つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

約400島の有人離島を有する市町村は約170。そのうちのほとんどが人口減少に歯止めをかけられず、さまざまな課題に直面しています。自治体の規模が小さい離島地域が、持続可能な未来を目指していくためにはどのようなことが必要か?沖縄県座間味村(ざまみそん)の宮里哲村長と、リトケイ団体サポーターでもある大和リースの北哲弥社長、リトケイ代表理事兼統括編集長の鯨本あつこが語り合いました。

インタビュー写真・大城亘

【目次】
(1)心豊かに暮らしたい小さな島が抱える課題
(2)座間味村と大和リースが新たに手掛ける新たな取り組みとは?
(3)小さな島が一歩先を歩む持続可能な社会づくり

心豊かに暮らしたい小さな島が抱える課題

宮里村長は沖縄県離島振興協議会会長なども務められています。離島自治体の多くが人口減少にありますが、現在の離島地域が抱える課題についてはどのようにお考えですか?

島の課題は大きすぎるので大雑把に表現するのは難しいですが、沖縄で離島苦(シマチャビ)と言われるように、大きな病院がないとか、買い物が大変で物価も高いとか、そういう現実があります。

加えて、なぜ人口が減っているのかと考えると、学校では子どもたちの数が少ないので、色々なことにチャレンジしづらかったり、仲良しなのは良いけれど競争心が生まれにくかったり。

経済面では観光地であればまあまあ盛り上げることができても、農業とか漁業など第一次産業中心だと、若者がなかなか帰ってきにくかったりしますので、定住促進につながることをどう仕掛けていくかは非常に難しいです。

約930人が暮らす座間味村は全域が国立公園に指定される美しい島嶼自治体

座間味村は人口増ですよね?

はい、ありがたいことに微増しています。

その要因はやはり観光ですか?

座間味村の場合は観光ですね。若い時に遊びに来て、とても気に入ってもらってヘビーリピーターになり、住みたいと思って仕事を辞めて移住をしてきます。それでダイビングショップや民宿に住み込みで働きながら、島の人たちと交流する。

ヘビーリピーターとは良い言葉ですね。

座間味村では長い期間をかけてそのようなことが起こってきたので、島の人たちもよそからの移住者に否定的ではなく、好意的に受け止めているんです。

反対に、移住してきた人たちも島の人たちと仲良くすることで、この子だったらうちの部屋を貸していいなとか、土地を貸していいなという関係性が生まれます。

それから移住者が独立して、結婚して……という流れで人口が増えるんです。

移住者が若いというのは良いですね。

国の施策でも色々な移住定住策を行なっていますが、イメージ的にいうとリタイアされた人たちに農山村に来ませんかというイメージが強いんですよね。けれどそれではプラス2に留まり、プラスアルファがないんです。

ところが若い人たちが来て、島で結婚して子どもが生まれるとすればプラスアルファが望める。その点が座間味村の人口が微増となっている要因だと思います。

国や県などが振興策を考える話し合いの場でも、移住定住に関する話題は常に出てきますが、どの世代をターゲットにするかは明確に語られないところがありますよね。

ただ、人口減少に歯止めがかからない地域ではプラスアルファが重要なので、やはり子育て層や若手に来ていただけるような施策を打ったほうが良いと感じます。

北社長はご自身も島好きで学生時代にも座間味島(ざまみじま|沖縄県)に来られていたとのこと。大和リースとしては村役場の庁舎建設等を手掛けられていますが、企業の立場として島に関わる時に意識していることはありますか?

沖縄では本土のことを内地といい、沖縄本島のことを本島と言いますよね。内地という言葉は私たちは普段使わない言葉です。

こんなこともあるように私や会社が島に来させてもらって仕事をする時に最初に思うのは、押し付けになってはいけないということです。

押し付けにならずに、島のことをよく知って、島の方々の役に立つことを考えなければならない。ビジネスそのものを持ち込むのは良くないなと思っています。

北社長ご自身もヘビーリピーターとのことで、ご自身が感じる島の魅力とは?

その言葉にはやはり反応してしまいますよね(笑)。魅力はやはりこの圧倒的な空気感でしょうね。食から、時間から、自然から……。この魅力は何ものにも変えがたいと思っています。

「島が好き」であることは島が好きで暮らしている島の人たちとも共通しますので、その気持ちは重要ですよね。

その気持ちは本当にうれしいですよね。

島だけでは叶わないことはパートナーシップで乗り越える

島の課題に対し、島だけでは叶わないことは島外企業とのパートナーシップが必要です。座間味村と大和リースは村役場庁舎建設などで連携をされていますが、先進的なPPP(※1)、リース方式(※2)を採用され、建てられたという庁舎建設について教えてください。

(※1)Public Private Partnershipの略。官民が連携して、公共施設やインフラなどの整備・運営を行う考え方

(※2)民間が資金調達から公共施設の設計・建設、維持管理などの業務をトータルで行い、そのサービス対価をリース料として受け取る契約の仕組み。初期投資を抑え費用を平準化することができる

新たな島のランドマークとして建設された座間味村の役場庁舎。座間味村らしく、村民や子どもたちが誇れるような庁舎づくりが目指された

この方式を採用していただいたのは全国でもトップランナーといえる時期だったんですが、なんでまた(大和リースの提案を)採用しようと?

