つくろう、島の未来

2020年10月20日 火曜日

日本の島々に暮らす80歳以上の高齢者は約8万人(※1)。人口規模や立地条件等により、それぞれ島の事情は大きくことなるが、共通するのは「島に暮らしたい人」と「支える人」が存在すること。この両者がどのようにして支え合っているのか、厚生労働省が提唱する「地域包括ケアシステム(※2)」をキーワードに、島々の取り組みを紹介する。

※1…『離島統計年報』平成27年国勢調査より法指定離島の人口を抽出
※2…高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を送れるためのサービスを一体的に受けられるようにするための仕組み

笠岡港から神島、高島、白石島、北木島経由の船で約1時間の真鍋島

瀬戸内海の中央に連なる7島に、約1,600人が暮らす笠岡諸島(かさおかしょとう|岡山県)は、人口約47,000人の笠岡市の一部離島(※)。

※地域の中に陸地部と離島地域が含まれる市町村の島

高齢者サポートはじめ、行政サービスが行き渡りにくい地理的環境にあることから、笠岡諸島には島を支える民間の動きも活発にみられる。

NPO法人かさおか島づくり海社(以下、海社)は、笠岡市役所と島々の住民との橋渡しをしながら島の暮らしを支えるさまざまな事業に取り組んでいる。

高齢者の生活サポートとして本土側の地域包括支援センター(※)や医療施設、遠方の家族らと連携しながら、島々でデイサービスや買い物支援サービスを提供する活動の核にあるのは「領域を超えた支え合い」の意識。

※高齢者福祉と介護保険サービスの相談・調整・手続きを行う地域の総合窓口

島々の地域づくりと高齢者の健やかな暮らしを支えるために日々奮闘する、海社の副理事長 森本洋子さんに話を聞いた。

架橋されていない島々。かつては船でミニデイサービスを実施

岡山県笠岡市に属する笠岡諸島は、大小31の島々から成り、有人島の高島(たかしま)・白石島(しらいしじま)・北木島(きたぎしま)・真鍋島(まなべしま)・大飛島(おおびしま)・小飛島(こびしま)・六島(むしま)の7島に約1,600人が暮らす。

2010年の国勢調査で7島の合計が2,166人だった人口は、2015年の同調査では1,625人に減少。65歳以上の人の割合は69.0パーセントを占め、高齢化が進んでいる。

本州から架橋されていない笠岡諸島への交通は、旅客船やフェリー、海上タクシーなど船を使った移動が必須。本土側にある2カ所の港から島までは複数の航路があり、最南端にある六島までは旅客線で1時間10分かかる。

実は、笠岡諸島には13年前まで福祉施設が存在していなかった。

しかし、福祉サービスがなかったわけではない。さかのぼること27年前の1993年、笠岡市は市独自のミニデイサービス船「夢ウェル丸」を就航させ、月に2回、各島に寄港し入浴や昼食提供、レクリエーションなどの船上サービスを提供していた(2014年に終了)。

しかし、2000年に国の介護保険制度が導入されると、船上ミニデイサービスは制度の認定要件から介護保険の適用外とされた。サービスの提供頻度も十分とはいえなかったため、島で福祉サービスを受けられない高齢者は本土側に渡るほかなく、その負担の大きさが課題となった。

そこで笠岡市は2006年に「笠岡市高齢者保健福祉推進計画」と「介護保険事業計画」を策定。笠岡諸島で実施してきた船上サービスから島の住民による地域の相互扶助へ転換を図った。

これまで船上で実施していた入浴サービスは介護保険を利用した通所介護へ。また、地域住民が集まり理学療法、作業療法士などの専門職のサポートを受けながら介護予防のミニデイサービスを実施できるよう住み分けを図り、両事業により島々で介護負担軽減する支え合いの体制が構築できるようになった。

ご近所さんとしての当たり前の感覚を活かした介護サービス

デイサービス「うららの家」(真鍋島)

市内に複数の一部離島が存在する笠岡市の地域包括支援センターは、本土側の笠岡市社会福祉協議会の中に設置されている。

そのため、笠岡諸島の包括ケアの担い手は、日頃利用者と密に接している島のデイサービス事業者らが中心となり、本土側のケアマネージャーや島内の診療所と連携しながら高齢者の暮らしを支えている。

