柑橘類の栽培が盛んな大崎下島(おおさきしもじま|広島県呉市)では、初夏になるとレモンやみかんなどの花が咲き、島中に柑橘類から採れる精油「ネロリ」の香りが漂い始める。島が爽やかな香りに包まれた6月上旬、「ネロリの島の結婚式〜心にうかぶ、ふるさとをつくる〜」が催され、日本全国から約60名の出席者が島に集まった。
島特産の「大長レモン」や伝統芸能の「龍王権現太鼓(りゅうおうごんげんだいこ)」など、島の魅力をいっぱいに盛り込んだ「ネロリの島の結婚式」について、担当したウエディングプランナーらに話を聞いた。(前編はこちら)
中島琢郎さん亜優さん夫妻(撮影:西山勲)
広島駅から島までバス送迎付きの結婚式
2017年6月3日の結婚式当日。島で結婚式が催されるのは、大長(おおちょう)地区では9年ぶり、御手洗(みたらい)地区ではおよそ20年ぶりのこと。朝の島内放送で、結婚式のお知らせと見学を呼びかけるアナウンスが島内全域で放送された。
全国から集まる親族・友人ら約60人の出席者のために、新幹線の止まる広島駅から大崎下島まで送迎バスが用意された。各座席には島の地図や軽食、飲み物が入ったミニバッグが備えられ、車内ではスケジュールのアナウンスののち、島をモデルにしたアニメ映画を上映。参加者は島内の地図を広げ、映画を見ながら島まで約1時間40分の道のりを過ごした。
親族での神前式は、1318(文保2)年に創建され699年の歴史がある「宇津神社」でとり行われた。神社へ向かう道中は、日本古来の「狐の嫁入り行列」姿で練り歩いた。行列を見ようと通りに出てきて見物する島の人々からの温かな祝福に、新婦の亜優さんが思わず涙する場面もあったという。
日本古来、魔除けの意味をもつ狐の嫁入り行列(撮影:トム・宮川・コールトン)
お昼過ぎに、参加者が島に到着。呉市営の文化会館「豊まちづくりセンター」で、乾杯と昼食を兼ねたウェルカムイベントが催され、呉市名産の清酒「千福」が振る舞われた。
当日の司会者は、神戸で結婚式のプロ司会者を経て島のレモン農家に嫁いだ上神てるみさんが務めた。
また、この日のために、平均75歳という龍王権現太鼓衆の皆さんが大崎下島伝統の太鼓を披露。にぎやかにハレの日をお祝いした。
ウェルカムイベントの様子(撮影:西山勲)
披露宴は会場を移し、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている御手洗(みたらい)地区で行われた。
御手洗地区には江戸時代より風待ちや潮待ちの港町として栄え、今も江戸から明治、大正昭和初期までに建てられた貴重な建物が残されている。
大崎下島では集まりごとのある際に菓子をまく習慣があり、島の人たちは大変楽しみにしている。披露宴でも菓子まきを行い、たくさんの人が会場付近に集まり、新郎新婦の門出を祝った。
大崎下島伝統の「菓子まき」の様子(撮影:トム・宮川・コールトン)
それぞれの心に残った島の結婚式
披露宴では、司会の上神さん夫妻がつくった大崎下島産レモンをふんだんにつかった、レモンサワーとレモンスカッシュを、東京でレモンサワー専門店を営む新郎の友人が提供。また、お土産に新鮮なレモンが配られた。
スピーチで祝辞を送った琢郎さんの上司は、「この島に来て、新郎新婦の想いが分かった。二人と大崎下島に乾杯!」という言葉を贈り、式の出席者からは「行ったことも所縁もない島だったけれど、ここに来れてよかった」など喜ぶ声が聞かれた。
式を見学に来た島の人たちは、たくさんの人が集まり華やかに飾り付けられた交流館を見て「こんなに雰囲気が変わるのね」と驚き、笑顔を見せた。
披露宴の終盤、新郎の琢郎さんが仲間と組んだバンドに琢郎さんの父がサックスで加わった演奏では会場が総立ちになり、その様子を楽しそうに見守る島の人たちの姿も見られた。地域の方々との調整のために一肌脱いでくれた御手洗地区街並み保存会 会長の尾藤 良さんも、「想像以上に素晴らしい式になったね」と喜んだ。
披露宴会場の様子(撮影:トム・宮川・コールトン)
披露宴の閉会後は、日帰りの参加者をバスで広島駅に送迎。島内のカフェで開かれた二次会への参加者には、県営の宿泊施設と送迎バスが用意され、結婚式の翌日からは、大崎下島の島内観光をしたり、付近の島巡りをする参加者の姿も見られた。新婦の友人からは「東京に帰ってからも大崎下島が恋しくて、再訪を心に決めた」との報告もあったという。
花嫁の狐面には、さりげなくネロリの花があしらわれていた(撮影:トム・宮川・コールトン)
式を担当した株式会社THINK GREEN PRODUCEのウエディングプランナー・斉藤千重さんは、「新郎新婦や両家のご両親、大崎下島の方々など、人と深く関わってつくりあげるなかで、家族の絆の深さや心の豊かさを感じ、自分自身も成長できた式でした」と振り返る。
斉藤さんと共に式の1週間前から島に泊まり込み、準備と当日の運営に携わった同社ウエディング広報担当の肥留間翔子さんは、「式の準備に奔走するなかで、ふと立ち止まって見た夕日の美しさに感動し、島の人たちの心の温かさに元気づけられました。自分自身も、故郷のために何かできるのではとの想いが生まれました」と話す。
式に関わったスタッフにも島への愛情が芽生え、「週末だけでも島暮らしができないかな」という声もあるという。
大崎下島での結婚式を構想した琢郎さんと亜優さん、地元の協力、スタッフの尽力が実を結び、島の人々も一緒に楽しんだ幸せな1日。島の瑞々しい柑橘が放つネロリの香りとともに、それぞれの人の心に大切な想いを残す結婚式となった。
【関連サイト】
Youtube【大崎下島・瀬戸内海】2017年6月3日 ネロリの島の結婚式【Japanese Island Wedding】