伊豆諸島(いずしょとう|東京都)に属する火山島の八丈島(はちじょうじま|東京都)では、国内離島で唯一初の地熱発電所が1999年より稼動し、島の暮らしを支えるベース電源として利用されてきた。地熱発電拡大と地熱活用による地域活性化を目指す八丈町は、2016年に発電事業者を公募。発電量を増やした新たな地熱発電所を2022年度から稼働させる計画が進んでいる。
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八丈富士の噴火跡を今に伝える溶岩台地、南原千畳岩
地熱資源の更なる活用、地熱による地域振興を目的に、八丈町は2016年に発電事業者を公募。選考の結果、オリックス株式会社が発電事業者に選定された。
提案では、同社が調達した資金で4,444キロワットの地熱発電所を新設し、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(FIT法)」に基づく「固定価格買取制度(※)」を利用して東京電力へ売電する計画。地熱発電所でつくられた電気は、東京電力の送電線を利用して島内各戸に送られるという。
※再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱)を用いて発電された電気を、国が定める割高な価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付ける制度。買い取り費用は消費者が電気料金の一部として負担する「再生可能エネルギー賦課金」によってまかなわれる
町の公募要項によると、地熱発電を行う事業期間はFIT法による電力調達期間が満了するまでの15年間を想定。法に基づく電気の買取り義務や価格の規制がなくなる16年目以降については、選定事業者と町、一般電気事業者(東京電力)が協議の上、事業を延長することが可能だという。
また、町は事業者選定にあたり、地熱発電事業を地域とともに発展させていくため、地域の意見を広く吸収し、反映させていく仕組みを構築するよう条件を付した。
地熱活用による地域貢献への期待
発電事業者の選定条件には「臭気対策」や「地域貢献」も課題に挙げられていた。
八丈町企画財政課の担当者は「現状の発電所でも脱硫装置を設置して対策をしていますが、風向きなどによって近隣の集落に臭いが流れてしまうことがありました」と語る。オリックスの提案には、臭いの元になる硫化水素を排出しない全量地下還元システムの導入も含まれている。
また、「地域貢献」において町は、発電に伴う排熱の利活用などを視野に入れている。
「発電所が完成してから新たな機能を持たせるのは難しくなるため、企画提案書の段階で熱を取り出せる設計にし、どの位の熱エネルギーが利用可能なのかの試算も提案に盛り込んでいただきました」(八丈町担当者)。
排熱の利活用方法など、事業に伴う地域振興は、地域、オリックスとも話し合いながら検討が進められるという。
地熱発電所のある三原山から八丈富士方面を望む
4月中旬の地域住民へ向けた説明会で、オリックスの担当者から新しい地熱発電所の概要や、災害時などの電源にも利用可能な蓄電池の設置などの地域貢献について説明があった。
同社と住民の初顔合わせとなった説明会の場では、建設規模が大きくなることから自然環境や生活環境への影響を心配する声や、「発電に必要な水は確保できるのか」「蓄電池をどこに設置するのか」などの質問が挙がるとともに、「自然エネルギー活用の先進地として島への視察が増えるのでは」「臭いがなくなるのなら賛成」「時間をかけて地域に馴染んでほしい」など、期待する声も聞かれたという。
「地元の声を聞きながら、より良い形で地熱を活用できるよう、話し合いの場をつくっていきたいと思います」(八丈町担当者)。
八丈島の取り組みが、地域特有の自然条件を活かしたエネルギー自給と活性化のモデルケースとなるよう、期待がかかる。