現在、笠岡諸島で介護事業を行う事業者の一つであるNPO法人かさおか島づくり海社は、もともと7島の住民で地域づくりを志す任意団体だったが、2006年に介護事業者としてNPO法人化。翌2007年に、笠岡諸島で最も人口の多い北木島にデイサービス「ほほえみ」を立ち上げた。

その後、海社では、北木島で2カ所目となるデイサービス「すみれ」、白石島の「だんだんの家」、真鍋島の「うららの家」を開設。現在、3島4カ所で空き家を活用した通所介護施設を運営している。

海社の副理事長であり、デイサービス管理者兼相談員を務める森本洋子さんは、「島は大きな家族のようなもの。領域を超えて1歩も2歩も踏み込むような関わり方が笠岡諸島の特徴」と語る。

海社の介護職員はほとんどが島の住民で、本土側から通ってくる職員も、元々は笠岡諸島の出身者だ。「島のために役立ちたい」という意欲を持ち、利用者へも同じ島の住民として、親身に対応。必要に応じてデイサービスの勤務時間外でも利用者の家に立ち寄り、変わりはないかと気にかける。それは、信頼関係で結ばれた島のご近所さんとして、当たり前の感覚だと森本さんは話す。

小飛島以外の6島にある診療所も、地域包括ケアを担う一員として高齢者の暮らしを見守る。平日は看護師が常駐し、月2回〜週5回の診療を行う。医者は定期的な巡回診療で患者の変化を把握し、入院の必要がある際は遠方の家族に連絡する。軽度の認知症を持った利用者の家族には「そろそろ一人だけでは厳しいよ。時々島に帰って様子をみてあげて」と医者から電話をかけ、背中を押すようなこともあるという。

認知症の進行には、環境が大きく影響することが分かっている。住み慣れた島から離れることで、認知症の進行が進み、それまでできていたこともできなくなり、生活能力が失われる恐れもある。一人では自立した生活が難しい高齢者も、周囲に見守られることで、健やかな暮らしを支えることができるという。

高齢世帯の見守りも兼ねた買い物支援「島のきずな便」

海社では、デイサービス運営のほかにも、約50人体制で島の特産品開発や流通販売、巡回バス(北木島)、診療所への送迎サービス(真鍋島)など、島の暮らしに必要な多くの事業を担っている。

2020年6月、本土側の住吉港にオープンした笠岡諸島・全国離島特産品販売所

2013年から継続する高齢者の買い物支援サービス「島のきずな便」は、海社が地域に設置したポストに注文用紙を投函する方式で利用者の注文を取りまとめ、本土側の大手スーパーに発注。北木島に一括して届く商品を、海社のスタッフが各家庭に配達する仕組みだ。

自身も島の住民である配達員が、配達を通じて利用者と顔を合わせる「島のきずな便」は、高齢者の暮らしの見守りにも一役買っている。

注文内容の多くは、食材や島で販売していない紙パンツ、連絡線に積むことのできない灯油など、生活に必要な消耗品。

運営費は利用者からの手数料(従量課金制)で賄うが、利用者が少ない場合に折半する海上輸送の費用がかさむことが悩みとなっている。同社では、市の制度を利用して輸送費を低減させる工夫や、サービス向上に向けた新たな取引先の開拓も検討している。

高齢世帯の見守りも兼ねた買い物支援サービス「島のきずな便」

島の暮らしを支える事業に汗を流す日々を支えるのは「多くの方にできるだけ最後の最後まで、生まれ育った島で暮らしてほしい」との思いだ。「常に、島で暮らす人のことを一番に考えたケアやサポートを行なっています」(森本さん)。

海社のスタッフも多くが60歳を超えるが、「今後に向けてU・Iターンの誘致や、若手スタッフの育成にも取り組みたい」と話す森本さんたちの奮闘は続く。


この記事は高齢者介護施設のための食事トータルサービス・クックデリ株式会社の提供でお届けしています。

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ずーっと島で暮らしたい
日本の島々に暮らす80歳以上の高齢者は約8万人(参考:『離島統計年報』平成27年国勢調査より法指定離島の人口を抽出)。人口規模や立地条件等によって、それぞれ島の事情は大きくことなりますが、共通するのは「島に暮らしたい人」と「支える人」が存在すること。この両者がどのようにして支え合っているのか、厚生労働省が提唱する「地域包括ケアシステム」をキーワードに、島々の取り組みをご紹介します。

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