沖縄県石垣市は、SDGs時代にふさわしい持続可能な観光「サステナ島旅」に挑戦しています。2023年3月24日(金)に、「東京ミッドタウン八重洲」POTLUCK(ポットラック)でトークイベント「石垣島はこう目指す。島人も旅人もうれしいサステナ島旅」が、開催されました。
進行役は離島経済新聞社代表理事・鯨本あつこ。石垣島の持続可能な観光を支えるキーマンとして、ANAホールディングス上席執行役員・宮田千夏子氏、ユーグレナ執行役員 エネルギーカンパニー長・尾立維博氏をゲストに、中山義隆石垣市長と石垣島在住の人気フォトグラファー・北島清隆さんが「サステナ島旅」について語り合ったイベントの様子をレポートします。
コロナ禍が契機に。「サステナ島旅」が生まれた背景
イベントの会場は、地域間ネットワークを築くパブリックスペースとして東京ミッドタウン八重洲に3月にオープンしたばかりの「POTLUCK YAESU(ポットラック ヤエス)」。会場では北島さんが撮影した石垣島(いしがきじま|沖縄県)の美しい風景がモニターに映し出され、時おり足を止めて見入る人たちの姿も目に留まりました。
はじめに、観光立市を目指す石垣市の中山市長が、石垣島の魅力と「サステナ島旅」の背景を紹介しました。
中山市長が思う石垣島の魅力は「生活するには十分な街があるが、車で10分も走ると誰もいない海岸や、山や川など、手付かずの自然が残っている。都会と自然の両方の良さを味わえるのが魅力」。
ところが、2013年に新しい空港が開港し、大型機やLCCなどが就航するようになると、最大で年間約100万人〜150万人もの観光客が来島。人口の20倍もの観光客が島に滞在する状況では、オーバーツーリズムとも言える事態も招いていました。
その後、2019年末に始まったコロナ禍。観光の波が一時止まったのを機に、石垣市はそれまでの観光基本計画を見直し、持続可能で付加価値の高い観光を目指す『第2次石垣市観光基本計画』を策定するに至りました。
中山市長はこうした経緯に触れ、「島にある伝統や文化・自然を生かしつつ、環境・経済・社会文化の3分野でサステナビリティを目指す観光を考えています」と結びました。
自分に、島に、地球にやさしい石垣島の「サステナ島旅」
続いて、石垣市観光文化課の玻座真(はざま)さんが、3月に実施した「サステナ島旅」モデルツアーのハイライトを映像を交えながら紹介しました。
交通・宿泊・グルメ・体験アクティビティまで、サステナビリティにとことんこだわって企画されたツアーは、次世代燃料と言われるSAF(Sustainable aviation fuel)(※)を搭載したANAの「グリーンジェット」特別機に乗り込んで、石垣島に出発。
※SAF(Sustainable aviation fuel)。バイオ燃料などの非化石燃料の一種で、持続可能な航空燃料として認定されたもの。国際航空運送協会(IATA)は2050年までに国際航空の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにするため、各国・地域にSAFの開発を支援するよう呼びかけている
石垣島での移動には、石垣島に生産拠点を置くユーグレナ社が製造・販売する環境にやさしい次世代バイオ燃料「サステオ(※)」で走るバスが利用されました。
※使用済みの食用油や微細藻類ユーグレナから抽出されるユーグレナ油脂などのバイオマス(生物資源)を原料に使用した、ユーグレナ社が製造・販売する次世代バイオ燃料
SDGsに先進的に取り組むホテルに滞在し、海洋ごみの現状を知ることができるビーチクリーンや、失われかけている沖縄伝統文化を知るサバニ体験や民具づくりを体験。古着を染め直しできる藍染め工房への訪問や、地産地消レストランでの食事など、島の魅力とサステナビリティを取り入れ、行われたツアーの様子が披露されました。
「『サステナ島旅』は、島の持続可能性を追求する上での有効な手段。多くの方に支持され、SDGsの理念にかなった石垣市独自の観光としてブランド化されることを期待します。自分に、島に、地球にやさしい『サステナ島旅』を、どうぞよろしくお願いします」と玻座真さん。
発表を受け、中山市長は「世界につながる国際観光都市としてSDGsを意識していきたい。(サステナ島旅を)観光客の皆さんに楽しんでいただきながら、私たちが残したい島の自然や文化をうまくマッチングしていければ」と、「サステナ島旅」のこれからに期待を込めました。
サステナブルな旅に欠かせない移動・グルメ・体験・宿泊のあり方とは?
