【オーガニックにこだわった果物をつくる】大崎上島で「有機JAS規格」の柑橘をそだてる中原観光農園。オーガニックへの取り組みとともに有機肥料づくりへ挑戦し、ユニバーサルデザインに配慮した観光農園をつくる中原さんに話を伺いました。
大崎上島の中原観光農園が認定を受けている「有機JAS規格」は、
農薬、化学肥料の不使用はもちろん、最低年1回の実地調査が義務づけられるなど、
厳しい基準をパスしなければなりません。
肥料や土壌条件だけでなく、労働条件まで定められる厳格な基準が設けられるため、
この基準にこだわるということは、単に食の安全を確認するだけでなく、
自然と人間との共存を見据えいこうとする意思の現れともなります。
この農園を経営する中原伸悟さんは、明るく陽気な人柄で
島と農業、農業と人、人と島を有機的につなげる活動を行ったり、
オーガニックへの取り組みとともに有機肥料づくりへ挑戦し、
ユニバーサルデザインに配慮した観光農園をつくってきたそうです。
中原さんの農園で話を伺いました。
オーガニックにこだわった果物をつくる
リト経:
この農園では、主に何を育てられているんですか?
中原さん:
柑橘が主体。
10月から6月いっぱいくらいまで収穫できるような品種構成で、
15~16種類かな。 デコポン、ネーブル、甘夏…
ブラッドオレンジなんて最近はやってるのもあるよ。
最近、ハルカとかいうのもはやってるね。
あと、広島発祥のはっさくもある。
リト経:
柑橘だけでも沢山あるんですね。
中原さん:
あと、レモンも年中とれる。
普通の栽培だったら農薬をかけるんやけど、農薬には基準があって、
散布してからの3ヶ月間は、いくら実がなっても収穫できんのよ。
リト経:
へえ。もったいないですね。
観光農園のみかん狩りシーズンはいつですか?
中原さん:
10月はじめから12月までよ。
リト経:
農園の地面に、沢山の木のチップがまかれてますね。
中原さん:
このチップは山木だけでつくってるんよ。
有機栽培は基本的に、山木だけのチップをつかいます。
家をたて壊したような木は防腐剤とかがついているからダメ。
あと、ここは自然農薬だけをつかっているんよ。
リト経:
自然農薬とは?
中原さん:
硫黄とか、自然のもん。
(ここからは農園の東屋に移り、写真や資料を見せてもらう)
リト経:
有機栽培をされていますが、 肥料もつくられていたんですか?
中原さん:
ぼかし肥料いうやつ。
島にある椎茸の菌床と、醤油をしぼったカスと油、 米ぬか、竹炭、
漁業組合から魚のアラを発酵させたやつをもらって、
それを発酵させて肥料をつくっていました。
リト経:
島素材の肥料なんですね。
中原さん:
EM菌いうの知ってます?
きだてるおさんいう琉球大学の有用微生物群を使うやつ、
酵母菌なり光合成細菌とかね、
有用な微生物を発酵してつくるんですよ。
農園で使用する肥料も、島にあるものでつくられるそうです
リト経:
へええ。
中原さん:
ただ、この肥料はうまくいかんと腐敗してしまうんよ。
水分がきっちりコントロールできたら、いい香りがするんだけど…
腐敗してしまうと、においで周りに怒られてね…
面白いなと思っとったんだけど、 や
はりかっちりした施設がいるじゃろうと。
だからこれは次の世代かな。
リト経:
うまくいって欲しいです。
こういう農園にしようとおもった動機は?
