#01 はじめまして&無人島でのおしごと
1年の3分の1を小笠原の無人島で生活する無人島系男子が、島の日常・非日常を綴ったコラム。「無人島で仕事って何するの?」今回は、世界遺産小笠原における外来種駆除の一歩先、環境再生の仕事について。
全国のリトケイをご覧のみなさま、はじめまして。
シンペーと申します。
去年、都内の大学を卒業し、それまでお世話になっていた出版社を辞め、何を思ったか2011年夏に父島に移住しました。
移住してまだ1年しか経っていないので、はっきり言って島のことはあまり詳しくありません。
ですが、「居住歴の長い島民でもなく、かといって観光客でもない」その中間の立場だからこその視点もあるかな、と思い、今回コラムを書かせていただくことにしました。
島に住む人間として伝えたいことをふまえつつ、小笠原に関心がある方々の興味をそそるようなコラムにできたらいいなと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
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挨拶はさておき、突然ですがここで問題です。
皆さん、僕が今これをどこで書いていると思いますか?
東京から南に約1000km、船で約25時間。
大小30余の島からなる小笠原諸島の北に「聟島列島」という島々があり、そのなかの「聟島(通称ケータ)」という無人島にいます。
正確には1880年ごろから1940年ごろまでは人が住んでおり、その後無人島になったそうです。
「テレビも無ぇラジオも無ぇ」、そんなところで1週間のうち5日間働き、2日間は父島に帰ってくるというサイクルを送っています。
どうです、ワイルドでしょう?
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さて、話は変わり。
このコラムに先駆け、先月20日に発売された『季刊リトケイ』03号に、ひっそりと小笠原の外来種駆除の実態について書かせていただきました。
今回はその外来種駆除の延長線について、ちょこっとだけ書かせていただこうと思います。
現在、有人島である父島と母島以外の島ではノヤギの根絶が確認されています。
しかし、ノヤギを根絶しただけでは本来の自然は戻りません。
こちらは、かつて多くのノヤギが生息していた媒島の様子です。
ノヤギが草木を食べ尽くしたことにより、剥き出しになった赤土。
それが風雨によって海浜に流出してしまうと、珊瑚礁などの多くの海洋生物に甚大な被害を与えてしまうのです。
それだけではありません。
赤土の流出によって岩肌が剥き出しになると、そこはもう二度と草木が生えない不毛の地になってしまうのです。
そうならないように食い止めるのが僕らの仕事。
赤土を堰き止めるための「砂防ダム」というものを作るのですが…
「砂防ダム?ははーん、なるほど。ショベルカーとか使って作るんでしょう?」
(イメージ図)
いいえ、残念ながら違います。
ここは無人島。
重機等は持ち込めないため、9割の作業が人力なんです。
全身赤土泥まみれになりながらスコップで基礎を掘り、
50kgのセメントを担いで何往復も運び、
全身セメントで真っ白になりながら材料を練る…。
(現場作業風景@媒島)
ちなみにこの島、身の丈以上の植物がほぼ皆無なので日陰がほとんどありません。
モノクロ写真にしたら、もう完全にどこか遠い異国の強制労働現場ですね。
そして完成したダムがこちら。
たった14人で約1ヶ月半かけて施工しました。
立派なもんでしょう。
このダムは去年の11月に完成したのですが、先月の調査でダムの高さいっぱいの赤土がせき止められているのが確認できました。
本当に苦労した甲斐がありました。
ケータでは、この人力ダムの他に「ギンネム」という外来植物の駆除や、植生回復などの仕事があります。
どれもこれも何十年がかりの大仕事。
「環境再生」って簡単にいうけれど、本当に一筋縄ではいかないのだなと痛感します。
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こういった仕事をしていて、たまに思うことがあります。
「人間のせいで破壊された自然を、人間の手で再生するなんて、なんだかおこがましいよな」と。
似たような考えの人は少なくないのではないでしょうか。
それでも、年々続く僕らの仕事によって少しずつ増えてきている希少な動植物の姿を実際に目で見ると、やっぱり誰かがやらなくてはという気持ちになります。
(固有種オオハマボッスの群れ@聟島・奥は媒島)
(絶滅危惧種クロアシアホウドリの幼鳥@聟島)
環境保護でよく言われる「美しい自然を未来のこどもたちに!」みたいな謳い文句、あるじゃないですか。
そういうの胡散臭くてあまり好きじゃないですけど、
確かに将来自分に子供ができたらこの風景を見せてやりたいなって、「お父さんここで阿呆みたいに仕事してたんだぞ」って言いたい、ってのはありますね。
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まぁそんな感じで働いている僕らですが、当然食う寝るも無人島でしているわけでして。
次回はそんな無人島での生活にフォーカスを当ててみようかしら。
題して「サバイバル!?無人島で生活する野生人たちを追え!(グラビア写真付?)」
需要ありますかね。
まぁ、お楽しみに。