つくろう、島の未来

2024年04月28日 日曜日

つくろう、島の未来

約400島の有人離島を有する市町村は約170。そのうちのほとんどが人口減少に歯止めをかけられず、さまざまな課題に直面しています。自治体の規模が小さい離島地域が、持続可能な未来を目指していくためにはどのようなことが必要か?沖縄県座間味村(ざまみそん)の宮里哲村長と、リトケイ団体サポーターでもある大和リースの北哲弥社長、リトケイ代表理事兼統括編集長の鯨本あつこが語り合いました。

写真・大城亘

【目次】
(1)心豊かに暮らしたい小さな島が抱える課題
(2)座間味村と大和リースが新たに手掛ける新たな取り組みとは?
(3)小さな島が一歩先を歩む持続可能な社会づくり

小さな島が一歩先を歩む持続可能な社会づくり

離島地域は周囲を海で隔てられる分、ヒトモノコトカネのいずれの実態や変化が見えやすい利点があります。

SDGs時代において、日本や世界が持続可能な社会を目指そうとする時、島が先進できるところもあると感じていますが、その点はどうお考えですか?

座間味村の場合、皆さん仲が良いんです。皆さんが連携していて、環境保全の意識も高い人も多い。自然環境の話になりますが、サンゴの保全活動やオニヒトデの駆除、環境美化やビーチクリーンなども一生懸命やってこられていて、そんな活動が、座間味村が国立公園に選ばれた一因とも言われているんです。

ただ自然環境が良いだけではなくて、島に住んでいる人たちの活動が評価されたわけで、そういうところも島の良さだと思っています。そういった点はまさしくSDGsのひとつになると思うので、大事にしていきたいですね。

非常に重要ですよね。

そこで立ち戻るのは、そういう人たちが住みやすくなるためにはどうしたらいいか?という問題で、定住させるにはまず仕事をつくらねばならない、行政がつくるわけじゃないですけど、起業したいと思える雰囲気もつくりたい、そのためには住む場所が必要……と、やはり僕らはここにフォーカスしないといけない。

そして、住宅整備を簡単にできない事情に対して、どうやってつくるか? と考えるのですが、そこではやはり民間企業の皆さんと連携していくことがとても重要になります。

他の例では座間味村の自然を守る活動を支援してくださる企業などもいらっしゃりとても感謝しています。島だけではできない部分を支援していただき、活動できる環境づくりも大切ですね。

私が知る限り、色々な自治体があるなかで、地域によっては外部の人が入ってくることに後ろ向きな印象を受ける地域も実際あるように思います。

一方、座間味村はどんどん連携を進め、良い結果が生まれているという事実には注目したいですよね。

島の人たちが仲がいいって、すばらしいですよね。大阪や東京でもそうですが、うちの町内会は仲がいいってあまり聞きません。

町内会みたいな組織はあるけど、今はそこからどんどんどんどん人が離れていくような時代で、大きなマンションがあって、マンションの管理組合ではまとまっているから、町内会が不要だとも言われ、それが大都会だけではなくて地方都市でもあって、町内会、消防団、が弱体化していくという現実がある。

そんな中で仲がいいというのは、地域コミュニティの生活であったり、食であったり、交通であったり、産業だったり、ごみの問題だったり、それらを解決していく第一歩として「仲が良い」というのは地域コミュニティの第一歩ですよね。

例えば大規模災害時では、公助には限界があるといわれており、都市部や地方都市でのコミュニティの弱体化はものすごい問題だといわれています。

そこで島を見つめたときに、地域の共助社会があり、先進的な取り組みも進められているということは、島の営みそのものに、持続可能な社会をつくっていくベースがあるように思いますね。

最先端ですよね。

離島の中でも大きな島では、移住者が一定のコミュニティをつくってしまって、もともとの居住者との対立があるという話も伺ったことがあります。

座間味に関しては観光地であったということもありますが、若者の移住者が地元に溶け込もうとするし、しっかりと受け入れてくれる島の人たちがいる。

これがうまく連動して、島の人口減少に歯止めがかかっているというのはあると思います。

一回行って、疎外感を味わうと次は行きづらいですしね。

子どもも人口もある程度は多いほうがいい そのためにも、住みたくなる環境づくりを

座間味村は幼少中の子どもたちが80名くらいいるなかで、両親ともに沖縄の人という子どもは3割もいないんですね。両方とも移住者か、どちらかが移住者というのが7割。それくらい移住者が多い島でもあります。

けれど、そうやって人口を維持するのはとても大事なことで、それにより学校が維持できますし、教育環境の悪化も防げるとなれば、やはり人口はある程度は多いほうがいいですし、子どもも多いほうがいいんです。

島の課題解決策には色々な例がありますが、一番大事なことのひとつに教育は必ずありますよね。

ありますね。住みたいと思ってもらう島づくりと、島で起業したいと思ってもらえる雰囲気づくり、そして住宅がマッチングしていけば、若い人が定住して、子どもが生まれて、学校の生徒が増えて、島が元気になっていく。そこに尽きると思います。

全国約400島には学校のない島もあれば、学校があっても休校したり廃校になったりという島が増えているのが現実です。子どもの姿が見えなくなると、地域そのものが活力を失う印象も受けるので、子どもの存在は大きいですね。

参考までに、座間味村はさらに人口を増やしたほうがいい状況にあると思いますが、とはいえ島の場合、土地などに限りがあるため増やし続けることも難しいと思います。座間味村の場合、理想の人口規模はどのくらいだとお考えですか?

