宮古島(みやこじま|沖縄県)で産官学が連携し、在来のヤムイモ(ダイジョ)を地域に合った商品作物として活用する取り組みが進んでいる。この流れを受け、ヤムイモの本格焼酎「ずみ」が誕生した。(写真提供:東京農業大学 宮古亜熱帯農場)
病害虫に強く台風などの自然災害にも耐えうる食材であるヤムイモ(※)は、宮古島では古くから食用とされてきた。
ヤムイモ……ヤマノイモ科のヤマノイモ属の食用種の総称、ナガイモやジネンジョもその仲間。古くからアフリカ大陸やアメリカ大陸、アジア地域で食用とされ、日本では東南アジア起源のダイジョが沖縄地方や奄美地方などで栽培されてきた。
ヤムイモの収穫時期は12月下旬から2月頃にかけてと長く、沖縄全土でも日常の食材としてチャンプルー(炒め料理)や煮物などの料理に使われ、沖縄本島中部以北では「ヤマイモスーブ(勝負)」と呼ばれる芋の大きさを競い合う大会も各地で行われている。
ヤムイモを商品作物に。産官学が連携
宮古島には1986年に開設された東京農業大学の実習農場がある。同農場では、2003年より熱帯地方で食用として広く利用されているヤムイモを研究題材とし、品種特性、栽培技術、高付加価値化に関する試験栽培を実施。
これまでに100種類以上のヤムイモの遺伝資源から、収量が多い品種や、機械による収穫に適した形状の品種を選別してきた。
ヤムイモの収穫を控えた東京農大の実習農場。風除けにソルガム(モロコシ)が植えられ、地下ダムの水をくみ上げ貯水したタンクから各ほ場に灌漑水が行き渡る
2013年、宮古島に向く作物の選択や加工品開発、販路拡大を目的に、宮古島市、東京農大、宮古島で果樹園を営む宮古観光開発株式会社、島内でホテルやゴルフ場を営む東急電鉄の4者が産官学連携協定を締結した。
この一環で4者は、東京農大が研究を重ねたヤムイモ品種を宮古観光開発が所有する農場で試験栽培し、商品作物としての活用を検討。
まさひろ酒造(沖縄県糸満市)に製造を委託し、宮古島産のヤムイモを使った本格焼酎を開発。2017年11月に「ずみ」を発売した。
形が丸く機械収穫がしやすいヤムイモ品種と、在来のヤムイモ両方を使用した本格焼酎
銘柄の「ずみ」は宮古島の方言で「最高」を表す。泡盛と同じ黒麹(くろこうじ)菌を使い発酵させた米麹に、蒸したヤム芋を加えて二次発酵させ、ヤムイモの風味とすっきりとした味わいが特徴だ。
アルコール度数は30度、価格は720ミリリットル入り2,600円(税込価格)で、2017年の焼酎製造は年間2千本。島内の宮古島東急ホテル&リゾーツと、まいぱり宮古島熱帯果樹園で限定販売されている。
地域に合った農産物で地域振興を目指す
この産官学連携では、今後、ヤムイモの生産拡大を図り、島内の生産者に普及させると共に、お菓子やお好み焼き粉、お弁当の具材などに活用できるよう、フリーズドライ加工やペースト加工を検討。ヤムイモの新たな需要創出を目指すという。
東京農大の菊野日出彦准教授は「地域に合った農産物を栽培、加工しマーケットまで届ける流れを構築し、農業による地域振興につなげていきたい」と話す。
菊野准教授によると、東京農大では奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)の喜界島(きかいじま|鹿児島県)とも連携協定を結び、徳之島(とくのしま|鹿児島県)でも同様の研究が進んでいるという。離島地域の食料自給と特産品づくりに向け、各地での取り組みに期待がかかる。