神戸大学、東京大学、海洋研究開発機構で構成される研究チームが、小笠原諸島の西之島周辺で火山活動を自動観測するモニタリングシステムの試験運用を成功させた。将来的な継続運用へ期待がかかる。
離島の火山活動を自動観測するモニタリングシステム
神戸大学と東京大学、海洋研究開発機構でつくる研究チームが2016年10月下旬、小笠原諸島の西之島周辺で、離島の火山活動を自動観測する新しいモニタリングシステムの試験運用を成功させた。
神戸大学准教授の杉岡裕子さんは同チームの一員で、潮力を利用して自律的に動く船型の「ウェーブグライダー」にカメラや地震・空振観測装置、津波を検知するGPS波浪計などを搭載する観測システムを開発。10月20日〜21日にかけて、同島の周辺海域で約5キロメートル半径の円軌道で運航したところ、正常に作動した。リアルタイム観測の実現のために、同島周辺から1,000キロメートル以上離れたサーバーに衛星通信で測定データを送ることにも成功。
観測機器を搭載し、衛星通信機能を備えたウェーブグライダー
西之島では2013年から約2年間噴火が続き、気象庁が発表した「西之島の火山活動解説資料(2016年6月)」によると総面積は2.68平方キロメートルに広がった。現在は火山活動は低下しているとみられる。
これまで同島の観測方法は、主に航空機からの目視や人工衛星を通じたものだった。原則的にエネルギー補給が不要なウェーブグライダーによるモニタリングシステムが実現すれば、継続的な離島の火山活動の観測により、より早く確実な地震・津波警報にもつながる。
機動力を生かした広域連続モニタリングを
「常に成功させたいという思いを持って、研究開発に取り組んでいる。今回の試験観測で、将来的な長期運用への道筋を立てることができた」と話す杉岡さん。平成22年2月のチリ地震津波時には、海底電磁力計によって初めて微小な津波の捕捉に成功。これをきっかけに、海水の電磁誘導の原理に基づいた従来よりも精度の高い津波計「ベクトル津波計」を開発した。
平成24年には東北沖で、ベクトル津波計を利用したリアルタイムの観測データをウェーブグライダーに送る試験に成功していた。東北沖の試験ではデータ通信の中継点でしかなかったウェーブグライダーは、西之島の試験では観測装置として活躍。今後の課題には、モニタリングシステム全体の省電力化や通信の速度や安定性向上などが挙げられている。
海底火山の活動により生じた火山島・西之島
杉岡さんは「少しずつ前進していることを実感するとき、やりがいを感じる」として、「日本周辺には、西之島のように海面から現れる海洋島火山のほか他に、海面下に潜む海底火山が無数に存在している。全体を把握するのは難しいが、ウェーブグライダーの機動力を生かした広域連続モニタリングを行っていきたい。特に、神戸大学海洋底探査センターで推進している鬼界巨大海底カルデラ観測でも活用できれば」と意気込む。
西之島には上陸していないが、2015年2月に島の中心4kmまで接近したときは噴火の最盛期だった。地球内部の活動の出現に感動した一方で、これが(地球内部の活動の)ほんの一部にしか過ぎないことを思い、脅威も感じたという。
「海底火山に興味があり、世界の海洋には海底地震計、ハイドロフォンが多数常設されている。それらのデータ解析によって、地球内部のエネルギーの出口である海底火山や海洋島火山の活動を知りたい」(杉岡さん)