つくろう、島の未来

2025年01月04日 土曜日

つくろう、島の未来

11月14日、 持続可能な未来を“シマ” からつくる参加型カンファレンス 「未来のシマ共創会議」(主催: 未来のシマ共創プロジェクト実行委員会、運営:離島経済新聞社)を初開催しました。

東京ミッドタウン八重洲に足を運んだ参加者とオンラインから参加した約300名が、濃厚な「学び」と「出会い」 を堪能。「フタを開ければ大盛況!」 というリアル会場での1日をリトケイ副編集長のネルソン水嶋がレポートします。

共創の先に描くのはカラフルな 『スイミー』

「未来のシマ共創会議」(以下、シマ会議)の前日、私は沖永良部島を飛び出し東京へ。リトケイ史上最大規模のイベントが行われる会場には、登壇者やスタッフなど関係者が会場に大集合。関係者懇談会で気合いを入れて本番に臨みました。

ある朝、開場時刻から席が埋まり始めたイベントスペースで、鯨本あつこ統括編集長が開会を宣言。4月に出版した書籍『世界がかわるシマ思考一離島に学ぶ、生きるすべ』をきっかけにシマ会議が立ち上がったことを説明すると、「人と人が支え合うコミュニティ」を意味する「シマ」をベースにした「共創」のイメージとして、リトケイを立ち上げて間もない頃に描いたという絵を映し出しました。

それは絵本『スイミー』(※)に似た一場面。ひとりの人間やひとつのシマが小さな魚だとすると、バラバラに泳いでいると大きな魚に食べられてしまう。そこで多種多様なシマが共通した想いでつながれば、カラフルな大魚となって豊かな日本列島をつくれるのだ、と鯨本は語ります。そうしてシマ会議が始まりました。

※『スイミー』作・レオ・レオニ、訳・谷川俊太郎(好学社、1969年)

地域づくりに観客は要らない 濃厚な第1セッションの解

1日を通してトークセッションやワークショップ、交流エリアなどがたのしめるシマ会議。まずは、ひとつ目のトークセッション「理想の共創」へ。哲学者の内山節さん、奄美大島のあまみエフエム放送局長の麓憲吾さん、多良間島観光コンシェルジュの波平雄翔さんが登壇し、鯨本が進行。

離島やへき地のような小規模コミュニティは、人的資源も限られるため他者との連携が欠かせないものの、地域社会と外部からやってくる人とのバランスをどう考えたらよいか、と話が展開していきます。

奄美大島では何百年も続いてきた唄を生業としない生活文化の中のアマチュアリズムのシマ唄が、奄美大島が世界自然遺産になり、観光客が増えることで、対応を迫られ地元の歌い手のプロ化が期待され、だんだん「稼ぎ」になることでの今後の文化伝承に対する懸念を頂いている麓さん。

生活文化として継承されてきたシマ唄が経済に組み込まれることの違和感が語られるなか、波平さんも多良間島の伝統行事が外部要因によって形を変えられてしまった例を挙げました。

スマフシャラというその行事は、と畜した豚を吊るして集落に悪霊が入らないよう祈願するもの。ある来島者がこの行事について保健所に問い合わせたことがきっかけで、制度の壁が立ちはだかり何百年も続いてきた方法を変えざるを得なくなったといいます。

この話を受けて内山さんは、島の「内」と「外」の視点の違いとしてキューバの例を紹介。キューバ音楽に惹かれた欧米人が撮った映画は、地元の人が考える視点とは異なっていたというもので、世界中のどこでも起きていることだと気付かされました。

内山さんは続いて、内と外との連携について、「盆踊りなどの日本の踊りは輪になって先頭も最後尾もいない」「お能には舞手と観客がいるが、観客も能舞台をつくりあげるひとり」と説明。「地域づくりに観客は要らない(全員が参加者となるのが理想)」という言葉はまさに「理想の共創」という問いの答えだと感じました。

住みやすい環境は自分で 「暮らし続けられるシマへ」

続くセッションでは、イタリアの町・メルカテッロと日本の二拠点生活を送る建築家の井口勝文さん、小豆島と愛知県で二拠点生活を送る黒島慶子さん、五島列島・福江島のデザイナー有川智子さんが登壇。男木島の男木島図書館理事長の額賀順子さんの司会で「暮らし続けられるシマへ」をテーマに会話が始まりました。

「理想の共創」ではキューバの話がありましたが、ここでは井口さんがイタリアの事例をたっぷりと紹介。メルカテッロの人口は約1,500人。イタリアで1,000~2,000人規模の町が国の20パーセント (日本では3.4パーセント)を占め、6万人以下の町は70%(日本は11%)を占め、「イタリアは小さな町の集合体であり『シマ思考の国』」だと言います。 

