【島Report】結婚式をきっかけに「ただいま」と言える島をつくる。大崎下島「ネロリの島の結婚式」（前編）

柑橘類の栽培が盛んな大崎下島（おおさきしもじま｜広島県呉市）では、初夏になるとレモンやみかんなどの花が咲き、島中に柑橘類から採れる精油「ネロリ」の香りが漂い始める。島が爽やかな香りに包まれた6月上旬、「ネロリの島の結婚式〜心にうかぶ、ふるさとをつくる〜」が催され、日本全国から60名の出席者が島に集まった。
島特産の「大長レモン」や伝統芸能の「龍王権現太鼓（りゅうおうごんげんだいこ）」など、島の魅力をいっぱいに盛り込んだ「ネロリの島の結婚式」について、担当したウエディングプランナーらに話を聞いた。

中島琢郎さん亜優さん夫妻大崎下島・恵比寿神社にて（撮影：トム・宮川・コールトン）

大切な島で結婚式をあげたい

広島県の呉（くれ）市南東沖には、今治（いまばり）市まで「とびしま海道」で架橋された下大崎群島が連なる。その一つ、大崎下島には面積約17.82キロ平方メートルに、1,984名（※）が暮らしている。

※平成29年３月末時点

6月上旬、大崎下島で、東京在住の新婦が、全国から親族・友人ら約60名の出席者を招いて結婚式を挙げた。

市営の文化会館をつかったウェルカムイベント（撮影：トム・宮川・コールトン）

新郎の中島琢郎さんと新婦の亜優さんにとって、大崎下島は思い出のある大切な場所だった。

母親が島の出身だったため、子どもの頃からお盆や正月などに度々島を訪れていたという亜優さん。夏は海で泳ぎ潜ってタコを捕まえたり、冬は道端に生っていたみかんをこっそり食べたりして冒険気分で休暇を過ごし、「島に住みたい」と両親にねだったこともある活発な子どもだった。

そんな亜優さんは長じて、自転車で瀬戸内海の島々をめぐる旅が好きだった琢郎さんと出会う。二人の中が深まったきっかけは、瀬戸内海の島々の話で盛り上がったことだった。その後、交際を経て結婚が決まり、お互いの両親への挨拶の後、琢郎さんと亜優さんは二人で大崎下島を訪れ、琢郎さんも穏やかな島の空気感がすっかり気に入ったという。

家庭を築くにあたり「一緒に『ただいま』と言って帰ってこられる場所を築きたい」「大好きな島の魅力を多くの人に伝えたい」との思いを持っていた二人は、結婚式を挙げる場所に大崎下島を選んだ。

手探りの企画に欠かせなかった地元の協力

島のレモン農家・上神てるみさん夫妻と新郎新婦（撮影：西山勲）

株式会社THINK GREEN PRODUCEのウエディングプランナー・斉藤千重さんが、琢郎さんと亜優さんから島の結婚式の相談を受けたのは、2016年の夏のことだった。島で結婚式を挙げたいとの相談に、初めは戸惑いを覚えたという。

「皆さんが喜んでくれる式にするためには、親御さんが納得してくれて、ゲストに苦労をかけないようにできるかどうかが大切だと思っています。専門の式場もなく、交通も便利ではない場所で挙式するのは大変な道。それを分かった上で、実現させる覚悟を持てるかどうか、お二人で島に行って考えてきてくださいと話しました」と斉藤さんは振り返る。

2016年8月、琢郎さんと亜優さんは大崎下島を再訪した。そこで呉市地域おこし協力隊として活動していた宮川真伊（まい）さん、カメラマンのトム・宮川・コールトンさん夫妻と知り合い、真伊さんが島の方々との調整役を、トムさんが式のカメラマンを請け負ってくれることになった。
この出会いに勇気付けられた琢郎さんと亜優さんは心を固め、「島で結婚式ができそうです」と斉藤さんに報告した。