いま、住基人口では930人くらいで、ここしばらくだと国勢調査のデータで1077名がピークでした。遡ると2000名弱の人が住んでいた時代がありますが、それを上回ることはもちろんありませんし、住宅事情だけではなく土地の問題もありますから、簡単に増えることはないと思います。

ですが、最低でも維持させることが必要なので、1000〜1200名くらいいてもいいのかなと思っています。

島の規模、条件に合わせた適正な数字がありますが、イメージは重要だなと思います。

島の規模だけではなく移動手段の問題もあって、座間味の場合は高速船とフェリーだけなので、観光客の数もおのずと決まってくるんです。

ここでもう少し観光客が増えれば起業したいという人もさらに増えるのかなと思いますし、そのあたりがうまく連動することで、適正な人口規模が出てくるんじゃないかと思っています。

そうですよね。居住人口と交流人口があるなかで、もともとある自然環境が維持できる持続可能な範囲での適切な数字はあると思います。

減っていくとゼロになるのは当たり前の話ですが、増やそうとしてもある一定のところでは止まると思います。

手を繋ぐため、大事なことは「島が好き」であること

左から大和リース株式会社代表取締役社長・北哲弥氏、座間味村村長・宮里哲氏、ritokei統括編集長・鯨本あつこ

最後に伝えておきたいメッセージをお願いします。

一般的に、行政が行う公共事業と民間が行う収益事業がありますが、我々は民間企業でありながら「公の精神」をもって課題を解決する事業をしていきたいと思っています。

座間味村の場合、私共がご一緒させていただける課題であればどういうことができるのか?ハードの整備だけではなくソフトの整備も必要であるなら、私どもにできないことであれば、他の企業とご一緒させていただき、事業を行なっていく。目指すところはそういうことかなと思っています。

そこで連携する相手には、「島が好き」というのが共通しているといいですね。

「島が好き」が一番大事ですね。

宮里村長はいかがでしょうか?

政治家としてになりますが、やはり離島には色々な役割があるんです。例えば、人が住む島があることで、国境を守っていることもひとつです。しかし、そういった島が軒並み人口減少の状況にあり、何十年か後にはゼロになるんじゃないか?と言われています。

確かに島を守ってくれる法律はあって、離島振興法にも補助メニューはありますが、補助率が低いと思います。なぜそう思うかというと、都市部にはそれなりの経済活動があって大手の企業もあるので、所得の多い人が多いので税収が大きいわけです。

対して、人口が減り、自主財源が乏しい離島自治体では、補助事業があっても補助率が1/2とか1/3では思い切った仕事ができないんです。

沖縄は沖縄振興特別措置法の補助率が高い分それができるので、例えば座間味村を例に他の振興法の補助率も高めることで、行政と離島の企業、あるいは離島を支援いただける企業がしっかり連携できるような環境をつくっていくことを国に求めていきたいです。

いろんな方が集まれるようなハブになってほしいと思いますね。それはリトケイさんじゃないかと思います。

ありがとうございます。何より、このような仕事での連携関係があると、お互いに最新の情報やアイデアを交換し合えることが良いですよね。

色々な連携をさせていただけるのは本当にありがたいです。他の例では、座間味村の療育相談は広島の先生にお願いしており、昨年3月に包括連携協定を結んだおきなわフィナンシャルグループからは人材をお借りして公金の取り扱いマニュアルの遵守の徹底を図るなど、いろいろなノウハウを共有いただいています。

離島だけでは人材が足りず、行政職員も人数が少ない分、どうしても仕事が浅く広くなってしまうんです。都市部の役場だと、狭くて深く仕事ができる。

それをどうカバーするかという点でも、様々な連携により、私たちが持ち得ない知識をいただけるというのはとても大切で、それがエンジンとなって離島の活性化につながっていくと信じています。これからも連携できる方とはしっかりとお付き合いさせていただきたいですね。

できないことをできる人と連携するというのは大事ですが、できる人を探すというのは大変ですよね。それはメディアの役割ですね。

しかと受け止めます。島が好きだという人はたくさんいると感じていますので、兎にも角にも「島が好き」ということを共通にした連携を進めていけるといいですよね。

<完>

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