つくろう、島の未来

2024年04月19日 金曜日

つくろう、島の未来

島暮らしを選び、島に仕事を持ち込んだ「在島ワーカー」とはどんな人か? 7つの島に暮らす在島ワーカーに、仕事や暮らしについて聞きました。取材はすべてZOOMやSkypeなどのビデオカンファレンス(テレビ電話)を使用しました。『季刊リトケイ』25号特集「仕事はネットで。暮らしは島で。島の新しい働き方 在島WORK」連動記事です。

震災を機にテレビ局の常駐勤務から在島ワークへ

お台場にあるテレビ局で美術制作チームの一員として、テレビ番組に出てくる番組タイトルやテロップ、イラストの制作を担当していた福澤伸太郎さんは、暮らしの場を石垣島(いしがきじま|沖縄県)に移して5年。在島ワークとなった今も、人気番組のタイトルデザイン等を担当している。

移住前は妻と2人の子どもの4人で高層ビルが立ち並ぶ品川区に住んでいた福澤さんは、東日本大震災による原発事故をきっかけに「なるべく遠くに移りたい」と考え、家族旅行の思い出があった石垣島への移住を決断。2011年に先発隊として家族が移住し、福澤さんは2年間の単身赴任生活経て石垣島に移った。

移住にあたり、福澤さんは常駐が条件だった業務委託契約を解除し、フリーランスに転向。島でも引き続き仕事を受注できているが、一家を支える大黒柱として「以前は常駐料として基本給がもらえて、プラス出来高制でもあったので収入面では不安がありましたね」と正直な胸の内を話す。

不安と向き合いながらも家族の笑顔に光を見る

福澤さんは妻と2人の子どもの4人暮らし。自然豊かな島でのびのびと過ごす家族の姿を見られることに幸せを感じている

ただ、その決断により家族の心は大きく変化した。「子どもや妻がのびのびしているのは圧倒的に違うので、本当に良かったと思っています」と福澤さん。

東京では子育てに対する疑問を抱きつつも、すぐにどこかに移住するような具体的に考えには至れず、「なんとなく暮らしていた」。そこで震災が起こり、一気に島に導かれたわけだが、その結果、家族に笑顔が増えたのだ。

現在、福澤さんは自宅の隣に仕事場を借り、日々の業務にあたっている。発注元は現在も、東京のクライアントが多く、テレビ番組のロゴデザインやイラストレーションを担当。人気アイドルグループが出演する『VS嵐』のタイトルデザインや番組内で使われるイラスト等は福澤さんの仕事だ。

また、石垣島では石垣島クリエイティブフラッグに参加し、ポスターやリーフレット制作の仕事も受注。「島で知り合った人から、飲食店のメニューやホームページ制作の依頼を受けることもありますね」と仕事の幅を広げている。

クラウドソーシングはほどよく利用

仕事場は自宅の隣。業務上の必須アイテムはMacのデスクトップとノートパソコン、Adobeクリエイティブクラウド、iPhoneなど

一方、クラウドソーシングサービスにも登録していたが、こちらは現在、利用を控えている。

理由は「精神衛生上やりづらいから」。何十万人ものクリエイターが登録するコミュニティだけに、コンペ形式でデザインが募集される案件では、落ちることも少なくない。それなりの業務実績がある分、コンペに落ちると「就活に落ちまくるような精神状態」に追い込まれてしまうのだ。

今後は「東京のテレビ局関係のクライアントが多いが、今後は地方局の仕事もやってみたい」と話す福澤さん。テレビ番組はもちろん、企業や店舗、イベントなどのロゴデザインからキャラクターデザインにアニメーション制作まで、福澤さんのホームページに並ぶ多くの実績を持って、新しい可能性を切り拓くことに意欲を見せている。

石垣島に移って6年目となる今、上の子どもは中学生となり、部活にも忙しくなった。「東京にいた頃は、空いた時間に子どもの送り迎えをするなんてできなった。今はちょっと空いた時間に、家のことや子どものことができます」(福澤さん)。

東京にもたくさんの公園があり、子どもたちでにぎわっていた。だけど「今となっては戻れない」という一家の大黒柱は、新たな可能性を展望しながら、今日も島でデザインと向き合う。


ある1日のスケジュール/
07:00 起きる、朝食、子どもを送る
08:00 家事、家の掃除、洗濯
11:00 メールチェックなど
12:00 昼食
13:00 デザイン業務
18:00 夕飯の準備、子どもの部活の送り迎え
20:00 家族と一緒に夕食
21:00 残りの仕事
24:00 息抜きタイム
25:00 就寝

島データ/
石垣島(沖縄県石垣市)
人口49,320人(H30.6月時点)
面積222.24km²

特集記事 目次

特集|仕事はネットで。暮らしは島で。在島WORK

2018年現在、約400島の有人離島のうち9割が人口減少にあり、0歳から14歳までの子どもたちは、10年間で2割減少。進学や就職でほとんどの子どもたちが島を離れるなか、「7〜9割がそのまま島に戻らない」といわれています。

島に戻らない(あるいは戻れない)理由の多くは「仕事がないから」。しかし今、この潮流が変わりつつあります。

リトケイでは、テレワーカー、リモートワーカー、クラウドワーカーなど、さまざまに呼称される「インターネットを介して自由に働く人」のなかでも、島暮らしを選んだ人々を「在島ワーカー」を特集。島の希望となるかもしれない、新しい働き方を紹介します。

※この特集記事は『季刊リトケイ』25号(2018年夏号)と連動して掲載しています

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