三宅島(みやけじま|東京都)の自然観光の拠点である「三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館」が今年、開館20周年を迎えました。記念に開催されたバードウォッチングツアーと、シンポジウムのレポートを2回に分けてお届けします。
こつこつと続け、確実に形にする
ダイナミックな火山景観、ここでしか見られない野鳥、黒潮が育むさまざまな海の生き物。三宅島のユニークで豊かな自然を守り、より多くの人に知ってもらおう。その思いのもと1993年、三宅村の自然観察施設「三宅島自然ふれあいセンター・アカコッコ館」はオープンしました。公益財団法人 日本野鳥の会が運営を担い、同会のレンジャーが常駐。三宅島の自然と人をつなぐ、さまざまな活動を展開しています。
2013年5月11日、アカコッコ館の開館20周年を記念したイベントが、同館で開催されました。島内外から100名以上が参加する中、日本野鳥の会会長・柳生博さんの講演や、アカコッコ館歴代チーフレンジャーによる活動の振り返り、島の観光関係者も交えたディスカッションなど、もりだくさんのプログラムが行われました。
三宅島には、観光資源となる豊かな自然があふれています。その魅力を伝え、さらに理解を深めてもらう役割を担うアカコッコ館。しかし、その20年のあゆみには、離島ならではのさまざまな苦労もあったようです。
1つは、マンパワーの少なさ。スタッフはレンジャー2名ほか数名。内地の自然関係の施設では、活動を支える比較的大きなサポーター組織があったりしますが、人口約2800人、うち約4割が65歳以上の高齢者という小さな島では、その規模も大きなものは望めません。
そのハンデを克服するため、アカコッコ館が実践してきたのは「一歩一歩着実に」のスピリットです。まずは、島の人たちに三宅島の野鳥に関心をもってもらうため、観察会や学校への出前授業を実施。次に、野鳥や自然による観光を盛り上げるため、春のバードアイランドフェスティバル、大路池の森をPRするさえずりの小径キャンペーン、絶滅危惧種の海鳥を漁船で見に行くカンムリウミスズメツアーなど、観光プログラムを充実させていきました。これにより、「野鳥の島」としてのイメージが、徐々に島内外にも広がっていきました。
2006年には、島の自然を案内する村民自然ガイドの育成をスタート。ここで勉強や研修を重ねた受講生たちは現在、三宅島のエコツアーの担い手として、活躍し始めています。
もう1つの苦労は、2000年に起きた噴火です。大量の火山ガスが放出され、全島民が島の外へ避難。アカコッコ館も、約5年にわたり休館を余儀なくされました。当時チーフレンジャーだった山本裕さんによると、避難中も10回ほど島に行き、野鳥や植物への噴火の影響を調査。帰島後の復興計画づくりを進めていたそうです。
「それと、アカコッコ館は島民のネットワークの維持にも尽力しました。全島避難では、島のお年寄りたちがいきなり都会に住むことになり、ICカードの使い方が分からず電車に乗れない、ご近所さんとも離ればなれ、そんな事態が起きていました。そこで、とにかく島の人同士が会って話せる機会を作ろうと、竹芝桟橋での島民集会を企画したりもしました」。
島のみんなでアカコッコを守るプロジェクト
アカコッコ館では、2008年から「アカコッコ・プロジェクト」をスタートさせています。これは、国の天然記念物で、三宅村の鳥にも指定されるアカコッコを島のみんなで守り、少しでも数を増やしていこうというプロジェクト。アカコッコはかつて、島のいたるところで見られる鳥でしたが、ネズミ駆除のために導入されたイタチや、餌場となる畑の減少などの影響で、その数を大きく減らしてしまいました。
最初のステップは現状把握。2008~2010年、島内のボランティア約30名とレンジャーが一緒に、アカコッコの生息数を調査しました。早朝に島内を歩き、聞こえてきたアカコッコのさえずりを記録するという地道な調査を続けた結果、三宅島には現在、約4400羽のアカコッコがいることが判明しました。
2011年からは、アカコッコが好む自然環境についても調査。そして2013年、アカコッコが生きていくのに必要な土地の面積を知るため、足環調査がスタートしました。これは、1年かけて約100羽のアカコッコに色の異なる足環をつけて放し、そのアカコッコを目撃したら、その場所と足環の色を島民に通報してもらうというもの。これで、1羽のアカコッコがどのくらいの行動範囲の中で暮らしているかがわかるはずです。
なんともアナログな、本当に地道な活動です。
アカコッコ館の現チーフレンジャー江崎逸郎さんはおっしゃいます。「アカコッコ館が目指すのは、三宅島の素晴らしい自然を守り、そして観光に活かす三宅島型エコツーリズムの確立です。それは一朝一夕にできることではなく、やはり時間がかかります。一過性のブームではなく、いいものをきちんと残すため、1つ1つ確実に進めていきたいと考えています」
開設から20年を迎えたアカコッコ館。そこには、三宅島の自然が大好きな人たちの、熱い熱い思いが受け継がれています。