つくろう、島の未来

2024年12月07日 土曜日

つくろう、島の未来

島暮らしを選び、島に仕事を持ち込んだ「在島ワーカー」とはどんな人か? 7つの島に暮らす在島ワーカーに、仕事や暮らしについて聞きました。取材はすべてZOOMやSkypeなどのビデオカンファレンス(テレビ電話)を使用しました。『季刊リトケイ』25号特集「仕事はネットで。暮らしは島で。島の新しい働き方 在島WORK」連動記事です。

クリエイティブディレクターとして島内外の仕事を担当

白砂のビーチに透き通った波がさざめく鹿児島最南端の離島・与論島(よろんじま|鹿児島県)に暮らす村上竜雄さんは、テレビ電話の画面越しに「島では『くじらカフェのダンナ』といったほうが知られています」と笑う。

人気カフェを営む妻と2人の子どもたちと暮らす村上さんは、島の人には正体不明と思われているらしい。「普段は島にいないとか、娘の運動会に一眼レフのカメラを持っていくのでカメラマンと思っている人もいるみたいです」(村上さん)。

カフェのダンナは何者なのか。正体を紐解くと、幅広いプロジェクトに携わる「クリエイティブディレクター」「ITっぽい社長」といったキーワードが現れる。

村上さんは与論島に移住した2011年以前、東京で自ら立ち上げたIT系制作会社を経営していた。

起業した90年代後半は若手起業家による「ITベンチャー」の興隆期。そんななか村上さんは、プロ野球球団のモバイルサイトの立ち上げや、リゾートホテルの季節情報配信システムの開発、自動車会社のブランディングキャンペーンの制作統括など、華やかな仕事を担当。

「当時からデザインとプログラムの両方にワンストップで対応できたことで、とても重宝がられました」と振り返る時代、村上さんは「若くてITっぽい社長」のはしりとして、麻布十番にカフェを開き、スクールでの講師、専門書籍の執筆・監修にも数多く携わった。

その後、「デザインや開発に集中できる場所なら東京じゃなくてもいい」と考えた村上さんは、2008年頃から新たな拠点を探し始める。

理想の地を求めて与論島に出会う

カフェを営む妻と子どもたち。自宅からは美しい与論島の海を見渡すことができる

旅を兼ねてさまざまな土地に出かけるなか、妻の妊娠・出産が決め手となり、自然に恵まれた環境で子育てができるよう与論島への移住を決めた。そしてスタートした島暮らしは「与論の人はすごく温かくてオープンマインド。地域で子供を育てるという雰囲気があって、待機児童もほぼありません」と、子育てにぴったりの環境だった。

村上さんの仕事場は海の見える一室。メールやチャット、ビデオカンファレンス、ファイルストレージなど、仕事相手に合わせて柔軟にツールを選びながら、東京や鹿児島にいるクライアントやクリエイターと仕事を進めている。

「最近はローカルテレビ局のブランディングのお手伝いをしています。」と村上さん。大手広告代理店との仕事のほか、ここ数年は、地元与論島はじめ、隣島である沖永良部島や沖縄での講演など、地域のプロジェクトにも可能な限り携わっている。

在島ワークの条件は何といっても通信環境。「ぼくたちにとって、ネットは空気のような存在ですからね」と移住前にはまず光回線の有無をチェックした

コンセプトを導き、仕事を首尾貫徹させる監督役として

ちなみに、クリエイティブ業界に関わらない人にとって、クリエイティブディレクションというカタカナ語は理解しがたい。

それゆえ村上さんは「正体不明」なのだが、その仕事をあえて説明すると「コンセプトワークにはじまり、ものごとの本質と、表面にあらわれる言葉やデザインの整合性をとりながら、形にしていく作業」といえる。

ウェブサイトや紙媒体でものごとの魅力や価値を伝えるためには、見た目の良いデザインや耳障り良い言葉を選ぶ以前に、コンセプトが重要になる。村上さんの仕事は、まず作り上げるもののコンセプトを導き、首尾一貫で仕上がるまでの監督役とも言える。

村上さんは現在、20周年を迎える東京の会社を後任に譲り、経営者や起業家への支援活動と並行して、与論島で、引き続きクリエイティブ業務を受注している。

最近では、与論島の企業から新しい特産品を「ホームページを通じて販売したい」という相談を受け、「まだその段階にない」と、コンセプトを固めるためのワークショップを現場の全メンバーを対象に実施。

「新たな特産品の魅力をいかに伝えていくか?」地元の人々と共に思考を凝らし働くカフェのダンナは、そのうち正体不明ではなくなるかもしれない。


ある1日のスケジュール/
04:00 情報収集と整理
05:45 起床、朝ごはんづくり
07:00 子どもを通学路まで送る
08:00 仕事
10:00 いくつかの経営支援先の朝礼に参加
10:30 仕事
12:00 仕事が終わり次第昼食
   午後はフレキシブルにし、ゲストが来たら島の案内や釣りなどへ出かける
19:00 夕食
21:00 就寝(仕事が残っている場合、仕事をする)

島データ/
与論島(鹿児島県与論町)
人口5,252人(H30.6月時点)
面積20.56km²

特集記事 目次

特集|仕事はネットで。暮らしは島で。在島WORK

2018年現在、約400島の有人離島のうち9割が人口減少にあり、0歳から14歳までの子どもたちは、10年間で2割減少。進学や就職でほとんどの子どもたちが島を離れるなか、「7〜9割がそのまま島に戻らない」といわれています。

島に戻らない(あるいは戻れない)理由の多くは「仕事がないから」。しかし今、この潮流が変わりつつあります。

リトケイでは、テレワーカー、リモートワーカー、クラウドワーカーなど、さまざまに呼称される「インターネットを介して自由に働く人」のなかでも、島暮らしを選んだ人々を「在島ワーカー」を特集。島の希望となるかもしれない、新しい働き方を紹介します。

※この特集記事は『季刊リトケイ』25号(2018年夏号)と連動して掲載しています

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