続いて、持続可能な観光を考えるために欠かせない、「移動」「グルメ」「体験」「宿泊」の4つの要素について、出演者それぞれの視点から現状や今後の展望が語られました。
航空会社として多くの島へ人や物の輸送を担うANAの宮田さんは、「航空業界において最も重要なテーマは気候変動への対応です。電動化で対応する他業界と違い、脱炭素化が難しい業界と言われています。航空機運航によるCO2排出量をいかに削減できるかが課題」だと語ります。
「航空輸送自体を脱炭素化するために、ANAはSAFの活用が必須だと考えています。航空業界でSAFの利用が進み2050年度までにカーボンニュートラルを実現することを目指して活動しています。また、地域活性も重要なテーマであり、地域の課題解決に寄与し共に成長していけるよう、観光行政への社員の出向や、ふるさと納税などで石垣市と連携しています」(宮田さん)
「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を企業フィロソフィーに掲げ、事業の1つとしてバイオ燃料事業に取り組むユーグレナ社の尾立さんは、「バイオ燃料の生産者として、2025年には現在の実証プラントの約5,800倍の規模の工場を完成させ、バイオ燃料事業の商業化を目指し取り組んでいます」と話しました。
サステナブルなグルメについては、「ブランド豚として知られる『アグー豚』の飼料に島内で生産されたパイナップルやさとうきびの搾りかすを活用する試みが進んでいます」と中山市長。
海外から運び込まれる飼料の代わりに島内で出るごみを活用し、費用もCO2の排出も抑えることのできるこうした取り組みのほか、地元の魚や野菜を使うおしゃれなレストランも増えているとのこと。石垣島で広がる多様な「地産地消」のケースが紹介されました。
サステナブルな体験については、撮影やトレーニングを兼ねて年間200日ほど海に入るというフォトグラファーの北島さんが、ウインドサーフィンやSAP、カヌーなど、燃料を使わず身体と自然の力で楽しめる海のアクティビティをおすすめ。
「沖縄伝統の木造帆船サバニは、人の漕ぐ力と帆で風を受けて、風や波の力で透明度の高い沖まで行くことができる。エンジンを使わないので、船に波が寄せる水音や帆をはためかせる風を感じ、海との一体感が味わえる」(北島さん)。
「沖から島を眺めると、新しい石垣島を発見できると思います」と、石垣島のさまざまな美しさを撮影してきた北島さんならではの視点も盛り込みながら紹介。
「サステナ島旅」のモデルツアーにも盛り込まれたビーチクリーンについては、北島さんも日頃から仲間と海岸清掃に取り組んでいると言い、「(観光で訪れる方にも)協力してバックアップしていただけるとありがたいです」と語りました。
サステナブルな宿泊については、「『おきなわSDGsパートナー(※)』の認証が進んでいる」と中山市長が紹介。
美しい星空を見ることができるよう、ホテルの照明が外に漏れないよう廊下の照明をフットライトに替える宿泊施設もあるとのこと。将来的には道路や建物など、街全体に広げていければと考えているそうです。
※沖縄県がSDGsの普及活動を行う県内の企業・団体を「おきなわSDGsパートナー」として登録する制度
これからのサステナ島旅に向けたアイデア
トークイベントの終盤には、これからのサステナ島旅に向けたアイデアが語り合われました。
挙げられたアイデアは、EV車充電スポットの普及やレジャーに使う船の電動化、環境負荷の低いエネルギーの普及、ワーケーション推進による新しいビジネスの創業、マイボトルを持ち歩く人が水を補給できるスポットを増やす……など。
こうしたアイデアのほか、「世界に示すモデルとして、石垣島に来た人が意識しなくても環境に配慮した行動が取れるような仕組みづくりを進めたい」という意見が挙がりました。
ごみを減らすマイボトルの取り組みについては、石垣島ではMMO(マイボトルで水おかわり※)が進められ、参画する飲食店や施設をはじめ、石垣市役所の庁舎でも無料で給水ができることを中山市長が紹介。「ぜひ観光客の方もご利用ください」と呼びかけました。
※西表島(いりおもてじま|沖縄県)で始まった、ごみを減らす活動。容器を持参すると無料でお水を入れてもらえる『給水どころ』を地域に増やし、ペットボトルなどの使い捨て容器を減らすことを目指す。
最後に「石垣島は心と身体が癒される場所。石垣島にぜひ心と身体のチューニングをしにきていただきたい」と中山市長が呼びかけ、イベントは締め括られました。
アフターコロナに広がる観光は、これまでよりもずっとサステナブルなものであってほしい。そう感じるイベントでした。
イベントの様子はアーカイブ動画にてご覧いただけます。
【アーカイブ動画】離島からはじめるSDGs時代の観光とは?石垣市長やANA、ユーグレナらが語る「サステナ島旅」