平成25年7月に離島振興対策実施地域の指定を受けた沖島では、「これからは静かな生活の場としての島を守りながら、島外の沖島ファンも増やしていきたい」という目標のもと離島振興推進協議会が設立されました。
連載第4回目の今回は最終回。
島の未来を見据え活動する「いっぷくどうさん」にお話を伺いました。
文・写真 上島妙子
路地にたたずむ“いっぷくどう”
沖島の新たな魅力を見つめ直す
港から徒歩5分ほど、沖島独特の狭い路地の一隅にお休み処の「いっぷくどう」が現れます。切り盛りするのは、沖島で生まれ育ち、沖島の離島振興推進協議会の活動にも参加する小川ゆかりさん(通称・いっぷくどうさん)。いっぷくどうさんに、一島人から見た沖島への想いをうかがいました。
もともと実家だった築120年ほどのこの場所で、いっぷくどうさんがこのお店を始めたのは3年前。実はいっぷくどうさんがお店を始めた当初は、島のことや、島内のご近所づきあいに積極的な関わりを持っておらず、島内外を行き来する通船の中で知人と顔を合わせても、特に話をすることもなかったそうです。
それが少しずつ変わったのは、島外から島へお嫁に来た富田雅美さん、小川文子さん、本多有美子さんたちの島での活動を目にするようになってから。
「彼女たち三人は、知り合いのいない島へ嫁いできて家族を作り、育児をし、婦人会や子供会に参加して島内でのネットワークを広げ、地に足をつけて島で暮らそうとしている。そんな彼女たちの姿を見て、自分も影響を受けたのです」(いっぷくどうさん)
“いっぷくどう”そばの桟橋から島の家々を望む
若い時には、船がなければ生活できないなど、不便で閉鎖的な沖島の出身である、ということに反発心を持っていたいっぷくどうさん。中学生になると船で島外へ通学しなければならず、島外の友人たちと比べ「沖島の人間である」自分に引け目を感じてしまっていました。「もっと広い世界を見てみたい!」と、島外で働いたこともあったそうです。
しかし沖島でいっぷくどうを開店し、島外のお客さんと交流したり、島のおじちゃん、おばちゃんと関わったり、山を散策するなど沖島の自然に触れることで「沖島の良さがわかり、狭い世界ではなかったんだと実感するようになりました」と言います。
海上の離島在住者との交流が力に
もう一つ、2014年11月に、沖島として初めてのアイランダー(※毎年11月に東京で開催される全国の離島地域が集うイベント)に参加したことも沖島を見つめ直す転機となったと言います。
「1日だけでしたがアイランダーで沖島のブースに立ちました。そして、せっかくだからと、沖島と同じくらいの規模の山形の飛島(とびしま)、山口の大津島(おおづしま)などといった他の離島のブースにも出かけて行って交流を持つようにしたのです」(いっぷくどうさん)。
他島との交流のなかで印象的だったのは沖縄のとある島の方の「島の人口は確かに減っている。でも深刻にとらえるのではなく、人口が急激に減らないように、まずは少しずつでも緩やかになるようにするにはどうしたらいいか、と考えればいいのでは?」という言葉。この言葉で、いっぷくどうさんは島の未来を悲観的にばかりとらえなくともよいのでは、と感じたそうです。
奥津島神社より 島のどこにいても湖が感じられる
沖島はこれまで、淡水湖上の有人島という特殊な島だったこともあり、他の離島との交流が全くと言っていいほどなかったとのこと。アイランダーに参加したことで「日本にはこんなにもたくさんの島があるんだ、一人じゃないんだ思えました」(いっぷくどうさん)。
これからの沖島を魅力的にしてゆくために。
島内の女性たちの活動ぶりに触れ、そしてアイランダーへの参加をきっかけに、以前よりも沖島内のさまざまな年代の方々とも交流を持つようになり、前後して離島振興推進協議会にも参加するようになったいっぷくどうさん。現在は、沖島のお父さん、お母さん達といった様々な年代の島人同士で島のこれからのについて模索しているところだそうです。
島独特の狭い路地の向こうには琵琶湖が
「今後の計画として現在、沖島の特徴を活かし、島の外から来た人にも喜んでもらえるようにと、島外の方に島のお父さんが操縦する船に乗ってもらう、遊覧船事業を計画するために離島振興推進協議会で話し合っているところです。湖の上から沖島を眺めてほしいのです。協議会内でも、島内でもいろいろな意見があってすんなり進むわけではないけれども、だからこそ“真剣に取り組もうとしているのか”ということを試されているように思います。さらに島外の方から“失敗がどうとかではなく、何も動かない島が何も変わらない島”と言われ、沖島もそうなんだ。チャレンジする事が大切なんだと教えられました。」(いっぷくどうさん)。
沖島で島の会合におじゃました時、島の方から逆に質問されたのは「これからの沖島は何をしたらいいと思う?」「他の島はどう?」といったこと。
今、沖島は高齢化や漁師の後継者不足などの問題を抱え、揺れ動いていますが、漁師さんたちやいっぷくどうさん、島の外からお嫁にやって来た女性たちのお話から「沖島をどうにかして元気にしたい!子どもたちに島の伝統や生活、習慣を受け継いでいきたい」という想いが伝わってきました。
こうした思いは、淡水湖上の沖島だけの問題ではなく、海上の多くの離島とも共通するところだと改めて感じました。
琵琶湖の恵みとともにある、静かな生活の場を大切にする沖島を大切に思い、島に暮らす方々のよさを理解する沖島ファンが増えていってほしい、と願ってやみません。
遊覧船事業
もんてクルーズは、沖島にある沖島漁港を出港し、島の周囲を約40分かけてぐるっと1周する遊覧船で、「沖島遊覧船 もんてクルーズ」として2015年8月から10月末まで運航された。遊覧船からは島内に建ち並ぶ家並みや人が立ち入ることのできない島の浜辺の様子、周囲に広がる琵琶湖の情景が楽しめ、時には島人の手を振る様子も垣間見えるような距離を運航する。2016年は4~10月まで運航予定。
お問い合わせ:沖島町離島振興推進協議会遊覧船事業部
TEL・FAX 0748・32・5589