ヨーロッパでは風景と郷土愛に深いつながりを感じるそうで、有川さんが住む福江島でも自然や教会文化を観光資源として大切にしているところに 「共通点がある」 と語られました。

黒島さんが語ったのは「島の女性の二拠点生活」。子どもを育てる上で、夫の地元も自身の地元も大事にしたい黒島さんは、子どもがどちらの小学校にも通えるよう制度をフル活用しているとのこと。

そんな話を受けて「住みやすい環境を整えることが、暮らし続けられる島につながる」と額賀さん。島に暮らすなかで「不便」という言葉を聞かない人はいないと思います。だから「自ら環境を変えていく」。

額賀さん自身も図書館や小学校など、島になかった、あるいは一度なくなってしまったインフラを共創してきた人。男木島には額賀さんたちの取り組みから移住者も増えているらしく、行動に裏打ちされた言葉だと感じました。

トークセッションのアーカイブ動画はリトケイストアで販売しています

3つめのセッションは「防災強者」と「地域間連携」

「海を超える防災ネットワーク」では、鯨本が進行を担当し、東日本大震災の支援に取り組むNPOを前身に、オンライン産直プラットフォーム「ポケットマルシェ」を運営する株式会社雨風太陽の高橋博之さん、全国のこども食堂を支援するむすびえの森谷哲さん、かつて三宅島で全島避難を経験し、現在は火山防災学習ツアーに取り組む平野奈都さんが登壇。

南海トラフ巨大地震の襲来も懸念される中、災害リスクとどう向き合うか。平野さんは、シマ会議の開催にあたってオンラインで実施されていた事前勉強会で、台風常襲地域である徳之島の松岡由紀さんが発した「島の人は防災強者」という言葉を紹介しました。

三宅島の人々は2000年に起きた噴火により全島避難となりました。約4年半後、火山ガスのリスクはゼロにならないものの「島民の7割が帰島を希望した」 したことに、高橋さんが反応。

東日本大震災の後、東北ではリスクゼロを目指し設置された巨大な防潮堤に、常に海を見ながら生きてきた人たちが抱いた抵抗感を挙げ、「快適に過ごすだけなら都会でいい」と話されたことに、「リスクとの共生」を選び、 再び島に集まって地域社会を取り戻した三宅島のしなやかさを感じました。

森谷さんは、熊本地震をきっかけに地元の葛飾区でこども食堂立ち上げを経て、2019年にむすびえに参画。こども食堂は貧困対策だけに思われがちですが、子どもを中心に地域住民が互いを知りながら、炊き出しの訓練も兼ねられるという点では、防災拠点としても重要。

能登地震の復興に携わる高橋さんは「仮設住宅は突貫で建てられたため個室ばかり。皆が集まって食事する場が必要なので、こども食堂は能登にとっても必要」と話す様子が印象的でした。

鯨本は本州の富士山や九州の阿蘇山など、どこでも噴火のリスクがあるため、災害パターンの異なる拠点と日頃からつながり、連携できるとよいのではないかと言及。地震・台風・噴火・豪雨など、災害大国・日本に「絶対に安全」などないからこそ、複数の地域と普段からつながる。その心構えと生活様式は「関係人口」の重要性ともつながる話だと思います。

座間味村長が登場 公民連携の理想とは

途中、 行われた特別セッションでは沖縄から座間味村(座間味島阿嘉島慶留間島)の宮里哲村長がオンラインで登壇。座間味村の庁舎建設に携わった大和リースから沖縄支店支店長の宮下雅行さん、辻大輔さんと共に語ったのは、公民連携の理想について。

そもそも離島は建材の輸送コストが掛かる上、人員確保も難しい。できない尽くしの中、大和リースは、PPP(※)やリース方式(※)を活用しながら補助金活用などの資金調達から設計・施工までワンストップで行うことで、行政の人材不足や財源不足を超える提案をしたそうです。

※PPP……Public Private Partnershipの略。官民が連携して、公共施設やインフラなどの整備・運営を行う考え方
※リース方式……民間が資金調達から公共施設の設計・建設、維持管理などの業務をトータルで行い、そのサービス対価をリース料として受け取る契約の仕組み。初期投資を抑え費用を平準化することができる

完成した庁舎には沖縄出身のイラストレーターpokke104さんと島の子どもたちが共同で描いた絵も。50年以上ある建物ということを念頭に「大人になって帰ってきた彼らの誇りになるように」と未来を見据えてつくられた座間味村の庁舎はまさしく、座間味村と「公の精神」を掲げる大和リースとの理想の共創でした。

ここで私はワークショップの会場へ。残る2つのセッション、デジタル庁統括官の村上敬亮さん、利島村(利島)の荻野了さん、アイランデクスの池田和法さん、ツギノバの大久保昌宏さんによる「働き方と人材確保」と、ゼブラアンドカンパニー共同創業者の田淵良敬さん、海士町(中ノ島)のAMAホールディングス・大野佳祐さん、上甑島の東シナ海の小さな島ブランド株式会社・山下賢太さんによる「持続可能なお金の循環」は「アーカイブ視聴」で楽しもうと思います。

