つくろう、島の未来

2024年10月15日 火曜日

つくろう、島の未来

静かな時間の流れる沖島(おきしま)。近年は、佐儀長、伊勢太神楽などの行事や、島のあちこちで暮らす猫を目当てに、足を運ぶ観光客が増えてきました。「生活の場としての島を大事にしながら、沖島ファンも増やして島の魅力を伝えていきたい」という島民の方に、想いを伺いました。連載第3回目の今回は、沖島の生活についてご紹介します。

文・写真 上島妙子

生活の場としての「島の日常」

沖島の特徴は、何といっても“淡水湖上に浮かぶ日本唯一の有人島”という点です。島の年配の方々によると、かつて島の子どもたちは、学校から帰れば琵琶湖と自宅を往復して水汲みの手伝いをしていたとのこと。海上の離島と違い、淡水湖である琵琶湖の水は島の生活用水として身近なものだったのです。

■淡水湖上ならではの沖島の生活

1穏やかな湖面

穏やかな湖面

かつて島の子どもたちは湖で行水を行い、たらい船競争をして遊んだそうです。現在、沖島の小学生は、高学年になると琵琶湖で遠泳を行うのが習わしとなっており、琵琶湖と沖島の子どもたちとのつながりは、今なお受け継がれていました。

「夏の暑い日は、夜眠る前に湖にざぶんと飛び込んで船にしがみつくんです。するとスーッと汗が引いて涼しくなる。そのあとは快適にぐっすり眠ることができました」と西福寺の住職の茶谷さんが教えてくれました。琵琶湖は天然のクーラー代わりだったのです。

沖島内を散策すると、湖が目の前に迫る軒先に洗濯物がはためき、湖面近くまで枝を伸ばす桜並木が湖岸に見られます。こうした風景は塩害がない沖島独特のもの。漁師の西居英治さんは「湖に出て船上から眺める桜の美しさは本当に格別ですよ」と目を細めます。

2琵琶湖と桜の花

湖面まで枝を伸ばす桜の枝(撮影:富田雅美さん)

港の周りに集まる集落では、自宅にちょっとしたスペースがあれば必ずと言っていいほど畑がつくられており、私が訪問した1月下旬には、大根や白菜などが植えられていました。なかには湖の波打ち際ぎりぎりまで畑にしているお家も。これも塩害がないからこそ見られる風景でした。

3波打ち際まで迫る島の畑。淡水湖ならではの風景

波打ち際まで迫る島の畑。淡水湖ならではの風景

集落を外れた島の東側には「千円畑」という地区があります。ここはかつて自衛隊施設の建設予定地となっていましたが、建設がなくなり、島の方々が一区画を千円で買い受けて畑にしたんだそう。

4島内で大活躍する三輪車

島内で大活躍する三輪車

島では畑は主に女性の仕事。畑で女性同士が世間話をしたり、ちょっと珍しい野菜があれば苗を交換し合ったりして交流する場所だそうです。畑仕事のために、島の方々が愛用する三輪車に乗った女性がやって来る姿も見られました。

島内の畑には、もう一つ特徴があります。それは、畑に突如として錆びついた冷蔵庫や洗濯機、風呂桶が設置されていること。一瞬びっくりする光景ですが、これは決して“粗大ゴミ”ではないのです。

畑を案内してくれた、沖島のお休み処「いっぷくどう」の小川ゆかりさん(通称・いっぷくどうさん)によると、島外からなかなか新しい物資を持ち込めない事情がある沖島では、使っていたものが壊れたとしても「何とかこれを再利用できないだろうか」とまず考えるそう。

その結果、冷蔵庫などの家電や風呂桶は、農機具や肥料など、畑で使うものをしまったり、天水桶の役割を果たし、リサイクル利用されているのです。沖島ならではの生活の知恵が垣間見えました。

5洗濯機のドラムが植木鉢に変身

洗濯機のドラムが植木鉢に変身

「こうした家電などの再利用も、島外からいらっしゃる方の一部からは『ゴミがあっていかがなものか』と誤解されてしまうこともあるんですが、沖島には沖島の事情があって生活している、ということをまずは分かってほしいですね」といっぷくどうさんは言います。

■島外の方々との交流を深めながら、沖島ファンを増やしてゆきたい

近年、沖島にも島外から観光客が訪れるようになり、沖島の方々としても「沖島ファンを増やしたい」「島外の人たちともっと交流の場を増やしたい」という想いがあるそうです。

しかし観光客の中には、興味本位で島人の生活の場に入り込み、島人たちに断りもなくカメラを向けてくる人もちらほら。そういえば、島へ来る通船の中にも「島の小学校の子どもたちにカメラを向けないように」という注意書きがありました。

さまざまな想いがあるなか、島の魅力に目を向けてもらおうとする動きもあります。昨年12月には初めて離島振興推進協議会主催で「沖島なないろメガネツアー」という催しが開催されました。島外の方々4人に来島してもらい、沖島の暮らしについて研究していた滋賀県立大学の学生がガイドとなって、沖島のよさを伝えてもらったそうです。

6島にはたくさんの猫が 来島者を和ませている

島にはたくさんの猫が 来島者を和ませている

島の方々のお話から、島の生活ぶりを知ってもらい、価値観を理解してもらって、沖島を好きになってくれる来島者を増やしていきたい、という願いが伝わってきました。

次回は、とうとう最終回。島の未来についてお話します。

(#04・最終回へつづく)

 

 

     

離島経済新聞 目次

【湖上の離島 琵琶湖の恵みを守る島レポ】 湖上の隠れ家・沖島の過去・現在・未来

琵琶湖の東南に位置する沖島は、淡水湖上に浮かぶ日本唯一の有人島。琵琶湖の恵みを受け、主に漁を生業とする島人が静かに暮らしています。湖上の隠れ家のような存在である沖島を訪ね、島人の皆さんから沖島の過去、現在、未来について伺いました。

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