ニワトリの「トサカ」、生命体の不思議・・・。一風かわった理由から林太郎くんのアート人生は始まり、プロジェクトへとつながっていきます。
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「アートフェスやります!」
イサモト:
島アートプロジェクト始めたきっかけは何ですか?
林太郎くん:
「やろう!」と決めたのが
19歳のときで、その年にあった成人式の壇上で
「アートプロジェクトを甑島でやります!」
と宣言しました。
イサモト:
いきなり?
林太郎くん:
代表としてあいさつしたんです。
成人する18名と両親や来賓の村長さんだとか、
教育委員の人が集まる中で、
「いま巷ではアートプロジェクトがアツいんです」
ともっともらしく語って。
イサモト:
ちまたではアートが流行ってると(笑)
林太郎くん:
ちょうどその頃、廃校を使った展覧会といった、
今までの美術館やギャラリーの “ホワイトキューブ”じゃない場所
でのアートイベントが始まった頃でした。
2003年、越後妻有のトリエンナーレを観にいった時、
美術館じゃなくて畑や民家とかでも作品を
発表することができるんだぁと思いました。
あと当時は美大生が作品を発表できる場所があまりなくて、
コンペに出して通るか、
自分でお金を払ってギャラリーを借りて
展示するかだったんですが、
どちらにしても学生の自分にとっては厳しかったんです。
イサモト:
なるほど。
林太郎くん:
だからみんな、
自分たちでなんかしたいなって気持ちはあって、
同時に、甑島で使われていない空き家が多いとか、
島の人の文化に対する意識を変えたい状況もあって。
イサモト:
変えたい状況?
林太郎くん:
たとえば、僕の集落では神社の手綱が切れたまま、
長い間ほったらかしにされてたりですね・・・。
そういうところを見ると、島に住んでいる人たちの、
日常の中での文化とか風習とかが崩れてきてるんじゃないか
っていう気持ちになって。
イサモト:
ぼろぼろになったままは寂しいですね。
林太郎くん:
はい。人によって差はあると思うんですけど、
僕はもっと甑島の文化を発展させていきたい
という気持ちがありました。
そんないくつかの要素が合わさって
「アートフェスをやろう!」と。
そうして外からたくさん人が来てくれれば、
意識も変わっていくかなと。
イサモト:
島を大切にしているってことが、
目に見えるように現れることっていいなと思います。
林太郎くん:
すごくお金がかかることでもないと思うんですよね。
手綱くらいだったら。
イサモト:
確かに・・・。
「さす」がつなぐ列島と人
林太朗くん:
あと、島でやりたいと思った理由がもうひとつあって。
それは島の特徴でもあるんですけど、
甑島には「さす」が多いんですよ。
一同:
さす?
林太郎くん:
砂が堆積してできた土地のことを「砂州(さす)」
っていうんです。
島だったら、魚が美味しかったり海がきれいだったり、
人がやさしかったり・・・
と言うのは当たり前だと思うんですね。
甑島だけの特徴でいうと、地形なんですよ。
イサモト:
へぇ。知らなかった!
林太郎くん:
下甑に在るは断崖絶壁があって、
そこは地層がむき出しになっているんですけど、
九州山脈から天草、
その延長線上にある甑島は同じ地質なんです。
それつまりは、九州山脈が隆起したときに
甑島もできたってことだと思うんですけど。
イサモト:
へええ。
林太郎くん:
地質学者はみんな知っていると思います。
下甑からは恐竜の骨とかも出たりしてて、
上甑の方には「トンボロ」っていう砂州があります。
(トンボロ画像検索中)
ヤブシタ:
「こしき」って入れて変換したら
「甑」って漢字が出てきた!
林太郎くん:
「甑」って、
せいろ、蒸し器のことなんです。
イサモト:
蒸し器??
林太郎くん:
はい。「甑」で画像検索すると、
昔の蒸し器の画像が出てきたりします。
ヤブシタ:
それがどうして島の名前に?
林太郎くん:
いろんな説があって、
蒸し器のかたちによく似た岩があって、
「甑大明神」っていう細長い岩なんですけど、
それが由来なんじゃないかって言われています。
ヤブシタ:
それぞれの島の由来って、
よくよく考えると面白いですね。
林太郎くん:
(島の画像を見ながら)ここがトンボロです。
日本三大トンボロっていうのがあって、
それは函館と、僕の住んでいた集落と、
和歌山県の串本にあります。
トンボロは島と島の間に波の作用で砂が
堆積してできた土地で平地だから、
人間が住みやすいところでもあって、
島の中で一番最初に人が住み着き始めた場所でもあるんです。
弥生時代の人骨も出て来ているくらいなので。
ヤブシタ:
トンボロがなかったら、
島と島が完全に分離してますね。
林太郎くん:
島と島をつなぐポイントが
トンボロであり、町なんです。
自然がつくりだしたトンボロが、
“つながり”を表しているんじゃないかと。
だからそういう場所で、
人と人をつなぐコミュニケーションや、
ネットワークがつくられていくといいなと思ったんです。
イサモト:
「つながりの場」なんですね。
林太郎くん:
そうです。だからこの島で人と人、
島と人をつなぐようなイベントができないかなと思って、
2004年の成人式に宣言して、
その年の8月にアートプロジェクトを開催したんです。
林太郎くんの密かな思惑
林太郎くん:
このアートプロジェクトは、
ただ作品を展示するだけじゃなくて、
アーティストがそこに滞在して、
島の人たちと関わりを持ちながら作品をつくって、
展示して、そこにいろんな人が観にきてくれるような、
そんな場にしたいと思っていました。
アートのイベントは東京でもできると思います。
でも、いろんな効果を狙うなら、やっぱり島なんですよね。
イサモト:
効果というと?
