つくろう、島の未来

2024年12月14日 土曜日

つくろう、島の未来

140島近くの有人離島がある瀬戸内海だが、本土と架橋されない全部離島(※)自治体は大崎上島町、愛媛県の上島町、香川県の小豆島町、土庄町、直島町の5町のみ。大崎上島町のほか、高校のある島は上島町の弓削高校と弓削商船高専、小豆島町および土庄町の小豆島中央高校の3校
※すべての地域が離島からなる市町村

今年4月、大崎上島に新しい学校が誕生した。島には小学校3校、中学校1校のほか、明治時代に設立した国立広島商船高等専門学校(以下、広島商船)と、高校魅力化プロジェクト等で話題を呼ぶ広島県立大崎海星高等学校(以下、海星高校)がある。
そんな島に開校した新たな学び舎は、国際化する社会の中で活躍する人材を育むことを目標にした全寮制・中高一貫校。小さな島とは思えないほど多彩な教育環境が揃いつつある。
古くより海運業で栄えた島にはかつて20カ所を超える造船所があったが、今では3カ所まで減少。産業衰退は人口流出を招き、歯止めがかからない人口減少が、島の未来に影を落としていた。ところが今、人口8,000人弱の大崎上島は「教育」によって島の未来を切り拓こうとしている。その現場を覗いた。

取材・ritokei編集部

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

高校存続の危機から転じて生徒自ら主体的に学ぶ学校へ

インターネットで「大崎上島」「海
星高校」と検索すると、学校ホー
ムページのほか、同校が2016年
より取り組む「高校魅力化プロジェ
クト」の関連ページがずらりと並
ぶ。なかでも現役高校生が学校
を広報するSNSページ「大崎海
星高校みりょくゆうびん局」には、
島や学校の魅力が瑞々しい言葉
で投稿され、そのはつらつとした
姿を垣間見ることができる。

海星高校の生徒が自主運営する「みりょくゆうびん局」の活動風景

そんな海星高校だが、わずか
数年前は統廃合の危機に瀕して
いた。2014年に広島県教育委員
会が、県内の小規模校に対し、2017、2018年と連続して全校生徒数が80人を下回った場合、統廃合等を含めた措置を検討する方針を示したのだ。

大崎上島出身で、島で私塾を営む取釜さんは、その当時「事実が飲み込めなかった」と話す。突然ふりかかった地元公立高校の統廃合の危機に焦りを感じながら、学校関係者や町と協議を重ね、島根県の隠岐島前高校をモデルとした「高校魅力化プロジェクト」をスタート。自ら魅力化推進コーディネーターとなり、活動を続けてきた。

株式会社しまのみらい代表取締役 取釜宏行さん

それから5年、海星高校の生徒数は100人を超え、見事V字回復を果たした。生徒たちは一般的な学習に加え、総合学習「大崎上島学」で、自ら進路を展望し、仲間とともに志を実現するために必要なプレゼンテーションやチームビルディングなどを学習。校内に開設される公営塾「神峰学舎(かんのみねがくしゃ)」で進路実現に向けた自立学習や個別指導を受けるなど、充実した学びを得ている。

標高452.6メートルの神峰山からは瀬戸内海の多島美を眺望できる

同校の中原健次校長は「学校や地域の課題を解決するというプログラムを重ねることで、社会でも通用する力が身につきます」と自信をみせる。

広島県立大崎海星高等学校 中原健次校長

前述の「みりょくゆうびん局」も生徒から発案されたプロジェクトだった。島内唯一の普通科高校がなくなれば、大崎上島という島の未来も危うくなる。そのことを課題と見据えた生徒たちは、広報活動という手段で高校魅力化を後押しし始めたのだ。

「壁だらけ」を超えた島内の「関係性の強さ」

V字回復といっても、言うは易し。その歩みを振り返るふたりは「壁だらけ」と苦笑いを浮かべる一方、島内の「関係者間の強さ」が壁を越える力になったと話す。「壁はなんぼでもありますが、壁を乗り越えるための関係者間の距離は近いです。高校の寮もできたばかりで問題も多いですが、問題が起きたら関係者がパッと集まり、スピーディーに解決する。問題解決の速さはどこにも負けないと思います」(取釜さん)。

海星高校では、高校と地域の協働が高校生の未来と地域の未来を切り拓くという考えのもと、東北芸術工科大学が開催する「SCHシンポジウム(※)」の西日本版を立ち上げ、8月下旬に先進事例地域を招くSCHシンポジウム西日本を開催した。このシンポジウムも生徒たちの発案。東北芸術工科大学の同シンポジウムに参加した生徒らが、西日本版の開催を熱望し、実現に至ったという。

※SCH(スーパー・コミュニティ・ハイスクール)シンポジウム。地域教育の先進的な取り組みをしている高校・自治体・民間団体が一堂に会し意見交換をする2日間のプログラム

生徒たちの主体性に目を見張るばかりだが、中原校長曰く「最初は大人がつくった原稿を棒読み」。
しかし、同校で島や学校の課題と向き合い続ける生徒たちは、みるみるうちに力をつけ、大勢の前でプレゼンテーションを行えるまでに成長する。そんな彼らにとっては、あらゆる壁に立ち向かい続ける身近な大人の背中も、手本となっているはずだ。
記事後編に続く)

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