中原さん:
(古い写真を見せてくれる。写真には山の斜面に庭園のように柑橘農園が広がっている)
30年前、当時の日本で有名な柑橘農園が熊本にあって、
そこの西山先生という方にあったんよ。
(当時の西山農園は、耕作面積5ヘクタールを誇り、収量は1反あたり6トン、粗収入は大崎上島の8倍あった。※2008年季刊しま掲載記事より)
それで、西山先生に、
「こういうんは島じゃ無理だ」と言ったら、
「みんな無理じゃ無理じゃ言うてあんたもそれか」
とボロカス言われてね。
「ひとつずつでもやりはじめてなんぼのもんでしょう」
と言われたのがずっと残ってます。
リト経:
それがすべての動機なんですね。
「あ、ついでにこれも見せちゃろう」と、
中原さんはゴルフ場などで使用される乗用草刈り機に乗って、草刈りの実演をしてくれました。
「昨年、試しに乗ってみたらどうしても欲しくなってね。
瀬戸内海で柑橘地帯で入っとるのは1件目って言われてね、
それで買うてしまった」
ということですが、他のスタッフはふつうの草刈り機とのこと。
「ただね、女性用にはピンクで一番軽い草刈り機を用意しちょるんよ。
それが自分用とかだったら、なんかいいでしょ」
と話す笑顔に、陽気で温かい人柄を感じました。
オーガニックのエビ養殖から
ユニバーサルの農園まで
リト経:
中原さんは観光農園以外にも、 いろいろなことをチャレンジされてきたそうですね。
中原さん:
3年前まで、 クルマエビの養殖もやりよったんよ。
リト経:
「オーガニックファーム海彦山彦」のことですね。
中原さん:
海の幸と山の幸がとれるということで 「海彦」と「山彦」だったんよ。 地主さんの事情で今はやってないけど、 イカダで中にはいったり、網を入れてとったりで、 ずいぶん楽しかった。 お客さんは、みかん狩りにくるんじゃけども、 わしらエビが珍しいもんじゃけ、 一生懸命エビを売っとったりして。
リト経:
ははははは
中原さん:
そのときのエビも、無投薬といって 抗生物質とかいれんでやっとったんよ。 平米あたりの匹数をずっと抑えて病気がわかんようにしとった。
リト経:
オーガニックのクルマエビですか。 ぜひ復活してほしいですね。
中原さん:
あと、沖浦地区いうて、 島の南側の漁港がある地区があるんやけど、 そこでも何かできんかなと思ったんよ。 それで、そこでは誰でもみかん狩りができるバリアフリーの畑をつくった。
リト経:
平成10年につくられた 「ユニバーサルデザイン農園」ですね。
中原さん:
試しに、島にある老人ホームの車いす部隊いよるんですけどね、 その人たちにみかん狩りをしてもらいました。 芝の上は走りにくいんだけど、 芝の上になら座り込んでもぐこともできて、 最初は緊張しよるんですけど、 だんだん回路がつながるんでしょうね。 不安そうな顔しとったんがね、 どんどんもぎだして、 帰るころには笑顔も違ってくる。
リト経:
へええ。すごく良い話ですね。
中原さん:
ただね、帰ってから興奮して夜寝れんくなるらしいんだけど、 そりゃあしらんわいて。
リト経:
はははははは。
中原さん:
なかなか、おもしろいドラマがあるんよ。 ここの農園をつくったのは、 毎日農業記録賞というので30万もろうたのがきっかけなんですよ。 その10万円で石碑をたててね、あとはわいわいしよったらなくなったけど。 あとは、そんなに面白い話はないかな。
リト経:
はははははは。中原さんは島の内外を問わず、 いろいろな人とのコミュニケーションを図られているようですね。
中原さん:
「FFアイランド大崎会」(※)というところがあって、 エビがあったときは養殖場で、 FFの品物をならべて売ったりもしてました。 あと、「かみじまファンズ」(※)も続いていけば良いと思っとる。 ここいらには昔、造船所がたくさんあってね、今は鉄だけど昔は木造船で。 大工さんとかもようけおって、 その人たちが飲むとなると、 磯節とかね、そういう歌いうのが好きだったんよ。 カラオケはないからね、手を叩いて歌って。 そういう時代があった。 かみじまファンズとか、Iターンの人とかともね、 有機的なつながりにして、 年配者とも一緒に花見をしたり、昔の歌でも歌ったりしていきたいね。
「ちょっとこれ見てよ」と、 農園から見える、 生野島を指して中原さんが言いました。
よくみると、山の形が「寝仏」にも見えてきました。
「ここに隠れているのがわかったら信仰心があるね。 この観音様は季節によって男になったり女になったりするんよ」
のどの位置に松の木、胸には桜の木が自生しているらしい。
「いまは男やけど、春になったらおっぱいがピンクになってね。 ははは。これ、わたしらが発見したのよ。 みかんはいいけ、あれを載せてー」
そう、陽気に笑いながら、 観音様についても熱く語ってくれました。
(※)FFアイランド大崎会・・・
昭和62年に大崎上島の水産業者、食品加工業者、農業者などの15業者で立ち上げた団体。地元の特産品販売や商品開発を図り、島外へ向けたPRを行っている。FFはフィッシュとフルーツの頭文字。
(※)かみじまファンズ・・・大崎上島が好きで、この島に集まってくる人を集めたグループ。サツマイモ掘りなどのイベントを定期的に開催し、島外と大崎上島との有機的なコミュニケーションを形成している。