海とヒトとを学びでつなぐ一般社団法人3710Lab(みなとラボ)を主宰する東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター特任講師 田口康大さんによる、寄稿コラム。東京の中学・高校生たちが池間島(いけまじま|沖縄県)や沖縄本島を取材し、映像制作やダンスパフォーマンスの創作を行った学びの活動(2015〜2017年度)について、2回に分けてお送りします。
「島」との出会いで生まれる学び
さて、これまでの連載では、日本各地の離島地域での学びの実践について書いてきましたが、今回は東京を舞台にしたお話です。東京の子どもたちが「島」と出会うことで、彼らはこれまで体験しなかった学びの機会を得ることとなりました。
始まりは、2015年から行った東京大学教育学部附属中等教育学校との共同授業でした。学習者の能動的な参加を取り入れながら、より“深い学び”を実現するための「ディープ・アクティブラーニング」を目標とし、同校の総合的な学習の時間を使って1年間授業をしました。そのテーマは「海」。
附属中高の生徒たちは、地域社会研究として宮古諸島の池間島や沖縄本島に赴き、自分たちが暮らす環境とは異なるものに触れながら、それぞれ「海」にまつわるテーマで現地の人々にインタビューし、映像を制作。また、その経験と学びを活かし、ダンスパフォーマンスの創作と表現をするというのが一連のカリキュラムでした。
今回、授業の共同製作者として映像作家の福原悠介さんを迎え、映像制作についての指導を仰ぎました。これまで私は、福原さんと共にいくつかの映像制作を行っています。その際「対話インタビュー」という手法で、さまざまな場所、人の姿を映像に収めてきました。
この手法では、語り手と聞き手が向き合い語り合うようすを二台のカメラで二人それぞれを同じように撮影します。そのことによって、互いの立場がカメラの前に対等に浮かび上がるというものです。
「対話インタビュー」のプロジェクトは、この附属中高の授業がきっかけとなってはじまったものです。
海と人との関わりを探って
この授業では、沖縄の島々に赴き、現地の人々にインタビューを行うことをひとつの課題としています。楽園やリゾートというイメージがある一方、戦争や基地、貧困問題など、非常にセンシティブな事象も数多く抱えているのが沖縄です。
この授業では、「一方向的な視線」に陥ることなく、撮影やインタビューを引き受けてくださる現地の人々との「対話」を、映像制作を通して表現できればと考えました。
つまり、東京の子どもたちにとっての沖縄でのカリキュラムを、単なる「教材」とする態度をよしとしない、ということだと思います。これは、教育現場と社会とを繋げようとする取り組みを手がける際に、私自身が、常に心がけていることです。
こうして始まった授業。最初に生徒たちと行ったのは、インタビューの練習でした。ペアになり、お互いの距離を縮めるための運動をします。そして、それぞれ向き合って椅子に座り、短い時間でインタビューを試みますが……質問も応答も、なかなか言葉になりません。生徒たちは何度も練習を重ねることで、少しずつ、身体的に「インタビュー」の手法を獲得していきます。
インタビューの手法を獲得した生徒たちは、学びのテーマを「海と人と( )」というキーワードに決め、調べ学習を行いました。そして、いよいよ「対話インタビュー」を実践するため、ビデオカメラを用いた5分間のインタビュー撮影に挑戦します。調べ学習をもとに生徒たちはカメラを向けながら、質問と応答を交わします。
はじめは「あなたのテーマはなんですか?」という質問に、「私のテーマは『海と人と( )』です」と応答する形式的なやり取りから始めました。
テーマは「海と人と生命、音楽、マングローブ、ウミガメ、お墓…」など、沖縄の環境特性や歴史文化を調べ、生徒たちが自ら設定したものです。彼らは後日、このテーマについて沖縄の島々で現地の方々にインタビュー撮影することになります。
「一方的な視線」を越えて
この授業では、撮影した映像を鑑賞する機会を多く持ちました。
「いつもと話し方も違うし、敬語に慣れないし……カメラに自分が映っていなくても、声が入っていると思うと緊張した」
「質問に対してすぐに適切に答えなければいけないと思って、逆に言葉が詰まったり、難しく考えてしまった」
「緊張して覚えていない部分もあるけど、映像を見たら、自分ってこんなこと考えていたんだ、って気づくこともあった」
「自分の気持ちがそのまま答えられている気がしなかった」
生徒同士でインタビュー撮影した映像を鑑賞した際の感想として、彼らはカメラがあることへの不自由さを口々に言い合いました。しかしその一方で、カメラの前でも思わず口をついて話してしまう自分がいることにも気づいた生徒がいました。
教育現場へのパソコンやデジタルカメラといった情報機器の普及によって、映像制作を取り入れた授業が多く行われるようになってきました。しかし、その多くは「うまく撮る」ことと「いかに見せるか」に関心が向きがちなように感じます。単なるイメージの操作に終始しているだけの例も見受けられます。
私は、特にインタビュー映像の制作において、何より大事なのは、「撮られる側への想像」だと考えています。だからこそ、この授業では、撮る/撮られる、見る/見られる実践を繰り返し行いました。生徒たちは、沖縄の人々に向き合う「対話」の姿勢を、この過程で少しずつ会得していったように思います。
さて、準備運動を重ねた生徒たちは、いよいよ池間島や沖縄本島でのインタビューに臨みます。そのお話は、次回後編で。