中小企業の成長や課題解決をサポートする中小機構では、離島地域の事業者も支援している。中小機構の支援を受けて誕生した島々の新商品&新サービスと、それらを生み出した人々の想いに迫るべく2つの島を訪れた。
儲かる農業をつくりたい!強い想いが生むユニークな商品
本州の広域が大雪に覆われた1月上旬、島根県の大根島(だいこんしま)でユニークな商品が生まれていると聞いて、島に向かった。
この島で生まれた商品を知っておどろいた。パクチーカレーにパクチーチョコレート、パクチーソース。コリアンダー(英語)や香菜(中国語)とも呼ばれるパクチー(タイ語)は、独特の香りが特徴的なセリ科の一年草である。個性的な香りゆえ好みを二分するが、愛好者も多いため都市部にはパクチー専門店さえ存在する。
しかしなぜ、大根島でパクチーなのだろう。火山灰由来の肥沃な土「黒ボク土」で知られる大根島では、古くから雲州人参(高麗人参)や牡丹の栽培が行われてきたというが、まさかパクチーも栽培されていたとは。
島に到着した編集部がパクチー商品を生み出した豊島美紀さんに話を聞くと、そこには島の課題があった。
「今から4年程前の話ですが、大根島は耕作放棄地がすごく増えていたので、この土地に合った作物を栽培できないかと模索していました。そんな時、知り合いから『そんなにあるなら(パクチーを)作ってみたら?』と言われて、つくり始めたのがきっかけなんです」。
豊島肥糧店は肥料や農業資材の販売を中心に、ガソリンスタンドの経営から住宅リフォームに蜂の駆除まで、島の課題や住民ニーズに応えるように商いを広げてきた地元企業。
耕作放棄地解消を見据えたパクチー栽培も、同社の柔軟性とエネルギーを糧にはじまったわけだが、高齢者でも栽培しやすいことや栄養価の高さもポイントとなった。
豊かな土壌が自慢の大根島でのパクチー栽培は順調に進み、パクチー料理専門店に向けた卸販売もすぐに軌道にのった。すると今度は新たな問題が起きる。春と秋に収穫期を迎えるパクチーは、天候具合で「出来過ぎてしまう」のだ。
「捨ててしまうのはもったいないので、加工品にできないかと考えました」(豊島さん)。まずは、強い香りを生かしたカレーを考案し、レトルトカレー「島採れパクチーカレー」が生まれた。
この誕生を機に「もっと大根島を知ってもらいたい」という思いを強めた豊島さんは、そのパッケージデザインに島の地図を入れて販売をスタート。中小機構が主催する相談会に参加した豊島さんは、プロのバイヤーや専門家から味やパッケージだけでなく、商品のストーリーにも高評価を受け自信をつけた。
そして、今度は大根やしいたけを使ったカレーも開発。さらに、中小機構の支援を受けながら事業計画を可視化し、豊島肥糧店から農業部門を独立させるかたちで株式会社ふぁーむ大根島を設立し、代表取締役となった。
ふぁーむ大根島の加工商品はOEM(※)で生産されるため、「一つひとつが高額になってしまう」という課題がある。そこで、豊島さんは販路を土産物屋や雑貨店、高級スーパーなどに絞り、高付加価値商品の開発にも着手。自社の野菜や米を活用したチョコレートを製品化した。
気づけば、耕作放棄地の解消を目指し開発された「島採れパクチーカレー」が起爆剤となり、数々の商品群が生まれていた。
豊島さんは2020年2月には東京で開かれた大型展示会に初出展し、商品を手にした人々から上々の反応を得るが、この直後、新型コロナウイルスの感染拡大により、商談や一部販路への卸販売がストップしてしまう。
「(コロナ禍により)地域外への販路は断たれましたが、地元スーパーなどから自社で生産した野菜への引き合いは続いていたので、地元向けに自社から直販できるように作戦変更しました」。
しなやかな経営判断で、自社倉庫を改装した「島採れマーケット」をオープンさせ、自社の米・野菜・加工品のほか、島のお年寄りがつくった野菜を販売できるスペースを確保。作戦変更は野菜づくりに励む島のお年寄りたちの「生きがい」まで生み出している。
「島採れマーケット」は年中無休。「(この場所を拠点に)観光で訪れる人に、愛する大根島の魅力を伝えられたら」と豊島さんは笑う。
豊島さんの人となりを一言であらわすと「みんなの母ちゃん」なのだが、豊島さん曰く「大根島ではもともと女性が事業の表に立ってきた」らしい。「花売りで栄えた頃から、女性が全国に牡丹の花を売り歩いて、男の人が島に残っていたからでしょう」。
もちろん、女性のほかにも島を支える人はいて、「最近はIターンした方が古民家を改修してゲストハウスをつくったり、サイクリング事業をつくったり。個性的な人たちが集まってきているんです」と聞けば、島で生まれている多様なにぎわいが見えてくる。
豊島さんは「島内の事業者と一緒に、島時間の楽しみ方や周遊プランの造成などの観光サービスも新たに模索していきたい」と話す。
そんな豊島さんには近年、とびきり大きな出来事があった。それは、「島には戻らない」といって進学した息子たちが、大学卒業とともに島に戻ってきたことだ。
「子どもたちが帰ってこないなら商売を縮小してたたんでいく方向になるのかなと考えていました。それがある時、島に帰ってきて『やっぱり継ぐわ』と。なんでそうなったのかは聞かなかったんですが、今は兄弟でキノコをつくる事業をやっています」。
島で生きることを選択した息子たちを前に、豊島さんは「儲かる農業の仕組み」をつくることへの意欲をさらに高めている。
「儲かる農業の仕組みをつくることで、一緒に島で農業をやっていってくれる人を増やして『食べてよし、来て良し、住んでよしの大根島』に貢献していきたいです」。
【お問い合わせ先】
有限会社豊島肥糧店
島根県松江市八束町波入510/0852-76-2643
創業約60年。一次産業から六次産業化や観光事業まで、島の課題や価値に密着し、地域を持続可能にする事業に取り組む。パクチーカレーは各種800円(税別)。調味料やチョコレートも人気
【関連サイト】
株式会社ふぁーむ大根島
中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)中国本部