つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

地域の課題を解決するための事業を考えるワークショップ「しごとをつくる合宿」(共同企画:新島村商工会・株式会社シゴトヒト)が10月13〜16日に東京都新島村で開催されました。同ワークショップに参加した秋枝ソーデー由美さんによるレポートです。

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情報を集めたら、ひたすらグループワーク。話し合いは連日深夜まで及んだ(©日本仕事百貨)

全国から集結した参加者が島の課題とガチンコ勝負

人口減少、少子高齢化、定住化対策など、多くの地域がさまざまな課題と格闘しています。けれど、もしかするとほとんどの課題は、「しごとをつくる」ことで解決できるのではないか……?

そんな発想のもと開催されたワークショップ「しごとをつくる合宿」(以下、合宿)は、新島村商工会と求人サイト「日本仕事百貨」が共同企画したもので、全国から集まった参加者が現地に滞在し、フィールドワークを通じて新事業を提案するという試みです。

新島と式根島は、東京から気軽に行ける観光の島として根強い人気がありますが、一方で伊豆諸島のなかでも特に高齢化が進む地域として知られ、社会を担う若手の不足や後継者問題、閑散期の観光対策など、多くの切実な問題を抱えています。

合宿ではそのなかから「コーガ石の空き家を流通させるしくみを考える」、「食と酒で島を盛り上げる」、「式根島の観光に関する課題」という3つの課題でワークショップを展開。参加者は3つのグループに分かれて各自の経験やスキルを持ち寄り、あらゆる角度から課題を検証しながら事業化の可能性を探っていきます。

参加したのは大学生や会社員、観光ガイド、銀行マン、テレビディレクター、児童館勤務など、年齢も職業も居住地も異なる20〜50代のメンバー24名。

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島の景色を眺めながら、ヒアリングやフィールドワークに駆け回る(©日本仕事百貨)

初めて新島を訪れた人もいれば、生まれも育ちも地元という島の住民もいて、島に関する知識量もバラバラです。このバラエティ豊かな参加者に加え、こだわり物件を専門に扱う不動産情報サイト「東京R不動産」の林厚見さん、ブルーボトルコーヒーの仕掛け人・石渡康嗣さん、丹念な取材をもとにした求人記事で人気の「日本仕事百貨」のナカムラケンタさんが各グループに同行。起業家であり、新島村をこよなく愛するリピーターでもある3人がファシリテーターとなり、事業計画作成のためのアドバイスを行いました。

1日目の早朝に東京を出発した参加者は、昼前に新島、式根島に到着。午後から現地インタビューやフィールドワークを実施し、入手した情報をもとに課題解決の糸口となるキーワードを洗い出します。

その上で課題解決のためにどんな手法が考えられるか、事業の方向性について参加者全員の前でプレゼンテーションを実施。批評を受けてさらなるヒアリングとワークを重ね、再びプレゼンするというプロセスを繰り返します。そして3日目の夜には集大成として、村長や村議会議員、地域住民をオーディエンスに迎えた最終プレゼンテーションが行われました。

4日間の合宿が生み出した小さな波

最終プレゼンテーションでは、以下3つの事業が提案されました。

1)島内外の人が交流できる拠点をつくり、空き家をマッチング
2)クラフトビールやコーヒーなどの新島ブランドづくり
3)観光客自ら食材を集め調理する島キッチンの開設

いずれも経営プランや資金調達法まで考えられた具体策でしたが、当然ながら島外からの参加者が4日間のワークショップを行っただけで、島の難問をズバッと解決できるわけではありません。

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3日目の夜には村長や地域住民の前で8分間のプレゼンが行われた(©日本仕事百貨)

重要なのは、合宿を通じて参加者と島の住民の間に濃密な対話が生まれた、という点にあります。参加者は島の住民と積極的に会話したり酒を酌み交わすうちに島に愛着を感じるようになり、与えられた課題ではなく自分の問題として真剣に考えるようになっていきました。「大好きな島にもっと深く関わりたい」という参加者の思いと「島を好きになってもらいたい」という島の住民の思いが交わり、ポジティブなエネルギーを生み出したことが最大の成果といえます。

参加者の1人である加藤房秀さんは「今後につながる提案に関われた達成感や充実感は大きく、これからも新島に関わり続けたいという思いが強くなった」といいます。合宿を主催した日本仕事百貨のナカムラケンタさんも「一般的な観光と違って、合宿では訪れた側も受け入れ側も互いが顔の見える関係になれた。関わった人たちが新島ファンになったという意味で意義は大きかった」と語りました。

プレゼンを聞いた島の住民の意見はさまざまで、「本気で事業をやる気なのか」と懐疑的な意見がある一方で、「大切なのはこの後、どう流れを止めずにいられるか。できることは協力していきたい」と好意的な意見もありました。

さらに青沼邦和村長が「大変おもしろい提案だと感じた。そのまま実行するのは難しいが、行政と連携できる部分はあると思う」とコメントすると、「連携の仕事をやらせてもらえないだろうか」と直談判する参加者や、「村営施設や空き家バンクなどをあわせてNPOにして、村から業務委託できるんじゃないか」と島側からの提案も見られるなど、熱気あふれる討論は夜遅くまで続きました。

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懇親会では青沼村長(左)の意見を聞こうと参加者が詰め寄る場面も

「島外から移住して創業したいという人は過去にもいましたが、拠点確保などのハードルが越えられず断念してしまうのが現状。島で仕事を創出するにはまず島全体に働きかけて、創業しやすい流れをつくる必要があるという思いから合宿を企画しましたが、予想以上の手ごたえを感じています。提案された事業は実現に向け、商工会も支援していきたい」というのは、合宿の仕掛人である新島村商工会の下井勝博さん。2017年には事業計画の精度を高める強化合宿や、メンバーを刷新したワークショップも計画されているといいます。

4日間の合宿から生まれた小さな波が、島にどのような風を吹きこむのか、新島村の今後に注目が集まりそうです。


【関連サイト】
「しごとをつくる合宿」フェイスブックページ(プレゼン動画あり)
日本仕事百貨「しごとをつくる合宿」特集ページ

     

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