つくろう、島の未来

2024年04月25日 木曜日

つくろう、島の未来

この春、日本の島々に「離島カード」なる新アイテムが登場します。第1弾として発行されるのは、日本の「国境」に位置する特定有人国境離島15地域のうち66島分のカード。離島カードの誕生を記念して、島旅の達人でありカードの制作にも携わった3人に、国境の島々を旅する醍醐味や、離島カードの楽しみ方について聞きました。前後編でお届けします。

PR・内閣府 総合海洋政策推進事務局 有人国境離島政策推進室
制作・リトケイ編集部

質問①/
日本全国さまざまな島を旅された皆さんに伺います。過去に訪れた国境の島々で出会った「忘れられない絶景」を教えてください。

加藤庸二さんの「忘れられない絶景」| 隠岐諸島

加藤庸二さん。1951年生まれ。東京都出身の写真家。国内の上陸可能な有人島すべてを踏破した島のスペシャリスト。主な著作に『島」へ。』(講談社)、『原色日本島図鑑』(新星出版)、『島の博物事典』(成山堂書店)など

いっぱいあるけれど国境離島であれば、やはり隠岐諸島(おきしょとう|島根県)ですね。隠岐ユネスコ世界ジオパーク(※)の絶景。どうしてあの場所に火山島ができたのか、島の組成を含めて地球の歴史を間近で見ることができるのはすごいです。

※地球上の大地や生態系、人々の営みのつながりを見ることができる場所。隠岐4島はユネスコが認定する35ヶ国127地域のひとつ

西ノ島(にしのしま)の魔天崖(提供・加藤庸二)

知夫里島(ちぶりしま)の赤壁(せきへき)に島後(どうご)(隠岐の島)の摩天崖(まてんがい)など、地球の歴史や自然を観られる凝縮された絶景がたくさんありますが、美味しいものもたくさんあり、文化的、民俗的な視点でも面白いです。

大畠順子さんの「忘れられない絶景」| 青ヶ島

大畠順子さん。1983年生まれ。群馬県出身。会社員としてラジオ局に勤務する傍ら、2011年より日本の島々を巡るひとり旅をスタート。週末を利用して気軽にいけるふらっと離島旅から、マニアックな離島旅までさまざまな島旅を体験。著書に『離島ひとり旅』(辰巳出版)

北欧の風景を見るような礼文島(れぶんとう|北海道)の風景や、上甑島(かみこしきしま|鹿児島県)の長目の浜など国境離島にはいろんな絶景がありましたが、印象深いのは東京の青ヶ島(あおがしま)ですね。

SNSなどでも青ヶ島の風景が話題になっていることがありますが、ヘリで青ヶ島に行く時に上空からみる島の形にはおどろきました(※)。

※青ヶ島へのアクセスは八丈島(はちじょうじま|東京都)からの定期船または伊豆諸島(いずしょとう|東京都)を運行する東京愛ランドシャトルのヘリコプターのみ。上空から洋上にそびえる青ヶ島の島影を観ることができる

青ヶ島の風景。中央に見えるのは二重カルデラ(提供・大畠順子)

青ヶ島は人口が少ないのですが、意外にも若い人が多い印象もあって、若い人たちがバレーボール大会を楽しんでいたり、島に2軒ある居酒屋で若者からご年配までが「あおちゅう(※)」を楽しまれていたりしました。

※青ヶ島村特産の焼酎

菓子店がなく商店しかないので、お母さんたちが誕生日になると自分でケーキをつくるらしく、料理のレベルがびっくりするほど高いのも印象的でしたね。

星空ももちろんキレイで、ひんぎゃの釜(※)も楽しかったです。

※青ヶ島にある地熱窯。「ひんぎゃ」と呼ばれる地熱窯では自由に野菜や卵などを蒸すことができる

小林希さん「忘れられない絶景」 | 対馬

小林希さん。作家、ライター。日本旅客船協会の公認船旅アンバサダー。旅・島・猫をテーマに、旅先での体験を綴り、文庫本や単行本、フォトブックなどを出版。巡った島は100島以上。主な著書に『週末島旅』(幻冬舎文庫)など

隠岐諸島のジオパークもスケール感がすごかったのですが、国境の島ならではの絶景という意味では、韓国に近い対馬もすごいですね。リアス式海岸が広がっていて、外から人が入ってきても気づかないのではないかと思うほど山深くてミステリアス。島の北部からは韓国の夜景がうっすらと見えて、その近さに感動します。

対馬には長崎空港から飛行機で入って、帰りは船で博多港に戻ったのですが、博多港からは福岡空港も近いので、週末だけでも気軽に行けてしまうほど、実はアクセスしやすい島なんです。

もうひとつ、鹿児島の竹島(たけしま)に行った時もおどろきました。だって、名前の通り島が全面、竹に覆われているのです。

竹に覆われた竹島の風景(提供・小林希)

別の惑星に来たのかな?!と思ってしまうほど、知る人ぞ知る秘境の絶景がありました。

質問②/
過去に訪れた国境の島々での「忘れられない心温まるエピソード」を教えてください

加藤庸二さんの「心温まるエピソード」| 礼文島

たくさんありますが、やはり礼文島にある桃岩荘というユースホステルですね。僕が50年前くらいに島歩きをスタートした頃に見たような感覚が、今も生き残っている場所です。

