広島県尾道市の百島(ももしま)で昨年12月、ドクターヘリなどの離着陸に利用する「百島ヘリポート」が完成した。
これまで百島から島外へ出る手段は船しかなく、桟橋も1つしかなかったため、桟橋が使えなかったり大災害が発生した場合には、孤立する可能性が高かった。このヘリポートの完成によって、万が一の際の救護活動や物資供給が迅速に行える目処が立つため、島の住民に安堵の色が広がった。
ヘリポートの着陸点は20m四方の大きさで、その周辺約3mに芝を張り景観にも配慮した。芝張りは島内の小中学生と、島の住民らでつくる自主防災会の会員らが手がけ、尾道市は着陸点の地盤の強化と、コンクリート舗装を施した。着陸点に伸びる通路には、現代美術作家・柳 幸典氏と恊働者たちが島を拠点に活動する「ART BASE MOMOSHIMA(アートベースモモシマ)」による「百島」のロゴを配置している。
今回のヘリポートの着工・完成には、自主防災会の尽力があった。耕作放棄地だった着陸点周辺の地権者との交渉や、木の伐採や除草を行うなどしてヘリポートとして使えるまでに整備した。この取り組みは総務省消防庁の「第19回防災まちづくり大賞」を受賞するなど評価を受け、やがて尾道市の協力も促すことになるが、その動機にあるのは島人らが抱く島への思いだった。
2012年に同会を立ち上げたのは、事務局長の赤松嗣美(あかまつ・つぐみ)さん。百島出身で、島外へ出たがリタイア後に島に戻り生活をしていた。しかし東日本大震災の発生後、南海トラフ地震の被害が想定されると、高齢化が進んだ島の住民の多くは避難への意欲が低く、諦めていることが分かった。赤松さんは近隣の住民によるサポートが必要だと決意し、民生委員の仲間3人と自主防災会を立ち上げ、島内の3町内会との協力体制を構築。各地区の防災委員は約100人になり、頭よりも体で行動を覚えるように、避難訓練も定期的に開催してきた。
「火災時には島内の消防団と協力して、被害を最小限に抑えるため、初期消火に対応できるように、ホースの扱い方を覚える予定です」と今後に触れる赤松さん。自分たちでできることに取り組む姿勢は、確かに島の住民の間に広がっている。
尾道市総務課の新宅正章(しんたく・まさあき)さんは「自主防災会にはリーダーシップのある人物が揃う一方で、高齢化も進んでいます。ヘリポートを利用した訓練や管理などハード面の整備だけでなく、後継者の育成にも行政がサポートしていければ」と話す。