久米島では2000年より深海から汲み上げる海洋深層水を、水産業、農業、特産品開発などに活用し、産業活性化を図っている。海洋温度差発電の実証実験も進められ、研究成果に期待がかかる。
海洋深層水を活用し、関連産業で年間20億円超を売り上げる
沖縄県の久米島では、2000年に県営の沖縄県海洋深層水研究所が設立され、深海から汲み上げる海洋深層水を産業に利用するための研究が県の事業として進められてきた。
研究成果は地元の民間企業へ技術移転され、低温で雑菌が少なくミネラルが豊富な深層水を利用し、車えびや海ぶどうなどの水産養殖業や冷熱を利用したホウレンソウの地中冷却栽培、タラソテラピー等への活用が行われているほか、化粧品や飲料水などの特産品が開発され、現在では海洋深層水関連産業で年間20億円超を売り上げる。
さらに、近年では表層海水と深層海水の温度差を利用した海洋温度差発電の実証実験が進む。
海洋温度差発電は、太陽からの熱エネルギーで温められた表層海水と海洋を循環する冷たい深層海水の温度差を利用し発電する仕組み。久米島の場合は、低沸点の媒体(代替フロン)を使用するクローズドサイクルと呼ばれる方式を採用している。沸点が低い媒体を21~30℃の表層水の熱により蒸発させ、蒸気によりタービンを回転させ発電する。発電後の媒体は、温度が8~9℃の深層水で冷却されて液体に戻り、再利用される。
久米島の海洋温度差発電実証実験プラント
「沖縄県エネルギービジョン・アクションプラン」を策定し、エネルギー源の多様化とエネルギー自給率向上を目指す沖縄県は、2012年度に久米島に100キロワット相当の海洋温度差発電の実証実験施設を建設し、技術の検証を進めてきた。さらに2016年度までに設備の経年劣化やメンテナンスについてデータを集め、実用化へ向けたコストダウン方策について検討する。
再生可能エネルギー導入が進むハワイとの連携
アメリカのハワイ州は、2030年の脱炭素社会実現を目指し、再生可能エネルギーの導入を進めている。2015年7月、沖縄県はハワイ州と「沖縄・ハワイクリーンエネルギー協力に関する覚書」を更新した。
自然環境や地理的条件の似ている沖縄とハワイは、エネルギー供給に島外から輸送する化石燃料への依存度が高いなど共通の課題が多く、持続可能なエネルギー供給の実現に向けて2010年から技術者らの交流を進めてきた。久米島の海洋温度差発電実証実験も、ハワイとのクリーンエネルギー協力で具体化した事業の一つだ。
ハワイで行われた翁長知事とハワイ州知事の調印式
久米島町で海洋深層水の複合利用計画の推進にあたる久米島町役場プロジェクト推進室の担当者は「ハワイとの連携で、海洋温度差発電実用化へ向け、より研究が進むと期待されています。現在は1日あたり1万3,000トンの取水量ですが、将来は取水量を10万トンに増やし、エネルギー自給や海洋深層水の複合利用を進めるための検討が進んでいます」と語る。
海洋温度差発電の技術確立へ向けた期待
海洋温度差発電には、表層海水と深層海水の温度差が年間平均で20℃以上ある地域が適しているとされる。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下NEDO)によると、日本の沿岸では沖縄県のほか、小笠原諸島や四国、九州の黒潮流域が海洋温度差発電に適しており、日本の海洋温度差発電のポテンシャルは高い。
「久米島での実験成果は将来ほかの地域にも応用が可能です。設備への初期投資費用やメンテナンス費用など発電にかかるコストの圧縮や、より発電効率の良い熱交換器の開発などの課題がありますが、実用化へ向けた研究開発が進められています。また、海洋深層水の水産養殖業や農業等への複合利用も含めたビジネスモデルを構築することで発電コストを吸収し、導入効果を高められると考えています」(NEDO担当者)。
「将来的に、海洋深層水を利用して水・食料・クリーンエネルギーを自給し、産業振興と雇用を創出する低炭素型コミュニティモデルを確立し、『久米島モデル』としてグリーンインフラを輸出し、世界の島しょ地域などで役立てていただくことも構想しています」(久米島町役場プロジェクト推進室 幸地伸也さん)。海洋温度差発電技術の確立に向け、久米島での研究成果に期待がかかる。
(写真提供:沖縄県商工労働部産業政策課)