林太郎くん:
フェスの開催は8月にしようと思ったんですが
それはみんなが来ているときに、
台風が来るといいなと思ったからです。
イサモト:
なんでまた(笑)
林太郎くん:
台風が来ることによって、
みんなに団結してほしくて(笑)
たとえば、恋愛が始まっちゃったり・・・。
一同:
ははは。
林太郎くん:
男が男らしく女の人を守るだとか
そういうのとかいいなって思ったんです。
それもまた、ニワトリが関わってくるんですけど・・・。
イサモト:
また!(笑)
林太郎くん:
そういった、生き物がある状況において
何かしらの効果や影響を及ぼす、
という意味でも面白いんじゃないかと。
そこで人がより生物らしく、より人間らしくなったり。
イサモト:
ある意味で島は、人がより人らしくなる場所だと。
林太郎くん:
台風とか、そういう危機的な状況下じゃないと、
人間の本性って実は出てこないのかな。
イサモト:
甑島で台風に遭遇すると、
出てくるかもしれないと(笑)
林太郎くん:
でも実は、
一番失敗したところがそこで・・・。
台風が当らなくなったんです。
このイベントを始めてから。
イサモト:
それは
ずっと天気に恵まれているということですか?
林太朗くん:
そうなんです。ほんと良くて。
開催する1年前とかは、ほんとにひどい台風で、
山が削れたり、竜巻が走ったり、
木も全部葉っぱがなくなったり、
根こそぎぶっ飛ぶような感じだったのに、
展覧会をはじめてからはパッタリと台風がこなくて・・・。
もちろん島の人からしたら、
台風は来ないほうがいいんですけどね。
一同:
そりゃそうです(笑)
林太郎くん:
展覧会後に、
ちょっとした台風が来たりはしたんですけど、
大被害になるような台風はここ7年はなくて。
それが、 僕としてはかなり大失敗というか。
一同:
ははははは。
イサモト:
ところで、
プロジェクトに参加するアーティストは
東京から連れて行くんですか?
林太郎くん:
そうですね。
イサモト:
どうやって声をかけていくんですか??
林太郎くん:
単純に作品を観て・・・。
イサモト:
ナンパ的な?
林太郎くん:
そうナンパですね(笑)
「これは変わってる『トサカ』だな」みたいな。
イサモト:
またまた!(爆笑)
ヤブシタ:
ずっと追い求めているんですね!
林太郎くん:
そうですね。
僕の中にはずっとあります。
作家の表現そのものがトサカの部分にあたるんです。
その人からなにかにじみ出ているような作品が好きなので、
基本的には単純な作品は選ばないですね。
「なんか変だな・・・」って、引っかかる作品で、
作家さんと話をして「やっぱり変だ!」と思ったら、
甑島に連れて行きます。
大久保:
相手もきっと「この人は変だ」って思ってますよ(笑)
林太郎くん:
思ってると思います(笑)
お互い変なもん同士で反応し合っているので。
イサモト:
つまり林太郎くんの「トサカ探し」という訳ですね(笑)
ヤブシタ:
その「トサカ探し」は、すべて林太郎くんなんですか?
林太郎くん:
僕が全部やっていますね。
副代表をやっている僕の親戚の山下が、京都造形大に行っていたので、
一時期、京都のアーティストを連れて行ったこともありますが、
いまは僕がひとりで探しています。
イサモト:
一番はじめはどういう方を集めたんですか?
林太郎くん:
1年目は、
まわりにいた東京造形大のメンバーがほとんどでしたね。
変わった作品をつくっている人や先輩に声をかけたり。
甑島での最初の交流っていう意味でも、
なるべく出身地もバラバラにしたかったんです。
イサモト:
面白そうですね。
林太郎くん:
大学には日本全国から人が集まって来てたんで、
全国のそれぞれの土地柄がでてほしかったし、
島に滞在している間、島の食べ物がうまいだとか、
醤油が甘い!だとか、方言が自分の地元と似てるとか、
そういうことを発見してもらえたらいいなって思ったんです。
なので全国各地の出身者を15人を集めました。
イサモト:
その人たちが島に滞在するというわけですね。
家族総動員でイベントが始動!
イサモト:
アートプロジェクトをやろうとしても、
実際にひとりで出来るわけもないと思いますが、
仲間を集めたりしたんですか?