昔の鰊番屋をそのまま使っている宿で、港に着くとトラックで宿まで荷物だけを運んでくれて、青年たちは歩いて宿に向かいます。宿に着くとまず歓迎を受けるのですが、大広間に皆が集まって、壁の貼られた模造紙の歌詞とか、宿のルールについての説明を受けるのです。

ご飯の時間や消灯時間など、いろんなことを教わりながら、この島のこの宿に泊まるんだと感慨を深くしながら、各々がそれぞれの1日を過ごす。島を巡るにも、宿で働くアルバイトの人がぜんぶ教えてくれ、みんなでその空間をつくりだしている感覚に圧倒されます。

礼文島の桃岩荘にて(提供・加藤庸二)

文化財級の鰊番屋にも圧倒されながら、翌朝には1日8時間かけて島の海岸に沿って歩くコースに出掛けます。スタート地点まで案内してもらい、歩き通して翌日再び宿に戻ってくる人もいます。

夜は大広間に集まり、肩組んで立ち上がってみんなで歌を歌う。最初は尻込みしていた人も最後は歌い狂っちゃって、消灯時間になったら皆がいっせいに寝る。桃岩荘ではそういう時間を過ごします。

帰りは宿のスタッフが船着場に集まり、船に乗って帰る若者たちを、歌って踊って見送るセレモニーをしてくれて、それこそ船が傾くくらい人が船の後ろに集まっちゃう。

桃岩荘で若者たちに話を聞くと、島が好きで「いずれここで漁師をやりたい」という学生がいたりして、僕くらいの歳でも若者たちと心を割って、腹を割って、話ができる。何度も訪れていますが、やっぱりあそこは面白くて、心温まります。

大畠順子さんの「心温まるエピソード」| トカラ列島・宝島

吐噶喇列島(とかられっとう|鹿児島県)の宝島(たからじま)ですね。一人旅で観光地化されてない島に行くことが多いのですが、宝島に滞在した時も観光客は自分一人だったようで(笑)。宿でも接客されているというより、親戚の家に泊まりにいったような感覚でした。

電動自転車を借りて島の展望台に行こうとしたら、民宿のお父さんが「大変だろうから」と軽トラで山頂まで送ってくれて「好きな時間に降りてきていいよ」と言ってくれたり、ひとりではなかなか入れない洞窟を案内してくれたり。宝島には飲食店がないので宿は1泊3食付きなのですが、朝、宿のお母さんに「12時になったらご飯を食べに帰ってきてね」と言われるのも、親戚の家にいるみたいで。一人で夕食を食べているのが寂しそうだからか、隣でお父さんが晩酌を始めてくれたり(笑)。

宝島の展望台まで運んでもらった電動自転車(提供・大畠順子)

3日間そんな風に朝昼晩のご飯を食べていると、帰る時にはすごく悲しくなってしまって……。お父さんが「この世で一番好きなお菓子をあげるよ」といって、鹿児島銘菓のお菓子を2箱くれたんです。

食べるのがもったいなくて、鹿児島空港についた時に同じお菓子を見つけたので、味が知りたいので買って食べたのですが、結局、お父さんにもらったお菓子は賞味期限まで食べられませんでした。

小林希さん「心温まるエピソード」 | 口之島

吐噶喇列島には何度か挑戦しているのですが、結局、口之島(くちのしま|鹿児島県)まで行ったのに1日も滞在できずに引き返したことがあるんです。

その時のわずかな滞在時間で、口之島で公認ガイドをされていたおじいちゃんにお世話になったのですが、朝早く島について、休むところもないので、そのおじいちゃんの家に行って軽く世間話をしながら、朝日が昇るのを眺めて……。

ものすごくきれいな朝焼けを見て、しばらくしたら「島を巡ろうか」と言ってくれて、なかなか出会えない野生の牛(口之島牛)を見つけてくれました。野生の牛なので、何をするかわからないのに、子牛もいるから「一緒に写真を撮ろう!」と言って、一生懸命おもてなしをしてくれたのです。

ガイドのおじいちゃんが撮影してくれたという口之島牛の子牛と2ショット(提供・小林希)

ガイドといっても島を案内してくれるだけじゃなくて、初対面なのにこんなことまで話しちゃうのかな? と思うくらい、家族のことなどいろんな話をしました。帰りは街灯もない真っ暗な港で見送ってくれ、船から見えるおじいちゃんの車のライトだけ。それがだんだん離れていって……。

帰ってから一緒に撮った写真をおじいちゃんが送ってくれて、お手紙のやりとりをしていたのですが、今もあの時のことをふっと思い出すことがあるんです。

島は遠く離れている感じがするけど、つながっている気もして幸せだなぁ……と、恥ずかしげもなく感じる自分の中にあるピュアな感情に気づいたりしています。

<後編「島旅のコツと離島カードの話」へ続く>


【関連サイト】
日本の国境に行こう!!
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