大前提として庁舎をつくらないといけなかったんですが、お金がなかったんです。

僕は村長になる前から行政職員だったのですが、役場に入ってくる住民の方が、「いまさっきここからブロック落ちてきたよ」と話をしていてまずいなと思っていたんです。

村長になってからもしばらく建て替えることができなくて、その後3.11もあってとにかく建て替えないといけないと思いました。

しかし、お金がないんです。道路や学校等をつくるなら国の補助金があるので村の負担だけをどうするか考えればよく、いわゆる起債(民間企業でいう借金)をすればなんとか計画を立ててつくることができます。

ところが、庁舎建設には補助金がない。3.11以降は高台に庁舎を移転する場合にはそれなりの補助金つけるという制度ができましたが、座間味村の場合は地形的な問題や利便性から考えると、集落内にしかつくれなかったんです。

税収が少ない小規模自治体で庁舎建設費用を確保するのは簡単ではありませんよね。

はい。それにもう一つ、最近特に深刻化している課題があります。公共施設をつくるにしても、島には業者がいないので、沖縄本島の建設会社にお願いしなければならないんですが、建設会社からすると離島の案件はリスクが高いんですね。

輸送費が高いとか、職人の住む場所を確保しなければならないとか、そうした経費を含めたら補助金で100パーセント賄えないところもあるんです。

だから、建設会社にしてみれば沖縄本島の仕事を受けていたほうがいいから、建設のための入札をかけても不調に終わることが非常に多い状況です。

そこで悩まれていた時に、大和リースと出会われたんですね。

はい。大和リースが提案している方式なら、建設会社については大和リースがしっかりと探してきてくれるので、建設工事の入札をかけなくてよく、職員の負担軽減にもなったんです。

公共施設をつくるにも、道路をつくるにも、小さな自治体では職員の負担が大きいんです。

現在、座間味村の職員数はどのくらいですか?

船舶をいれて65名くらい。非常勤をいれると80〜90名くらいです。それも事務職ばかりですから技術者はゼロ。公共施設つくるときはコンサル会社に入ってもらいながら形にするしかなかったので、それもネックでした。

それが、大和リースとの連携では、ある程度のイメージを伝えれば、しっかりと絵を描いてくださるので、理想の庁舎建物がつくれる。もちろんお金はお支払いするのですが、補助金がない状況では非常に助かりました。

公募プロポーザルなので、優先交渉権をいただいた後にじっくりと内容を詰められる契約形態にしていただいたことも大きかったですね。

最初にこちらから考え方を提案させていただいた後、座間味村とハード・ソフト含めて十分に打ち合わせいただき、本当に欲しい庁舎が出来上がっていったのではないかと思います。

お互いに良いですね。

多様なニーズを反映しながら、島の人々が誇れる役場が誕生

通常、行政の仕事で公共施設をつくろうとしたら、最初の計画からの途中変更はまずあり得ないんですが、この方式では途中変更もできました。

面白かったのはトイレをつくった時のことで、とにかく座間味らしく、観光地にふさわしく、役所に対して敷居が高いと感じられているイメージを和らげたいといった要望があったのです。

そこで当初は「島の海岸に落ちている貝殻を敷き詰めたらきれいだよね」と話を進めていたんですが、話を詰めていくと座間味村は国立公園であることを考慮して実現できなかったんですよ。

なので、そこから発想転換して「pokke104(※)さんの絵を使おう」「役場のなかに絵を描いちゃおう!」といった話が出てきて、どんどん計画を変えていったんです。

庁舎内にある吹き抜けのガラスにも視線を遮る必要があったので、色を塗る計画だったんですが、そこでも「pokkeさんの絵をいれちゃおう」「産業絵巻にしちゃおう」と……。そうやって話をしているうちに、だんだん建物が見えてきて……。でも難儀でしたよね(笑)。

(※) pokke104(ポッケイチマルヨン・池城由紀乃) 座間味村観光大使でもあるイラストレーター

難儀じゃないですよ。そういう仕事ですから。

村内に公衆トイレが少ないため、観光客も訪れやすいようにつくられた庁舎1階のトイレ

庁舎は完成から7年目ということですが、住民や観光客の方のご感想はいかがですか?

とても良く、きれいな役場だねと言っていただけています。実はpokkeさんの絵の中には島の子どもたちが描いた絵も入っているんです。

前の役場が約50年もっていたので、これからの50年を考えると、この絵を描いた子どもたちが大人になっても庁舎内で自分の描いた絵が観られるというのも楽しみなんです。

エントランスホールの風景。観光大使でもあるイラストレーターのpokke104さんが島の子どもたちと共に描いた絵が庁舎内のあちこちを彩っている

絵を描いた子が小学生なら60代くらいになりますね。

役場が役場に用事がある時にしか行かない役場じゃないようにしたいと言われていましたが、実際、観光客の方もちょくちょく来られていますよね。

表で記念撮影される人も多いですね。

>>(2)「座間味村と大和リースが新たに手掛ける取り組みとは?」に続く

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