林太郎くん:
実はそこらへんのことをはあんまり考えてなくて。
それは僕が島で育ったからっていうも
あるかもしれないんですけど・・・。
島にアーティストを連れて行けば、
絶対親戚が手伝ってくれるなっていうのがあったんですね。
それを、両親はもうわかってましたね。
「こいつ、また甘えてるな」って。
イサモト:
そういうことですか(笑)
林太郎くん:
成人式で「やる!」
と宣言する前に、家族に話をしたんですけど、
その時も大反対をくらってて・・・。
親戚中に迷惑をかけることになるし、
ケガしたりしたらどうするんだって。
親は僕を見ていたのもあって
「アーティストは変なやつがいっぱいだ」と思っていて。
当らずも遠からずって感じなんですけど、
なんか色々とやらかすんじゃないかと思ったみたいで・・・。
イサモト:
確かに・・・。
林太郎くん:
うちは島で建設会社をやっているから、
会社のイメージが崩れるとか、すごく体面的なことも気にしていて。
イサモト:
島だと特にいろいろあるのかもしれない。
林太郎くん:
でも、最終的に「やらせてあげなよ」
って言ってくれたのが、
うちの姉ちゃんで、弟も「やればいいんじゃない?」って。
姉弟はすごく応援してくれて。
ヤブシタ:
やっぱり島にいる若い人は、
何か面白いことをやってほしいって思ってたんじゃないですか?
林太郎くん:
僕らの世代は特に「島で何かやりたい!」
っていうのがありましたね。
うちの父親は団塊の世代なんですが、
その世代とは違うのかもしれないです。
島に戻ることは実家の家業を継ぐということで、そうでない人たちは、
本土から帰って来ること自体に、
ネガティブなイメージがあったみたいです。
僕らの世代は、島を盛り上げていくことを、
すごい面白いことだと思ってやろうとするんですけどね。
ヤブシタ:
林太郎くんたちの若い世代というのは、
島の中で抜け落ちちゃってるってことなんですか?
林太郎くん:
そうですね。やっぱり仕事がないですよね。
探そうと思えば何かしらあるとは思います。
でも、子どもを育てて、高校は外に出して、
下宿させて、学費払ってということは、
経済的に難しい状況かもしれません。
イサモト:
それって、かなりピンチな状況ってことですよね。
一体これから誰が島に戻ってくるんだろうという話で・・・。
林太郎くん:
そうなんですよね・・・。
イサモト:
アートプロジェクトの第1回目はどうでしたか?
林太朗くん:
開催した僕の集落が人口1400人くらいなんですけど、
その中で観に来てくれたのが190人くらいでした。
お盆の時期にも展覧会をやっていたので、帰省客もきてくれたり。
集落の中でも小組合(こぐみあい)ってのがあるんですが、
その小さな範囲でしか生活しない方々がいて、
その人たちは、自分の家の近くにある作品は観てたりするんですけど、
ちょっと離れたところにある作品をわざわざ観に行くってことが、
習慣としてないんですよね。
ヤブシタ:
展覧会はどれぐらいの範囲の中でやってたんですか?)
林太郎くん:
第1回目はトンボロにある集落全体でやったんですけど、
違う集落には行かなかったり、世界がかなり狭いんですよね。
ヤブシタ:
島民の方の移動は?
林太郎くん:
じいちゃんばあちゃんはほとんど歩きになりますね。
車持ってる人も、特に目的がないと動かないですね。
自分の家と畑とお墓、ときどき温泉行くかスーパー行くかくらいで。
だから展覧会をやることで、いろんな人がぐるぐる回るような、
人を動かせる仕掛けをつくりたかったんですが、
1年目は「やっぱり来ないか・・・」っていう感じでしたね。
イサモト:
PRはどんなことを?
林太郎くん:
作家自身が配れる分のDMと、
本土側のJRの駅にポスターを貼ってもらったり。
役所とか港のできる範囲でポスター貼って、
チラシをまく感じでしたね。
イサモト:
スタッフも親戚にお願いして?
林太郎くん:
そうですね。 基本的に運営自体も、
アーティストが主体になってやって。
サポートとして車を親戚が出したり、会社の車を搬出に使ったり。
ヤブシタ:
林太郎くんのかつての同級生だった
18人の人たちっていうのは、もちろん島にはいないわけなんですよね?
林太郎くん:
いないです、いないです。
ヤブシタ:
みんな出て行ってるわけですもんね。手伝ってもらえないのか。
林太郎くん:
もらえないです。
ただ、当時はみんな学生だったんで、帰省しているタイミングで、
「ちょっと手伝って」って声をかけて、少し手伝ってもらいましたね。
イサモト:
成人式のときに聞いていたわけだから、
「ほんとにやってる!」って(笑)
林太郎くん:
「またなんかやってる!」
「またサッカーもせずなんかやってる」
イサモト:
「またトサカつくってる!」って(笑)
一同:
ははははは。
林太郎くん:
いま考えると、いわゆるKYというか、
自己中なやつだって思われてたんじゃないかな。
ヤブシタ:
でもそういう人がいないと、何も変わらないのかも。