つくろう、島の未来

2025年10月01日 水曜日

つくろう、島の未来

心豊かに生きるすべをシマ(人と人が支え合うコミュニティ)に学ぶ 「シマビト大学」(愛称:シマ大)。第2弾講座では、全国で人口減少が進む中で転入者が転出者を上回る、五島市・福江島を訪ねました。人口減少社会で社会増を実現した地域の背景にあるリアルな空気を、日本各地から集まったメンバーが体感した「たのしいシマのつくり方」合宿の様子をレポートします。

取材・リトケイ編集部 撮影・田中良洋

五島で深める「たのしさ」のひみつ

2025年7月26日、五島列島の南に浮かぶ福江島にシマ大受講メンバーが集合しました。ところ変われば雰囲気も一変するシマ大。奄美大島講座のシマ合宿とはがらりと違った雰囲気で、福江島在住の地元メンバーに、東京・豊岡・佐渡島大崎上島・佐賀・上五島奄美大島などから集ったメンバーで「たのしい「シマのつくり方」を深めていきます。

事前のオンライン講座では、『世界がかわるシマ思考』にも登場するデザイナーの有川智子さんや、地球を6周して五島に辿り着いたニコラスさん、クリエイティブディレクターとして活躍する中村直史さん、五島市の地域おこし協力隊として活動する元リトケイの西田双太さんに、それぞれの取り組みと重ねた 「たのしいシマのつくり方」をレクチャーいただきました。

日本全国で人口減少が進行するなか、移住者の受け入れや新規創業が活発な五島市は、転入者が転出者を上回る「社会増」を叶える稀有な自治体でもあります。そしてどことなく感じるのが、楽しそうな雰囲気。その秘密をシマ合宿ではリアルに感じます。

福江島の風景

「大変」か 「やりがい」か

シマ合宿ではまず、集落の空き家を改修して商店や寺子屋を開く西田商店へ。集落の子どもたちに「ニッシー!」と親しまれる西田さんは、「お店を手伝いたい!」という子どもたちに「いいよいいよ」と、会計を任せてみることも。

西田商店店内
西田商店の入口には「ビールはこの銘柄とサイズがいい」 といった集落住民のニーズがそのまま反映された商品が並んでいました

「計算を間違えるとおじいちゃんおばあちゃんが笑ってくれたりして、寺子屋と商店を通じた世代間交流になっています」という西田さんに、受講メンバーが 「大変なことは?」と尋ねると「大変ってことは、やりがいがあるということ。 大変さよりも、どうやったら楽しくなるかを考えてますね」と回答。なるほど、と受講メンバーの表情が変わりました。

西田商店店主・西田さんと参加者
空き家はあってもなかなか貸してもらえない問題があるなか、西田さんは集落住民の声を聞き、スポーツ大会に参加するなど交流を重ねながら空き家を手に入れたとのこと

次は「アコウハウス」でその物語を伺います。 奥さんの地元である大浜集落で暮らしていたニコラスさんは、ある日、アコウの木を切り倒そうとする工事現場に遭遇。いてもたってもいられなくなり「私が買います!」と解体業者に交渉すると、その社長さんは工事が始まっていたにもかかわらず、ニコラスさんの提案を 「それは良いことだ!」と応援してくれたという、温かな心意気に皆が感動しました。

アコウハウスとアコウの木
樹齢400年というアコウの木が出迎えてくれる「アコウハウス」。今回の受講メンバーはほとんどがアコウハウスに宿泊し、その空気を堪能しました
アコウハウスオーナー・ニコラスさん
ニコラスさんが思う、五島のいいところは「声をかけやすいところ」。そのフレンドリーな雰囲気は、地元のカリフォルニアとも似ているそうです

外に伝わる「デザイン」 と 「姿勢」

「おうとうのいえ」と参加者
学童施設「おうとうのいえ」 を見学する一行。洗練されたデザインの建物が、 集落の雰囲気にすっかり馴染んでいました

一行は本山集落に移動。五島市に移住者が増えたきっかけのひとつ「ソトノマ」を営む桑田さんの案内で、そばにある移住者向け賃貸アパート「本山ヒルズ」 や、 学童施設 「おうとうのいえ」を見学しました。それぞれが違和感なく集落に溶け込む、洗練されたデザインにおどろく受講メンバー。

いずれも長崎市の建築家が手掛けた建物で、「たのしいシマのつくり方」のポイントとして「シマの外にも通用するかをちゃんと考える」と教えてくれた有川さんの言葉を思い出しました。

手づくりブランコで遊ぶ子どもたち
受講メンバーをみつけて「おうとうのいえ」から出てきた子どもたち。「みてみて!」と手づくりのブランコで遊ぶはつらつとした姿にも、島のおおらかさを感じました

最後はソトノマで有川さんと、飛び入り参加してくださった吉田慎太郎さん(福江商店会会長やNPO法人五島空き家マッチング研究所の代表として活躍)を交えた最終講義を行いました。

今でこそにぎわいを感じられる五島市ですが、吉田さんがUターンした22年前は衰退状態だったとのこと。その後、2013年にできたソトノマなど、移住者の窓口として機能するカフェや宿が増え、行政の移住施策も加わり、にぎわいが徐々に生まれてきました。

「五島の人はすごく発信するから、総力戦なんじゃないかな」とふりかえる有川さん。吉田さんも「島の高校生に向けたアンケートで、地元を肯定的に考える子どもたちが増えてきたと実感する」と教えてくれました。

ソトノマでの宴会
温かな空気が充満したソトノマでの宴

近年はテレビや映画の舞台になることも増えた五島市。「島民の肯定感があがってきた」という有川さんに、受講メンバーからは「もともと豊かな島が、積極的な魅力の翻訳とかデザインとかで、価値がつくり続けられているんですね」と納得の声が上がりました。

最後は西田さん、ニコラスさん、中村さんも交わり、五島グルメを囲んで宴を開催!中村さんは「たのしいシマのつくり方」のポイントを「結果より、姿勢」と語り、自身が主催する市民講座「五島よかよか塾」で掲げる「楽しく学び合って、けっしていじわるせず、にぎやかな森をつくる」という「よかよか精神」も教えてくれました。

社会増の背景にあるリアルな空気を身体で感じた受講メンバーとの語り合いは深夜まで続き、五島講座が無事終了しました。

合宿参加者の声

ニコラスさんの生き方は、とても大切な事だと感じました。生活の軸は教育委員会で持ち、アコウハウスでは自分のやりたい事をやる。島で生きていく今のスタイルだと思って共感するところがありました(大崎上島より参加)

大変なことをやりがいと考えて行動するというアドバイスは、今後の人生にとても参考になるものでした(東京都より参加)

島では、海に隔てられた場所で知恵を出し合い、豊かに生きる人がいます。経済合理性だけでは語れない、島ならではの豊かさやコミュニティのあり方。それは、未来をつくるヒントになると思います。シマビト大学は、そんな島の人たちの知恵や生き様を知れる場です(奄美大島より参加)

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