携して、悠々と生きていくお話である。

短い文と絵で構成される絵本だけに、読み手によってはさまざまな解釈ができるが、私はスイミーから「自分の力で世界を拓いていくこと」と「まわりの人と協力すること」の2つを学んでいる。

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話を本筋に寄せる。私がリトケイをはじめた頃、現在の代表を務めている大久保と、リトケイが描く理想についてちょくちょく語り合っていた。

私も大久保も離島出身ではなく、リトケイをはじめてから離島について詳しく知るようになり、「そういえば日本って島国だよね」なんてことに気づいたりしていた。

日本には6,800島もの島があって、400島超の有人島がある。

そんなイメージを想い描いていたところ、脳裏に浮かんだ日本の姿が、太平洋の隅っこに固まる小魚の群れのように見えてきた。そこで、日本にある島の1島1島を「小魚」に見立て、「スイミーだ」と大久保に説明した。

それから今日まで、「リトケイが描く理想像」を講演等で説明するときには、スイミー風のイラストでプレゼンテーションし、密かに「スイミー理論」と呼んできた。

ちなみに、本物のスイミーでは、赤い小魚の群れが大きな魚の形となり、黒い小魚のスイミーが魚の「目」の役割を担うが、リトケイの「スイミー理論」にはアレンジが加わり、小魚がみんな違う色をした「カラフルな大魚」になる。

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その心は。リトケイが想い描いている島々の理想は、「この国を構成する1島1島が、それぞれ多種多様な魅力を保持したまま連携してひとつの国となり、カラフルで美しい島国として世界に愛されること」だからだ。

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リトケイ読者の皆さんには、島に暮らす人はもちろん、出身者の方や、ファンの方など、島にゆかりのある方が多くいらっしゃる。そうした皆さんは、ごく当たり前に「うちの島は他の島とちがう」と感じていらっしゃるかもしれない。

私自身、あちこちの島へ出掛けながら感じた一番の印象は「1島1島、同じ島はない」ことだった。

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つまり、離島に限らずとも日本を構成している一つひとつの島(あるいは地域)の、いわゆる土地柄が”違う”ことが素敵なわけだ。リトケイが他のメディアから取材を受ける際によく質問いただく「どんなところが島の魅力ですか?」に対して、私は決まり文句のように「多種多様な魅力があるところ」と回答し、『季刊ritokei』の20号では、満を持して「島の違い」を特集した。

そんなわけで、ややファンシーであるが、私の頭のなかには「日本の理想の姿」=「カラフルな小魚がそれぞれピチピチ元気に泳いでいる姿」がぴったり張り付いている。

しかしである。元気な小魚たちを想像してうっとりしながらも、「それぞれが多種多様な美しさを保つこと」が現代社会において「そう簡単でないこと」を思い出して、苦々しい気持ちになる。

「それぞれが多種多様な美しさを保つこと」は簡単でない

「そう簡単ではない」理由は色々あるが、ひとつに、先進国といわれるほど近代化した日本では、ついついと「経済合理性」が追い求められやすい状況にあることが挙げられる。

たとえば、同じくらい儲かるとしたら、お客様の趣味嗜好似合わせたメニューが100種類ある食堂より、こだわりの1種類を提供する食堂のほうが、レシピや材料の管理コストがかからず、スタッフも少数人数でいいから合理的だったりする。「多種多様なものが存在する状態」より、「均一な状態」のほうが経済合理性のうえでは優れているのだ。

経済合理性はそれなりに大事で、そのおかげで私たちは便利なサービスや、お値打ち商品を手にできていたりする。

しかし、苦い。経済合理的を追求していくと、日本を構成している小魚も、カラフルよりも1色あるいは数色のほうが、国としては優れているような気がする。そうなると、「多種多様な島々」が「均一な島々」になるのか……。

本稿のお題である「島々の幸せをつくる要素」には、経済合理性も多様性も必要だと思う。そうなるのと、大事なのはそのバランス。

第2回に続く第3回では、そのバランスについて綴りたい。

     

離島経済新聞 目次

編集長コラム|くじらちょうちん

日本の有人離島専門ウェブメディア『離島経済新聞』、季刊紙『季刊リトケイ』を発行するなか、述べ2,000人以上の島の声に触れてきた、リトケイ統括編集長・鯨本あつこのコラム。九州島の大分県日田市に生まれ、福岡や東京での都会暮らしを経て、ただいま沖縄本島在住。趣味は人とお酒と考えごと。1児の母。ちなみに鯨本は「くじらもと」ではなく「いさもと」と読む。このコラムでは、育児のため赤ちょうちんをくぐる時間が減った鯨本が、本来であればスタッフ陣と酒場で語っていただろう、日々の事柄について綴っています。

鯨本あつこ(いさもと・あつこ)
1982年生まれ。大分県日田市出身。NPO法人離島経済新聞社の有人離島専門メディア『離島経済新聞』、季刊紙『季刊リトケイ』統括編集長。一般社団法人石垣島クリエイティブフラッグ理事。地方誌編集者、経済誌の広告ディレクター、イラストレーター等を経て2010年に離島経済新聞社を設立。地域づくりや編集デザインの領域で事業プロデュース、人材育成、広報ディレクション、講演、執筆等に携わる。2012年ロハスデザイン大賞ヒト部門受賞。美ら島沖縄大使。2016年に『あまみの甘み あまみの香り』(共著/西日本出版社)を出版。

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