リトケイの活動コミュニティ「うみねこ組」のメンバーによる、週替りのミニコラム。第1回は、沖永良部島に暮らす「えらぶ二世(親がえらぶ出身)」、ネルソン水嶋がお届けします。
はろじの一人から借りている畑を耕しているところ。ここのところは酷暑で忙しくて行けず。
沖永良部島(おきのえらぶじま)では、親戚のことを「はろじ」と呼ぶ。
と言いつつ、親戚とはろじのニュアンスはちょっと違う。いとこやおじさんおばさんは「親戚」と呼ぶが、はろじの対象はもっともっと広い。なんというか、たぶん、限界がない。人によって線引き自由。同じ字(あざ。集落のこと)にルーツがあれば辿ってみれば遠い親戚。そんなときは決まって、「(私たちは)はろじよ!」と言われる。そして気づけば孫ターン6年目になる自分も同じセリフを言う側になった。
そのはろじの汎用性の高さは、えらぶの情景や風習などを歌う「バンシローズ」という、個人的にも大好きなご当地バンドの楽曲「ハロジ」の一節からも伺える。
♪彼の嫁さんの弟のその嫁さんのおじさんは
♪あなたの夫といとこだからあなたと彼は は は は はろじ
(中略)
♪南半球の青年が北半球の娘に恋をして 国境を超えた 世界はやっぱりはろじ
ここで聴けます→ https://music.youtube.com/watch?v=2Q-5ApZLfiM
もうお分かりの通りこの歌詞はオーバーでもない(南半球と北半球は置いといて)。
えらぶの人に「母が国頭(字名)出身です」と言った瞬間、「お母さんの旧姓は何!?」「昭和何年生まれ!?」とアキネーター(※)ばりに質問攻めされて、はろじコンピュータがカタカタ計算を始めてピコーン!と光ったら、「はろじよ!」と認定される。もうちょっとおもしろい。そして、その言葉の裏には「親戚みたいなもんだから、困ったらなんか言ってね」くらいの世話焼き精神もはらんでいて、ちょっと温かいのだ。
※人工知能の一種で、質問への回答例を元に、実在または架空の人物・キャラクターを絞込み推測しながら特定するプログラム。これ。
えらぶに住んでいる1万人以上の島民は、もう実質的にみんなはろじであり、この「はろじ認定」は安心して暮らせるコミュニティをつくっていくための、関係構築なんだろうなと最近は思うようになった。意外と、任侠の世界での「兄弟分」として盃を交わす行為に通じるのではないか。あなたと私は兄弟、家族、だから敵じゃない、困ったときはお互い様、みたいな。
そして、このはろじ認定が、隣人も顔も名前も知らない世界で育った都会っ子にはカルチャーショックであり、シマ(地域コミュニティ)の価値の一つでもあるのだと思う。まあ、価値という見方もできれば、その濃密な人間関係を「田舎だ」と言って帰らない人がいることもまた事実であり、みんながそれぞれいい塩梅を保てるといいなぁと思う今日このごろです。
ネルソン水嶋(沖永良部島在住)