トークセッションのアーカイブ動画はリトケイストアで販売しています

ワークショップ会場では、ちょうど「子育て層がやってくる!」の回が開催されていました。 テーブルごとに「ゆかりの島」を持つ1人の参加者がテーマオーナーとなり、その島の現状や課題をもとに「共創アイデア」を議論。

同じ「子育て」 というテーマでも、「教育の魅力化」や「情報発信の方法」など、語る島が違えばアプローチも違っていておもしろい。あるテーブルでは「このままチームを組んで実行しよう!」と盛り上がっていました。

物販・展示・おすそわけ 島トークあふれる会場を歩く

物販コーナーには井口さんの著作『イタリアの小さな町暮らしと風景』やシマ会議のきっかけとなった『世界がかわるシマ思考一離島に学ぶ、生きるすべ』、鹿児島離島の産品が並び、協賛企業の展示や出展コーナーなどを歩いていると、笑顔だったり真剣な顔つきだったり、参加者の皆さんがさまざまな表情で話す様子が見られました。

会場中央の 「持ち寄り」コーナーには、参加者の皆さんがそれぞれが持ち寄ったお菓子やお酒が、手書きのコメントを添えてずらり。島のお土産品が多く、たくさんの来場者で賑わっていました。

8時間という長時間のインプットを経て、頭はぱんぱん。「未来のシマ共創アワード」の発表も終え、いよいよ残すところはアフターパーティのみ。8時間と長時間にわたるイベントでしたが、100人はいようかというほどの大人数で大盛況!

アフターパーティには、北は奥尻島から南は西表島まで、さまざまな島の食材をアレンジしたメニューが登場。人も料理も、そしてもちろん想いも、島の愛と空気にあふれたアフターパーティでした。

終了の時刻が迫り、 最終セッションに登壇した甑島の山下賢太さんの呼び掛けで「輪」になってウェーブ!これは、セッション「理想の共創」で内山さんが話されていた「盆踊りなど日本の踊りは輪になり、先頭も最後尾もいない」という言葉になぞらったもの。

「次は島で会いましょう!」という声が聞こえるなか、シマ会議は閉幕しました。

リアル会場の様子はこちらの動画でもご覧いただけます。次回もどうぞお楽しみに!

「未来のシマ共創会議」とは?

国内417島・約170市町村 総勢約90万人が生きる、離島地域から世界をかえる実践者が集い、日本が誇る産官学民の叡智と熱量が交わる参加型カンファレンス。 初開催となった今年は『ritokei』 や 『世界がかわるシマ思考一離島に学ぶ、生きるすべ』の登場人物がリアルに集結し、5つのテーマでトークセッションを展開。 その他、ワークショップ 展示・物販・交流ブースなど「学び」と「出会い」 を来場者が楽しみました。

5つのテーマで展開したトークセッションの様子は、動画でご覧いただけます。

トークセッションのアーカイブ動画はリトケイストアで販売しています

「未来のシマ共創会議2024」概要

日時:2024年11月14日(木)10-18時(18-20時アフターパーティ)
場所:東京ミッドタウン八重洲カンファレンス 5階(東京駅直結)+オンライン
参加人数:約300人

【協賛】
大和リース株式会社
株式会社エンデバー
アミタホールディングス株式会社
リファインホールディングス株式会社

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ
AMAホールディングス株式会社
株式会社雨風太陽
一般社団法人ツギノバ

【物品協賛】
株式会社宮古島の雪塩
協賛品:雪塩ふぃなん

農業生産法人株式会社西表島フルーツ
協賛品:ベジパパ、ぴゅあドライパイン

ごと株式会社
協賛品:五島の鯛で出汁をとったなんにでも合うカレー(プレーン)、ごと焼き ごと芋

後藤緋扇貝
協賛品:緋扇貝

株式会社オイシーフーズ
協賛品:浮島ひじき、オイルサーディン、オイルサーディン(トマト&バジル)

有限会社八重泉酒造
協賛品:島うらら

株式会社奄美大島開運酒造
協賛品:れんと、紅さんご

八丈興発株式会社
協賛品:情け嶋、情け嶋・芋、明日葉そうめん

尾畑酒造株式会社
協賛品:真野鶴 純米吟醸 朱鷺と暮らす、かなでる 純米大吟醸おりからみ

干場洋介 (北海道奥尻島)
協賛品:奥尻の水

【協力】
環境省
POTLUCK YAESU
利島村
知名町
アイランデクス

【後援】
国土交通省
内閣府総合海洋政策推進事務局

【主催】
未来のシマ共創プロジェクト実行委員会

【運営】
特定非営利活動法人離島経済新聞社


     

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