鹿児島と沖縄の間に浮かぶ奄美群島では、平成24年度より島の特産品を育てる取り組みが行われています。今年度で3年目を迎え一定の成果が見えてきたという「奄キャンものづくり事業」とはどんな事業なのか?話を伺いました。
日本全国の離島地域には、海の幸・山の幸などの恵みがある一方、本土地域に比べると消費者の多い都市圏から遠く、商品づくりを行う加工場も多くないことから「特産品づくり」を課題とする地域が数多くあります。
鹿児島と沖縄の間に浮かぶ奄美群島では、そんな課題をクリアするため平成24年度より島の特産品を育てる取り組みが行われています。今年度で3年目を迎え一定の成果が見えてきたという「奄キャンものづくり事業」を担当する奄美群島広域事務組合の林健太郎さんにお話を伺いました。
■奄美の島々でつくられている産品「もっと売れてもよいものはたくさんある」
奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島の有人8島からなる奄美群島では、亜熱帯性気候のもと特色のある野菜、果物、魚介類などがとれ、それらは「そのまま」あるいは「加工」されて島内外に流通しています。
「奄美群島の加工事業者には『生活研究グループ』などの小規模事業者が数え切れないほどあり、それぞれが地元でとれた素材をつかってお菓子などをつくっています」(林さん)。
「生活研究グループ」とは、各集落の婦人会などが中心となり、地元の素材を活かした加工品の製造販売などを行う団体のこと。林さん曰く、地元のお母さんたちがつくる産品は、主に町営の加工場に隣接した販売所や道の駅など、島内で販売されているとのこと。
「生活研究グループがつくる商品は素朴なものが多く、地元産素材を使った安心安全な商品をつくっているので、もっと売れてもよいものはたくさんあります。しかし、多くの事業者さんは、流通販売に必要な専門知識や経験が不足している状況があるので、せっかく良いものをつくっても商品開発や島外への販路拡大に踏む込めないんです」(林さん)。
■事業者が自立するために必要な「家族経営感覚からの脱却」に向けて
島の幸から産品を生み出し、島内外にうまく流通させることは、島の経済に貢献することにつながるため、特産品開発は島の行政にとっても重要な課題。また、事業運営に行政の補助金が活用されている場合は、できるだけ早い段階で自立的な運営できることも求められます。
そこで奄美群島広域事務組合では、平成24年度に『特産品ブラッシュアップ事業』として、「既存の商品をどうやったらブラッシュアップできるか?」をテーマに生活研究グループなどの小規模事業者にヒアリングを実施。すると、「ブラッシュアップ」の前に、まず「家族経営感覚からの脱却」が必要であることが発覚したと林さんは言います。
「地元のお母さんなどが集まる生活研究グループの場合、『原価計算』『価格設定』『パッケージ開発』などの知識が十分でないことが多く、商品の値段もえいやっ!でつけている状態があり、価値のある商品であっても値段の差をつけずにまわりと同じような値段をつけられていました」(林さん)。
良い商品があるのなら、しっかりと流通させたい。そこで、事業者がつくる産品を流通させられるよう、特産品の開発・流通・販売を指導する継続研修をスタート。
「この研修は『農商工連携推進事業』として平成25年度にはじまり、平成26年度からは『奄キャンものづくり事業』と事業名称を変更しながら行っております。ちなみに『奄キャン』とは『奄美キャンパス』略。奄美群島全体を大きなキャンパスと捉え、ものづくりの他にも実験的な取組を行っています」(林さん)。
研修には平成25年からこれまでに20事業者が参加し、流通販売に詳しい講師から「正しい原価計算による適正な価格設定」「パッケージの改善」「適正な販売チャネルの検討」などを学び、商品をブラッシュアップ。研修を受けた事業者がつくった産品のなかには、いくつもの賞を受賞するまでに育ったものもあり、一定の成果が出てきていることを林さんは喜びます。
「着実なステップを踏んでいることは嬉しいです。事業を通して『売れた』から『売った』という風に事業者さんが持つ意識が変わっていけばいいなと思います」(林さん)。
■「売れた」から「売った」へ。次のステップに進むため都市部で販売をしてみたい
そしてこの春、島から生まれる産品がしっかりと育ち、次のステップに進めるよう「奄キャンものづくり事業」ではひとつのイベントを実施するとのこと。
「ちょうど今、ブラッシュアップを図っている商品を都市部の消費者に販売してみて、島外の人がどんな反応をするかを確認するために、今年の3月に東京で産品の販売会を行うことにしました」(林さん)
現在進行形で育ちゆく奄美群島の産品が東京に上陸し、さらなるブラッシュアップを図るというこの企画を離島経済新聞社でもお手伝いするべく、「どのような産品が上陸するのか?」「どんな人々がつくっているのか?」を、連載でお届けしていきます。
次回は、「奄キャンものづくり事業」から生まれた産品や、奄美群島各島の特色ある産品をご紹介します。
(文・離島経済新聞社)