2024年5月15日、「スマートアイランド推進プラットフォーム」(事務局:国土交通省国土政策局離島振興課)が開設されました。
「スマートアイランド」は、ICT(情報通信技術)などの新技術を活用して離島地域の課題解決を図る取り組み。産官学の協働を目指して新たに始まったプラットフォームでは、離島の自治体をはじめ、行政機関、民間企業、研究機関などの参加を募集。その背景を解説します。
文・石原みどり 写真提供・国土交通省、佐渡観光PHOTO
1万以上の島が連なる広くて多様な「島国日本」
日本列島には、無人島も含めると1万4千以上の島があることをご存じですか?
国内に人が住む島は約400島あり、そのうち本土と橋でつながらない約300島の「離島」に、約57万人が暮らしています。
古来、日本の島々は、海の向こうからやってくる人や技術、新しい文化を受け入れる玄関口でした。北は北海道の礼文島から南は沖縄県の波照間島まで、それぞれの島に異なる自然と培ってきた歴史があり、多様な文化と人の暮らしがあります。
例えば、島の方言もその一つ。
方言にはその土地で生きるための知恵や価値観が息づいており、与那国島の「与那国語」など離島地域の5つの方言が守るべき「消滅危機言語」としてユネスコ(国連教育科学文化機関)の指定を受けています(※)。
※ユネスコが平成21年2月に発表した“Atlas of the World’s Languages in Danger”(第3版)に「アイヌ語」と離島の7言語が掲載。【重大な危機】八重山語、与那国語【危険】八丈語、奄美語、国頭語、沖縄語、宮古語
日本の島々は、沿岸国が海中資源や海底資源の開発と管理、探査を行うことが認められた「排他的経済水域(EEZ※)」を決める重要な基点にもなっています。
※国連海洋法条約によって定められた、海中資源や海底資源をその国の支配下におくことができる水域。一番潮が引いたときに、海面と陸地が交わる線から200海里(約370キロメートル)。
領海とEEZを合わせた日本の海は約447万平方キロメートル。アメリカ合衆国やオーストラリアなどに続いて世界第6位の大きさを誇ります。
この広い海は、私たちの食卓にのぼる海の幸をもたらし、近年は、海洋エネルギーや、海底に眠る貴重な鉱物資源の源としても注目されています。
世界でも有数の広い海を持ち、豊かな文化が息づく日本の背景には、島々で暮らしを紡いできた人々の存在があります。「島国日本」は小さく狭い島ではなく、海上に連なるたくさんの島が豊かさをもたらしてきた、広くて多様性のある「島国」なのです。
日本の離島は未来を占う「日本の縮図」
海に囲まれ人口規模も小さい離島地域では、さまざまな社会課題が本土よりも早く現れることが多く、日本の未来を占う「日本の縮図」とも呼ばれています。
例えば、離島地域では、日本の総人口が人口減に転じた2008年よりも半世紀早い1950年代頃から人口減少が始まっていました。
過疎化などを背景に、東京都の八丈小島(1969年無人島化)、愛媛県の由利島(1965年無人島化)、鹿児島県の臥蛇島(1970年無人島化)など数十の島で、ロウソクの灯りが次々と消えるように、暮らしの営みが消滅していきました。
そして過疎化は更に進み、全国的に少子高齢化が叫ばれる現在、多くの島々でも急速な人口減少が進んでおり、早急な対策が求められています。
技術の力で島々の課題を解決する「スマートアイランド」
そこでいま、注目したい取り組みの一つが、国土交通省が推進する「スマートアイランド」。
ICT(情報通信技術)をはじめとした新技術を活用して、交通・エネルギー・防災・健康医療など社会に不可欠な各分野の生産性や利便性を高め、島々の暮らしをサポートする試みです。
2020年度より島々での調査事業や実証が進められ、ICT活用による遠隔医療や、ドローンを使った物資輸送の体制構築、自律航行オンデマンド水上タクシーなど、島々の困り事を解決する実証と実現に向けた評価が各地で進められてきました。
参考>>スマートアイランド実証調査事例
「日本の縮図」とも言われる離島地域で、新技術を活用して持続可能な課題解決が実現できれば、その成果を全国的なモデルケースとして活かせる可能性もあり、「スマートアイランド」の行方が注目されています。
近年、国はデジタル田園都市国家構想総合戦略(※1)や第三次国土形成計画(※2)で重要な政策課題として「スマートアイランド」の推進を位置付けました。
※1 デジタル化を通じて地方の課題解決と活性化を目指す構想(2022年12月閣議決定)
※2 「時代の重大な岐路に立つ国土」として、人口減少等の加速による地方の危機、巨大災害リスク、気候危機、国際情勢などの課題への危機感を共有し、総合的かつ長期的な国土づくりの方向性を定めた(2023年7月閣議決定)
令和5年4月に施行された改正離島振興法(※)でも、遠隔医療の導入による医療アクセスの向上、ドローンを活用した物流の改善、教育分野での遠隔教育の普及などが新たに規定されています。
※参考記事
>>知っておきたい島の6法 【特集|島を支える仕組みのキホン】
この流れを後押しするため、国土交通省は産官学の協働を目指す「スマートアイランド推進プラットフォーム」を開設。「スマートアイランド」の推進に意欲的な離島自治体や企業、研究機関などの登録を募集しています。
意欲ある離島自治体や企業、研究機関を募集
「スマートアイランド推進プラットフォーム」の会員登録は無料。
離島自治体、関係府省庁、「スマートアイランド」や離島振興に関連する実績や技術を持つ民間企業、研究機関などが会員として参加できるほか、「スマートアイランド」推進に意欲のある民間企業や研究機関も、オブザーバーとして参加が可能です。
活動内容
・スマートアイランド推進に係る会員間の課題・研究・技術・開発等の情報共有、相互啓発、連携強化
・スマートアイランドの取り組み事例や知見に関する情報発信、展開、普及
・スマートアイランド推進に意欲のある離島自治体と企業等とのマッチング支援
・各府省庁によるスマートアイランド推進に資する活動(補助事業や交付金等の案内等)
・会員間で共通する課題に対する解決策等の深堀り検討に関する活動
・ 会員企業等の技術・サービスに関する情報発信 など
会員登録や詳細については、公式サイトをご確認ください。
>>SMART ISLAND
編集後記
日本最西端の与那国島や、日本海に浮かぶ佐渡島、太平洋を24時間航海した先にある小笠原諸島など、島の大地に身を置くたびに、そこが歴史的にさまざまな人や技術、文化が行き交ってきた場所であることを実感します。たくさんの島が連なる広くて多様性のある「島国」であることが日本の魅力であり、見えない底力につながっているように思います。島々は、いわば日本を支える縁の下の力持ち。その主役は島で暮らす人たちです。「人」を主役に、知恵や技術で島の暮らしをサポートする熱意を持った企業や人が集まる「スマートアイランド推進プラットフォーム」となるよう期待します。
東京在住、2014年より『ritokei』編集・記事執筆。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワーク。鹿児島県酒造組合 奄美支部が認定する「奄美黒糖焼酎語り部」第7号。著書に奄美群島の黒糖焼酎の本『あまみの甘み 奄美の香り』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。ここ数年、徳之島で出会った巨石の線刻画と沖縄・奄美にかつてあった刺青「ハジチ」の文化が気になっている。